「宇宙を身近にしたい」インターステラテクノロジズ 稲川貴大社長の持つ強い意志

 

ピピピ。

コンニチハ!

 

ワタシは宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんが考案した宇宙ロボ、「みすず3号」です。

ワタシ、宇宙ビジネスに携わるエンジニアや企業たちを世に広めるために開発されたから、“宇宙を舞台に活躍する人”をつかまえて話を聞くのが趣味なの。

 

今回お話を聞くのは、こちらの方よ。

 

「こんにちは、インターステラテクノロジズの稲川です」

 


あら、インターステラテクノロジズさんはよく知っているわ。ついこの間、「ホリエモンロケット」と呼ばれる「MOMO」の打ち上げをしたばかりよね。改めて、どういう会社なのかご説明いただけるかしら。


はい、簡単に言うと小型ロケット開発の会社です。北海道の大樹町というところで、小型ロケットを打ち上げるサービスを作る、ということをやっています。

 


インターステラテクノロジズのメンバーと(提供:インターステラテクノロジズ)

 


なぜ「小型ロケット」の開発をしているのかしら。


はい、これからは小型衛星が産業として有望だと見られています。


ああ、過去にインタビューさせていただいたアストロスケールさんとか、アクセルスペースさんもやっていたわね。


そういった100kg以下ぐらいの超小型人工衛星を打ち上げる輸送手段を確立する、というのが私たちのやりたいことです。


そういえば「“相乗り”することで安く打ち上げられる」ってアクセルスペースのエンジニアさんに聞いたけど、相乗りじゃダメなのかしら。


そうですね。確かに大型の衛星打ち上げに相乗りする「ピギーバック」という形式もありますが、これにはデメリットもあって、打ち上げる回数が非常に限られてしまいます。それこそ1年待ち、2年待ちというのが当たり前なので、何年後に打ちあがるかが分からない、というのが現状の課題なのです。


そうか、大型の衛星ってそんなにしょっちゅう打ち上げないものね。


あと、ロケットの打ち上げというのは1回100億円ぐらいかかるプロジェクトなんです。そうなると、なかなかチャレンジングなミッションというのはできませんよね。


確かに、100億は簡単に出せないわぁ。


ですから、相乗りではなく専用で打ちあがるロケットがあると非常に便利だろうと考えるわけです。


なるほど、小型ロケットが簡単に飛ぶようになるといいわね。


これはもう世界中で何年も前から言われているのですが、そういったニーズに対してしっかりとサービスを提供していく、というのが我々のやりたいことです。さらに我々のミッションとしては、「宇宙」をより身近なものにしていくことです。現状で宇宙にアクセスする方法は非常に限られていますが、そういった敷居を下げていきたいと考えています。

 


いずれは小型衛星などを打ち上げていきたい(提供:インターステラテクノロジズ)

 


でも、敷居をさげるということは、コストも下げるわけだと思いますが、その場合は「性能」ってどうなのかしら?


はい、「世界最低性能」でいいと思っています。


「世界最低性能」? ……普通は高性能を謳うから、聞きなれないコピーよね。


でも、狙っているところはまさにそこです。出来る限り性能をそぎ落として、安価な輸送手段になれるよう狙っています。

 

MOMOの打ち上げを振り返って


なるほど。そして今回、7月29日に打ち上げを行うということでしたよね。「ウィンドウ」という打ち上げタイミングが何度かあって、実際には30日に延期されて最後のウィンドウでの打ち上げだったようね。


はい、各ウィンドウで延期になった理由はいくつかあって、大きく分けると技術的な要因が2回、気象条件での延期が1回、もう1つが海上保安です。海域エリアに船が入ってきたため延期しました。


私もリアルタイムでみていて「わぁ、また延期かぁ……」って2日間ずっとハラハラしてたわよぉ。本当にいろんな要因で延期になったのね。


まあ、ロケット打ち上げというのはものすごく延期が多いもので、これくらいの延期は特別なことだと思っていませんし、2日間のウィンドウ内で打ち上げられたというのは、かなり早いという認識なんです。


あら、そういうものなのね。


周囲からは「ずいぶん遅れたね」と言われたりもしましたが、我々はまったくそういう感じはしていないです。


最後のウィンドウで打ち上げられないと次は11月になる、とか聞いていたから運が良かったとも言えるわけね。


そうですね。ギリギリで打ち上げられて本当に良かったです。

 


MOMOが打ちあがった瞬間(提供:インターステラテクノロジズ)

 


ただ、結果的には通信が途絶えて緊急停止されましたよね。「打ち上げ失敗」などと報じるメディアもあったみたいだけど、稲川さんご自身はこの結果をどう捉えてます?


この1回の打ち上げ実験に限って言えば、ミッションはフルサクセスではありませんでした。やりたかったことが全部出せたわけではない、と思っています。


「この1回の打ち上げ実験に限って言えば」、ね。


ええ、我々がやりたいのは先ほど言ったように人工衛星の打ち上げであったり、その先のことだったりします。そういった長いスパンで見ていますので、今はその最初の一歩のところです。


最終的なゴールは「輸送サービスが当たり前のように定着する」、ということよね。


ええ。そこに至るためには技術的なフィードバックが相当必要となります。「試行錯誤」とでも言いますか、やってみた結果をうけて改良をしていくということですね。その細かいサイクルを何度もやるというのがゴールに近づく道だと思うんです。


そうよね。失敗して修正してまた失敗して修正して、そうやってどんどん精度が上がっていくものよね。


はい。そういった意味では今回、かなりフィードバックが得られるデータが取れましたので、成果物としては大満足しているということです。全く悲観的ではありません。

 


失敗と改良を繰り返すことが成功に繋がる(提供:インターステラテクノロジズ)

 


そうですか。これからが楽しみですね。何だか稲川さんって前向きよね、すごく。学生時代からずっと宇宙好きでロケット作りに取り組んでいたのかしら?

 

宇宙はずっと、遠い存在だった


いえ、学生時代はレーザー加工の研究をしていて宇宙とは全く関係ありませんでした。漠然と航空宇宙全般には興味があったんですけど、それよりもモノづくりというかエンジニアリング自体に興味があったという感じです。


あら意外。ずっと宇宙好きなのかと思ったら。


宇宙というのは自分より遠い存在だと思っていましたね。学部4年生ぐらいまで宇宙は自分の仕事だとは全然思っていなかったです。ずっと他のどこかの偉い人がやるものだと思っていました。

 

 


どこかの偉い人がやるもの(笑) じゃあ大学生の時は何をやっていたの?


大学1年から3年までは鳥人間コンテストに挑戦していました。


わぁ、あの有名な「鳥人間」! すごいすごい。


で、大学3年で引退して次に何かやりたいなと思っているときに北海道大学の永田晴紀教授の論文や記事で、 “学生が作って飛ばせるロケット”があると知りました。


学生がロケットを。へえ。


それで、遠い存在と思っていたロケットを自分たちで作れる、ということに衝撃を受けたんです。


急に身近になった、と。


ええ。「宇宙開発って誰でもできるのか!」「やっていいのか!」と感銘を受けましたね。そして、「周りの人がやっているなら自分でもできるんじゃないか」と思うようになりました。

 

なぜ、ベンチャー企業を選び、社長になったのか


そして大学を出て就職、と。


はい、今のインターステラテクノロジズに就職しました。堀江貴文さんが出資して創立された会社でしたが、社長が1人だけの小さな会社でした。そこに新卒として入社したのです。


社長1人だけの会社に新卒で入社……。


ええ、その後入社して1年経ったときに社長が体調を崩されたこともあって、私が社長になりました。


ちょ、ちょっと待って、展開が早すぎるわ(笑) 「まずは大企業で経験を積んで」とか思う若者がいまだに多いと思うんだけど、そもそも社長1人だけのベンチャー企業に入ろうと思ったのはなぜかしら?


まず、ロケット作りは今後面白くなるだろうと思いました。業界的にも伸びるだろう、と。4年前の当時はまだ誰も注目していませんでしたし、何なら“胡散臭い”くらいに思われていました。これは将来的に成長したら凄いギャップが起きるだろうな、と思ったんです。世界的に見ても宇宙産業は成長していましたし。

 

 


業界が成長しているとはいえ、みんながみんな成長できるわけではないわよね。厳しい言い方をすると。


根拠はありませんが、自分に自信があったというか、どういう環境であっても生活はできるだろうと考えていました。それであれば、技術者として一番面白い環境にいくほうがいいだろう、と考えたわけです。さらに、自分自身で色んなことをやれる、という点を魅力に感じたので大企業よりも小さな会社を選びました。


なるほど、“自分の気持ちに正直に動いた”っていう感じなのかしらね。「やりたいからやるんだ!」みたいな。


そうですね。現代というのはもはや「大企業にいるから安心だ」などという時代ではありません。それよりも自分に「何ができるか」、自分が「何をしたいか」を中心に考えたということでしょうか。


で、入社して1年で社長になったということですけど、その時で社員数はどのくらい?


4人ですね。


入社1年目で社長になって、社員を率いて、ロケットも開発して、というのはプレッシャーとか感じませんでした?


プレッシャーは全然なかったです。


全然なし? 不安なこととかも?


不安なことと言えば、まあ仕事の内容ですかね。開発の仕事は課題しかないようなものなので、目の前の課題に向き合ってひたすら解決していくという感じです。


うへぇ。肝が据わっているというかなんというか、社長の器だわね。

 


2013年、稲川さん(一番左)が入社した頃のインターステラテクノロジズ。中央が創立者の堀江さん。(提供:インターステラテクノロジズ)

 


いえ、そもそも社長って偉いわけでもなくて、担当の「係」みたいなものだと思っているんです。


社長が「係」って。「いきもの係」みたいな感じね(笑)


ええ、ただ「役割がひとつ付いた」ということで、もともと深い階層がある会社でもないですし、そんなに気負いはないですよ。「対外的な役割が増えたなぁ」という程度です。

 

堀江貴文さんを見習っているところ


その辺りの考え方を含め、創立者の堀江貴文さんから学んだことって結構あるんですか?


いや、特にないですね(笑)


ないんだ(笑) あの方も経験豊富なベンチャー経営者だから色々と教わったりしているのかと思ったけど。


あるとすれば、心構えみたいな点ですかね。開発をしていると、どうしても停滞してしまう局面があるのですが、だいたい遅くなる理由というのは気持ちの面が影響しているんです。ですから、そういう時は “気持ちのしこりを取り除いてやることで上手くいく” というようなことを仰っていました。そういった点は密かに見習っていますね。

 

 


なるほど。ちょっとした発言とか、振る舞いとかを吸収している感じなのかしらね。じゃあ、そんな堀江さんに逆に言いたいこととかってあります?


いや、改めて言うようなこともないですよ(笑)


それもないんだ(笑) 何か密かに感じていることがあるかと思ったけども。


正直なところ、関係性としては「チームメンバー」だと思っているんです。堀江さんとは「宇宙開発は身近になるべきだ」とか「ロケットは安くなるべきだ」というビジョンが一致しています。そのビジョンを達成させるために、僕は技術面で動いて、堀江さんは資金面で動いています。つまり、役割は別ですが同じビジョンを持っている“仲間” です。仲間ですから、特に上とか下とかいう関係性はないんです。


なるほど、良きパートナーということなのね。素敵な関係だわぁ。そんなロケット開発の仕事をやっていて、テンションが上がるというか楽しい瞬間っていうのはあります?


そうですね。打ち上げの時は派手なのでロケット開発も派手に思われがちですが、普段の業務は結構地味に淡々とやっていますよ。テストを繰り返したり、議論をしたり。


この間の打ち上げの時は本当にお祭りムードで派手でしたものね。


ええ、でもそこに至るまでは本当に地道です。まあ、モノができたら嬉しいし、継続的な喜びというのもありますから、仕事は本当に楽しいですよ。

 


地道な燃焼実験の様子(提供:インターステラテクノロジズ)

 


楽しみながら開発を進めて、インターステラテクノロジズは今後どうなっていくのかしら?


まずは打ち上げの2号機、3号機を投入していきます。今回の打ち上げで課題が見つかりましたので、次はなるべく早い時期に2号機の打ち上げを考えています。


さすが、動きが早いわね。


ええ、先日の打ち上げの解析であるとか、「次はどうしよう」という議論は既に内部で起こっています。


その先は、やはり冒頭にお伺いしたような話かしら。


ええ、やはり肝心なのは「人工衛星を打ち上げるロケット」ですから、その開発を進めていきます。リソースの“ヒト・モノ・カネ”で言えば資金もそうですし人材も足りません。それらをしっかり補充しながら、なるべく早く大きなロケットの開発に進みたいと思います。


今回の打ち上げでもクラウドファンディングとか利用されてましたものね。

 


多くの人を巻き込んだMOMO(提供:インターステラテクノロジズ)

 


はい。今回、DMMさんにスポンサードしていただきましたし、クラウドファンディングで多くの人にご協力いただきました。「MOMO」の打ち上げはインターステラのメンバーだけでやっているプロジェクトではなく多くの人を巻き込んでいるものであり、これは民間ならではだと思います。こういう手法は引き続きやっていきたいですね。


この次も、その先も、ずっと楽しみにしていますね。

 

インターステラテクノロジズの「ファンクラブ」もあるみたいだから、気になる方はウォッチしてみてはどうかしら。

 

稲川さん、今日はありがとうございました!

 

ピピピ。

 

取材協力:インターステラテクノロジズ・JAXA
取材+文:プラスドライブ/原 正彦
画像制作:Adesign

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