〈パラダイス文書〉について知っておくべきこと

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〈パラダイス文書〉について知っておくべきこと

パナマ文書を公にした国際調査報道ジャーナリスト連合が、〈パラダイス文書(Paradise Papers)〉を公開した。同文書は、富裕層、政治家はじめ、何らかを隠蔽しようとする権力者が秘密裏にビジネスを展開するためのタックス・ヘイブンとして知られる〈オフショア金融〉という闇の世界を覆うベールを剥がす可能性のある最新の情報だ。

パナマ文書を公にした国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists, 以下ICIJ)が先日、〈パラダイス文書(Paradise Papers)〉を公開した。新たに公開された1340万件にものぼる同文書には、120名以上もの世界中の政治家のオフショア金融活動の情報が記録されている。そのなかには、ウラジーミル・プーチン露大統領の娘婿と、億万長者でもあるウィルバー・ロス米商務長官の関係を裏付ける情報も記録されている。

同文書は、富裕層、政治家はじめ、何らかを隠蔽しようとする権力者が秘密裏にビジネスを展開するためのタックス・ヘイブンとして知られる〈オフショア金融〉という闇の世界を覆うベールを剥がす可能性のある最新の情報だ。そのほとんどは、バミューダ諸島を拠点に活動する〈アップルビー法律事務所(Appleby Law Firm)〉から流出し、トランプ内閣のメンバー、顧問、資金提供者10名以上とオフショア金融の関係を明らかにしている。また、同文書は、TwitterとFacebookの株式を所有する投資家とロシア企業とのつながりも示唆している。

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同文書が公表された経緯は、2016年に起きたパナマ文書大量流出の経緯と酷似している。前回同様、匿名のソースが、ドイツの新聞社『南ドイツ新聞 (Suddeutsche Zeitung)』に情報をリーク。同新聞社は国際調査報道ジャーナリスト連合やその他いくつかの報道各社と同文書を共有し、日曜の午後、それぞれが同時に情報を公開した。

パナマ文書と同じく、パラダイス文書は、今後数ヶ月続くであろう、ロバート・モラー(Robert Muller)特別検察官が陣頭指揮をとるロシア疑惑についての捜査に新たな情報を提供するだろう。トランプ政権にとっては、望ましくないタイミングだ。つい先日も、Facebook、Twitterの両社が、2016年の米大統領選挙期間中、ロシアがいかにして各社のサービスを情報操作に利用したのか、米両院の公聴会で追及されたばかりだ。


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ウィルバー・ロス商務長官とプーチン大統領の取巻

ドナルド・トランプ大統領の長年のビジネスパートナーであるウィルバー・ロス商務長官は、ウラジーミル・プーチン大統領の娘婿、米国による経済制裁の対象に指定されているロシアの新興実業家 (あるアナリストがガーディアン紙に対して語った言葉を借りるならば〈プーチンの取巻〉) と関わりの深い海運会社に投資している。

ロス氏は、トランプ政権参画のさい、ほとんどの投資を引き揚げた。彼は政権内でも、大統領が掲げる〈アメリカ・ファースト〉の強力な支持者だ。しかし、流出文書によって明らかになったのは、ロシアのエネルギー会社〈シブール(Sibur)〉との取引で年間数百万ドルの売上を記録する海運会社〈ナビゲーター・ホールディングス(Navigator Holdings, Plc.)〉への、ロス氏による数百万ドルの投資だ。シブール社の株主には、プーチン氏の娘婿であるキリル・シャマロフ(Kirill Shamalov)氏、プーチン大統領の親友で柔道のパートナーでもあるゲンナジー・ティムチェンコ(Gennady Timchenko)氏が名を連ねている。

ナビゲーター・ホールディングスの、ロス商務長官が所有する株式は、今年、現上院で開かれた公聴会で明らかになった限りで、より踏み込んだ調査は受けていない。ロス商務長官の報道官によると、両者の契約が成立したのは、長官がナビゲーター社に参画した同年3月31日以前、2012年2月だ、と主張している。

トランプ政権入閣前、ロス氏の純資産は数十億ドルに上ると推定されていた。ロス氏の名前がパラダイス文書内に記録されていたのは、超富裕層が利益を得るために利用する、複雑に入り組んだ金融ツールのいち利用例であり、「エリート層による労働者からの搾取を止める」というトランプ大統領の公約とは相容れない。

トランプ大統領側近のなかで、ロシア政府に連なる関係者との密接な金銭的関係が明らかになったのは、ロス商務長官で2人目だ。連邦政府は先日、トランプ大統領の元選挙対策本部長を務めたポール・マナフォート氏を、ウクライナの親ロシア派大統領のロビー活動にまつわる12の罪で起訴、逮捕した。さらにマナフォート氏は、米政府による調査から財産を隠すための迷路のように入り組んだオフショア口座を所有していた。

ロス商務長官がロバート・ミュラー特別検察官による捜査の対象になる証拠はないものの、さらなるロシアとのつながりはトランプ政権にとって、不都合なニュースだ。

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ロス商務長官の報道官はニューヨーク・タイムズに、同商務長官は「大洋を横断する輸送船の事案にはいっさい関与していなかったが、現政権によるロシアおよびベネズエラ企業に対する経済制裁を全面的に支持している」とコメントした。

フェイスブック、ツイッターに流入したロシア・マネー

パラダイス文書は、ロシア政府が、ロシア系米国人の億万長者でシリコンバレー有数の投資家でもあるユーリ・ミルナー(Yuri Milner)氏のファンドを通じて、Facebook、Twitterへの投資に関与していたことを示唆している。

同文書が示唆するのは、クレムリンがコントロールする2企業、〈VTB銀行〉とエネルギー複合企業〈ガスプロム(Gazprom)〉がミルナー氏の投資ファンド〈DSTグローバル〉と提携して、Facebook、Twitterの株式を取得していた事実だ。2011年、VTB銀行から1億9100万ドル(約216億円)の投資を受けたDTSグローバルの子会社〈DST Investments 3〉がTwitterの株式を取得。ガスプロムの子会社〈ガズプロム・インベストホールディング(Gazprom Investholding)〉は、DSTグローバルの子会社〈DST USA II〉によるFacebookへの投資を実現した実態不透明な企業〈カントン・サービス(Kanton Services)〉に数億ドル(数百億円)を融資していた。

ミルナー氏のファンドは、2012年、Facebookの新規株式公開、2013年、Twitterの上場に合わせて両者の株式を売却し、三者ともこの取引により莫大な利益を手にした。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ミルナー氏のファンドは株式売却前にFacebookの8%以上、Twitterの5%以上の株式を保有していたという。

ロシア政府は、Facebook、Twitterの意思決定に関与しようと株式を取得していたわけではないだろうが、事実が露わになったのは、2016年大統領選期間中、ロシア・エージェントによるソーシャル・ネットワーク上での情報操作について、調査が進んでいる最中だった。

Facebook、Twitter、DSTグローバルは、VICE Newsの問いかけに直ちに応えなかった。ICIJとのインタビューのなかで、ミルナー氏はロシア企業は受動的投資家であり、「その当時はVTB銀行が当ファンドにとって単なる投資家以上の存在であるなどとは夢にも想わなかった」 と強調している。


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