佐藤康光九段や行方尚史八段に勝って自信がついた。初優勝を振り返って思うこと【八代弥六段インタビュー】

佐藤康光九段や行方尚史八段に勝って自信がついた。初優勝を振り返って思うこと【八代弥六段インタビュー】

ライター: 内田晶  更新: 2017年11月11日

今回のインタビューは、八代弥(やしろ・わたる)六段です。全4回の掲載となります。八代六段は、第10回朝日杯将棋オープン戦で自身初の優勝を達成しました。初回は、まず、初優勝の実感などをあらためて聞いてみました。

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優勝スピーチをする八代五段(段位は当時)。撮影:将棋世界

ーー昨年度は第10回朝日杯将棋オープン戦で優勝しました。全棋士参加棋戦を制した気持ちをあらためてお聞かせください。

「勝って優勝を決めた瞬間はよく覚えています。ただ、正直いって充実感のようなものはなくて妙に冷静でしたね。大盤解説会場に移動して、多くのファンの方に自分の将棋を見ていただけてよかったなという思いが強かったです。優勝した喜びを初めて感じたのは、少し時間が経ってからでしたね。打ち上げが終わって関係者の皆さんと別れて一人になってからです。『本当に優勝したんだな』って思ったら、ようやくうれしい気持ちがこみ上げてきました」

ーー大一番を迎える前はどんな心境だったのでしょうか。

「決勝を迎えたときは絶対に優勝してやるといった気持ちを抑えていました。もちろん勝つと負けるとでは雲泥の差だということは、自分にも言い聞かせていたつもりです。意識しすぎるといいことがないと感じたので、考えないようにして一生懸命指して負けたら仕方がないといった気持ちでした。むしろ準決勝のほうが緊張しました。公開対局など環境に慣れる必要がありましたから」

ーーベスト4の進出者は八代六段のほかに広瀬章人八段、村山慈明七段、澤田真吾六段といった面々でした。例年に比べて平均年齢の若いメンバーが勝ち上がりました。

「先輩に挑む構図は一次予選の1回戦から続いていましたので、気持ち的には楽でした。見ていただくのも好きですので、公開対局は自分にとって大きなプラスになったかもしれません」

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第10回朝日杯将棋オープン戦決勝戦の様子。八代五段(段位は当時)は、村山慈明七段と対戦した。撮影:将棋世界

ーー準決勝に進出するまでにも佐藤康光九段や行方尚史八段といったトップ棋士を破っています。これまで対戦が1局ずつあり、どちらも負けていました。

「2局とも私の初勝利だったので、両先生に勝てたことで自信がつきました。まぐれでも何でも勝って結果が出たのが大きかったですね。これで勢いがついたのだと思います」

ーー優勝して周囲の反応はいかがでしたか。

「師匠(青野照市九段)は私が奨励会時代から昇級や昇段をしても、あまり喜びを表に出しません。ですが、四段になったときと今回の優勝はとても喜んでいたように見えました。地元の静岡の皆さんも大いに喜んでくださり、後日、イベントで帰省したときも祝福してくださいました。私の心は静岡愛に満ちていて、感謝の気持ちしかありません」

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優勝カップを手にしての記念撮影。撮影:将棋世界

ーー師匠の青野九段にひとつ恩返しができましたね?

「師匠はタイトル戦には出場(1989年、第37期王座戦五番勝負)していますが、全棋士参加棋戦での優勝がありません。そういった意味で少しではありますが、恩返しができたのかなと思っています。師匠がワインで祝杯を挙げてくれたのが本当に嬉しくて。ひとつ結果が出ると胸を張って堂々としていられるのがいいですね。もちろん、これに満足することなく、今後も頑張るだけです」

師匠の青野九段も静岡県の出身で、同郷の弟子である八代六段の晴れ姿を見て、喜んでいた様子がわかります。

次回は、八代六段の奨励会時代の話をしていただきます。

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取材協力八代弥六段

1994年3月3日生まれ、23歳。静岡県出身。第10回朝日杯将棋オープン戦で自身初の棋戦優勝。その実績により第44回将棋大賞で新人賞を受賞。将棋は、角換わりを得意とする居飛車党。

八代弥六段インタビュー

内田晶

ライター内田晶

1974年、東京都の生まれ。小学生時代に将棋のルールを知るが、本格的に興味を持ったのは中学2年のとき。1998年春、週刊将棋の記者として活動し、2012年秋にフリーの観戦記者となる。現在は王位戦・棋王戦・NHK杯戦・女流名人戦で観戦記を執筆する。囲碁将棋チャンネル「将棋まるナビ」のキャスターを務める。

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