ブロガー、YouTuberに続き、広告業界から重宝される「インスタグラマー」。THECOO社の調べによると、2016年のインスタグラムのスポンサード投稿の広告市場規模は2億4000万円以上という試算もある。一方で、この市場規模に群がる悪質業者も出現。1フォロワーあたりの収益や、詐欺行為の実態に迫る。
以下は、DIGIDAY[日本版]の兄弟サイト、ミレニアル世代向けのビジネスニュースメディア「Business Insider Japan」からの転載記事です。
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ブロガー、YouTuberに続き、広告業界から重宝される「インスタグラマー」。インスタを覗けば、商品を手にする女性たちの写真があふれている。THECOO社の調べによると、2016年のインスタグラムのスポンサード投稿の広告市場規模は2億4000万円以上という試算もある。
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つい先日訪れた発表会でも、インスタグラマーがプロモーションの1つとして根付いていることを感じるシーンがあった。
10月中旬、人気ブランド「マリメッコ」とコラボしたパソコン周辺アクセサリーの発表会。プレスと招待者向けの席に座ると、テック系の記者会見では見かけないような女子たちの姿があった。
発表会が始まると、スマートフォンで登壇者の写真を熱心に取っている。彼女たちはインスタグラマーだった。
第二部までの休憩時間、インスタグラマーやブロガーが集まって記念撮影をしていた。1人に声をかけると、「発表会の最中に更新しないといけなくて」と話し、忙しそうにスマートフォンを触っていた。兼業のインスタグラマーだという。
関係者によると、“インスタ映え”する商品をSNSで拡散しようと、彼女たちを招待したのだという。招待されたインスタグラマーの投稿をみると、「#PR」と書かれ、いわゆるステマ問題に対する投稿ポリシーをしっかりと守って投稿が行われていた。
間近に見る光景に、既に宣伝手法として確立されているのだと驚かされた。その後、改めてインスタグラマーの現状について取材を進めてみると、インスタグラマーを取り巻くいろいろな事実が見えてきた。
インスタグラマーの今を切り取る事柄を、3つのキーワードでまとめてみた。
キーワード1:インスタグラマーの収益は「1フォロワーあたり2円〜4円」
そもそも、インスタグラマーはどれくらい稼いでいるのか?
複数企業に取材すると、案件やフォロワー数、投稿内容によって大きく変わるが、広告費の相場は「1フォロワー=3〜4円」「1フォロワー=2~3円」という回答が寄せられた。
インフルエンサーマーケティングをする「LIDDELL.Inc」が2016年9月に公表した資料によると、 インスタグラマーの1案件あたりの平均報酬額は1万5597円。フォロワー数が5000~1万の場合は、9605円、1万~1万5000は1万9193円とフォロワー数により、報酬に大きな差がある。
10万フォロワーいれば、月に数回、案件をこなせば、専業でも生活が成り立つということか。
広告の市場規模も急拡大している。
インフルエンサーの分析ツールを提供するTHECOO社は、2016年のインスタグラマーの広告市場規模を、広告費用を1フォロワー3.5円とすると、少なくとも2億4000万円以上になると試算した。
試算の際には、国内のアカウントのうち、フォロワーが1000以上の約3000アカウントを対象に、企業からのスポンサード投稿と思われる「提供」または「PR」を含む、投稿をカウントした。投稿数は、2015年度は年間16件だったが、2016年度は年間1000件を超える規模に拡大。数字の上では四半期ごとに140%以上のペースで成長している。
THECOOはリリース文の中で「YouTuberによるタイアップ動画の本数・増加ペースを越える勢い。対前四半期140%で増加したとすると、スポンサード投稿は2017年には4000投稿を越えてくる見込み」としている。
仕事を請け負うインスタグラマーの幅も広がっている。
スポンサード投稿をしたアカウントの平均フォロワー数は、2016年7~9月は8万人。一方、2016年10~12月は6万5000人と減少した。 THECOOは人気の高くないインスタグラマーを企業が起用するケースが広がっていると分析。インスタグラマーののべフォロワー数を調査すると、ユーザーの半数以上がスポンサード投稿に触れていた。
THECOOの担当者は「広告の数が増え、フォロワーの規模が小さい人にも仕事がいくようになる(のではないか)」と語る。
キーワード2:既に出現している「悪質業者」
一方、こうしたインスタグラムのビジネスを悪用するケースもある。
消費者庁は10月末、インスタグラムに写真をアップするだけで、簡単に儲かると勧誘し、多額の金銭を払わせたとして、渋谷区のある会社名を公表した。
「あなたの写真が、今すぐお金に変わる!」とうたい、スマホで写真を撮影して稼ぐマニュアル「カシャカシャブック」を2万円で販売していた。
ブックには「月収200万以上」という実績や利用者の体験談が載っていたが、嘘だった。
この会社は電話で、消費者に対し「3日間でインスタグラムのフォロワーを 50 人以上集めた人には3万円を差し上げます」と持ちかけ、有料コース(最高150万円)にも勧誘していた。
消費者センターには、2017年1〜9月までに103件の相談があり、被害額は2500万円に上った。会社は、このビジネスで8億円を売り上げていたとされる。
キーワード3:「ブラックインスタグラマー」
インフルエンサーの企画などをするPR会社「ビルコム」は、Business Insider Japanの取材に対し、次の3点を問題に挙げる。
- 発売前の商品を転売する
- 宣伝を投稿した後に削除する
- フォロワー偽装
1は、発売前の試作品をPRした後、メルカリなどで転売する。2は、宣伝をした商品に愛着がないなどの理由で投稿後、すぐに削除してしまう。3は、「100フォロワー980円」「48時間以内に100フォロワー付与」とうたわれる偽フォロワーを買うこと。
ビルコムの担当者は、「ほかのメディアはステマ(ステルスマーケティング)が騒がれたが、インスタは騒動の後からはやり始めた。インスタの場合は、悪いと思わずにフォロワーを買っているケースもあるので、少し怖い」と話し、「一般人が増えたことでPRに関するリテラシーが低い人が大勢いる。フリーランス(インフルエンサー個人)での活動が主なので、よく分からないまま企業に言われるがままに投稿している」と指摘した。
このように急拡大するインスタグラマー市場に関しては、正負両面の進展がありそうだ。また「フォロワー偽装」問題については、フォロワーを供給する「フォロワー販売業者」がいることも分かった。Business Insider Japanでは、このインスタグラマー市場についての取材も進めている。続報はまとまり次第、記事としてお届けする予定だ。
[Business Insider Japanオリジナル記事]
(文、撮影・木許はるみ)