一晩で中国人1万人からフォロー。日本のオタク大学生をスターにした「表情包」とは

筑波大学に通う自称「オタク男子」の学生やぷらすさん(仮名、21歳)は7月末のある日、自分のツイッターアカウントの異変に気付いた。5000人だったフォロワー数が突然1万人に増えている。しかもそのほとんどが、中国人のようだ……。

フォローしてくれた一人に聞いてみたら、「中国の有名なサイトで、あなたが紹介されている」との返事が返って来た。

そう言われても心当たりがない。さらに尋ねると、「今、中国で爆発的に流行している表情包(ビャオチンバオ)の原作者はあなたでしょう」と言われた。

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今年の夏、やぷらすさんのツイッターフォロワー数が突然5000人増えた。

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やぷらすさんは趣味でイラストを描き、ネットに発表している。そのイラストを使った「表情包」が中国の若者の間で大人気だという。しかし表情包って一体何なんだ?

誰でも作れる中国版「スタンプ」

それは、中国最大のメッセージアプリ「微信(WeChat)」で使われる、イラストと文字を組み合わせた作品だった。

見た目はLINEのスタンプとほぼ同じ。驚き、あいさつ、あいづちなど、ユーザーの気持ちを表すために使われる点もLINEと同じ。大きく違うのは、ネットのツールを使えば、好きな画像と言葉を組み合わせてオリジナルの表情包を誰でも簡単に作れることと、ネットやアプリで気に入った表情包を見つけたら、直接ダウンロードして自分の微信に追加できることだ。

表情包が登場したのは結構前だが、この2年ほどで人気が爆発、政府部署やメディアによって2016年の「新語トップ10」に選ばれた。

「担任の先生」から「くまモン」まで

微信の公式ストアからもさまざまな表情包がダウンロードできる。しかし、自作したものの方が圧倒的に流通している。友達同士しか分からないネタで盛り上がれるし、個性も表現できるからだ。

大学3年生の中国人、韓潇(ハン・シャオ)さんのアプリには、寮のルームメート3人の寝顔をモチーフにした表情包が入っている。隠し撮りした先生の写真に口癖を添えた表情包は、クラスのトークルームで頻繁に使われる。これらは、狭いコミュニティーで友情を示すツールになっている。

kumamon

中国の検索サイトバイドゥに「表情包 熊」と入力すると、大量のくまモンイラストがヒットする。

一方、全国的に人気を集めるものもある。日本のキャラクター「くまモン」が中国で有名になったのも、表情包がきっかけだとされている。中国のミニブログ微博(Weibo)には、くまモンの表情包をダウンロードできるアカウントが複数あり、いずれも人気を集めている。

微博のフォロワー2万人

やぷらすさんが友達のために描いたイラストは、見知らぬ人によって表情包に加工され、中国で大ヒット。やぷらすさんも「原作の絵師(イラストレーター)」として時の人になっていた。

ほどなく、ツイッターに「中国にはあなたと話したい人がたくさんいる。微博をやってほしい」とリプライがついた。やり方を教えてもらいながら7月29日に微博アカウントを開設すると、たった1日でフォロワー1万人を獲得。その後も自作のイラストや日本語のメッセージを投稿し、現在の微博フォロワーは2万人を超えている。

やぷらすさん

大学生活のかたわら、趣味でイラストを描いているやぷらすさん。

やぷらすさん提供

実は、やぷらすさんのイラストが中国で人気になってからの一挙一動は、「絵師がツイッターのフォロワー増加に驚いている」「意味不明なメッセージを投稿した」「中国人にお礼を言って、新たなイラストを発表した」「微博のアカウントを開設した」というように、中国のウェブメディアで全て報じられていた。やぷらすさんの礼儀正しい態度にも好感が広がっていた。

当のやぷらすさんに聞いてみた。

「 僕は中国語が全くわからないということもあり、当初はツイッターに来る中国語のリプライをうっとおしいなと思ってしまうこともありました。けれど、ネット規制を超えてまで(注:中国ではツイッターはブロックされており、特殊なソフトを使わないとアクセスできない)自分に好意を持って接してくれる方々をないがしろにしてはいけないと考えるようになりました」

フォロワーには日本語を理解できる中国人も多く、中国の「オタク事情」を学ぶ機会にもなった。

「中国の方と直接交流できる機会を得られたことで、中国のオタクも自分たちと同じオタクなんだなあと強く感じました」

投稿するたびに押し寄せる大量のリプライに戸惑いつつも、「仲良くしていきたい」という。

配信する人の狙いは?

微博には、表情包を配信するアカウントが多くある。くまモンを配信するアカウントなど、超人気アカウントのフォロワーは100万を超える。

表情包は基本的に無料でダウンロードできる。自由に作れ、自由に使えるからこそここまで広がるわけだし、これだけ無料の作品があふれていると、ちょっとやそっとの素材では課金は難しい。

微信で表情包を配布する人たちには、少なくとも金銭上のメリットはない。しかし皆がやぷらすさんのように、ボランティア精神や娯楽で作成しているわけでもない。

韓潇さんは、「専用ブログで配信する人たちが欲しいのはフォロワー。表情包でフォロワーを集め、アカウントの広告価値を高める」と語った。やっぱり一部の人は、お金のためなのかもしれない。

(文・浦上早苗、韓潇)

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