うんちを持ち歩く毎日......保育園で汚れたおむつの持ち帰り、なぜ?

    「持ち帰ったおむつを開いてうんちの状態を見てほしい」

    保育園で子どもが使ったおむつを、保護者が持ち帰るルールがある園がある。その園に通っている保護者にとっては当たり前だが、知らない人も多い。

    公道で排泄物を持ち歩く

    おしっこやうんちを吸収したおむつは数枚でもずっしりと重い。ビニール袋に包まれていても、蒸れて臭いが漏れる。保護者は、汚れたおむつを衣類とともに通園バッグに入れ、電車やバスなどを使って帰宅したり、帰り道でスーパーやレストランに寄ったりすることもある。

    「まさか公道で排泄物を持ち歩くなんて。保育園に手ぶらで行き帰りできるフランスでは考えられません」

    おむつ持ち帰りのルールに驚いたというフランス在住のライター高崎順子(@misetemiso)さんは、こう話す。実際、どの自治体のどのような運営形態の園で持ち帰りが実施されているのかを知るため、8月29〜30日の24時間、Twitter上でアンケートをとり、ダイレクトメッセージ(DM)で意見を募った。

    私立の園でも持ち帰り

    保育園のオムツ処理アンケート、終了しました!1999票(なんとなく惜しい!感…)、結果は以下の通りです。ご協力ありがとうございました!!

    園の母数による偏りを考慮する必要はあるものの、公立だけでなく、私立の認可保育園でも持ち帰りをしていることがわかる。

    また、保育園児3人の父親のりょうたっち(@ryoutacchi3)さんも、保育園の対応を調べるアンケートを実施した。

    認可保育園では、持ち帰る、持ち帰らないの対応がほぼ半々で分かれた。

    高崎さんが、寄せられた約80件のDMを分析したところ、自治体や園によって対応はさまざまだった。

    まず、布おむつの場合。おむつ自体は委託されたリース業者が回収、洗濯をし、おむつカバーのみ持ち帰りで済む園もあれば、おむつそのものも保護者が洗うルールの園、おむつを保育士が洗ってから保護者に返すという園もあった。

    紙おむつの場合は、保育園でごみとして処理する園、すべて持ち帰りの園、おしっこのおむつのみ持ち帰りの園、うんちは保育士がトイレにそぎ落としてから持ち帰りとしている園などがあった。

    子どもそれぞれの使用済みおむつを保管する方法は、園児ごとに保護者が準備したゴミ箱とビニール袋で保管したり、着替えが入っている個人の引き出しにビニール袋で保管したりと、さまざまだった。

    厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」によると、使用後のおむつの衛生管理としては「蓋付きの容器に保管」「保管場所の消毒」とある。しかし高崎さんの元に届いた保護者からのDMでは「バケツに蓋がされておらず臭いが漏れている」などの声もあった。

    なぜ持ち帰りなの?

    そもそもなぜ、おむつを持ち帰ることになっている園があるのか。BuzzFeed Newsが複数の自治体に取材したところ、処理費用の問題があるという。

    使用済みおむつは、家庭では「家庭廃棄物(家庭ごみ)」として処理できるが、保育園では「事業系一般廃棄物(事業系ごみ)」となり、処理費用が発生する。

    東京都千代田区では、認可保育園でおむつの持ち帰りはしていないが、2017年3月までは公立の認可保育園の保護者に「事業系有料ごみ処理券」をコンビニで購入してもらって園に提出してもらうことで、処理費用をまかなっていたという。1カ月310円の自己負担だった。

    私立の認可保育園では園が費用負担しておむつを処理していたため、「同じ認可園なのに公立と私立で対応が違うのは不公平では」という保護者の声を受け、4月からは保護者の負担はなくなった。

    持ち帰りか、有料の園内処理か、無料の園内処理かでも、自治体や園ごとに対応が分かれている。

    もうひとつの理由

    ただ、園によっては処理費用だけが理由でもないようだ。高崎さんはこう話す。

    「保護者が排泄物をチェックして、子どもの健康状態を把握してほしい、という目的で持ち帰りにしている園もあります」

    東京都内の公立の認可保育園に長男(1)を通わせている母親(29)は、保育士から「持ち帰ったおむつを開いてうんちの状態を見てほしい。その日に使った枚数によって子どもの生活リズムを把握してもらえるはずです」と言われた。

    「やらないと、わが子のうんちさえ見られないダメな母親だと思われそうで。でも、おむつが入ったビニール袋は蒸れて水滴がついていて気持ち悪くて、とても開く気にはなれません。夕食の時間帯に、どれがうんちのおむつなのか一つひとつ嗅いで確かめてから開けて確認するのは、苦行そのものです」

    東京都江東区は、区内の各園におむつ持ち帰りのルールがあるかどうかを、区役所などで配布している「入園のしおり」に記している。区保育課によると、保護者から問い合わせが多いため、「駐輪場の台数」や「昼寝用ベッドのシーツや布団カバーの準備」などと同様、見学の参考情報として記載しているという。

    保育士の負担は?

    さらに、これは保護者の負担だけの問題ではない。おむつ替えの後、おむつを園児ごとに仕分けて保管する保育士の負担も大きいのだ。おおざっぱな計算で、おむつ替えが1人1日6〜8回として、10人を2人の保育士でみていたとしたら、1人の保育士が1日30個以上の使用済みおむつを仕分けすることになる。

    「1日数十回も紙おむつを仕分けしている保育士がいるということです。捨てるだけの対応にすると、仕分けの時間を子どもと接することに充てられます」(高崎さん)

    衛生的には?

    また、使用済みおむつを長時間、園内に保管しておくことによる衛生面の心配もある。

    感染症対策に詳しい国立国際医療研究センターの看護師の堀成美さんは、おむつ持ち帰りの対応は、保育園など集団生活の場となる施設でのおむつ処理の原則から外れている、と指摘する。

    「おむつは外したら、あちこちにおいたり複数の人が触ったりせず、その手でそのまま袋や回収ボックスに入れます。他のものを触る前に手を洗います。子どもが触ったりハイハイをしたりするようなところに使用済みおむつを仮置きしてはいけません。子どもの衣類など他のものと一緒にしたり、長時間保管したりしないような工夫が必要です」

    「仮に下痢をしているなら、なおさら感染対策として、そのあたりに保管したり複数の人が触ったりする機会を増やしてはいけないというのが原則です」

    子育ての不条理の象徴

    「おむつを持ち帰る理由としてよく言われている、保護者による『便の状態の観察』ですが、保育士から連絡帳や口頭の説明でも足ります。自宅でも観察の機会はありますので、無理をしてまでしなくて構いません」

    堀さんはこう話し、保護者や保育士の無駄な負担を減らすためにも、紙おむつの園内処理や、家庭には持ち帰らないレンタルの布おむつを推奨する。

    高崎さんも、健康管理や愛情という名目で、保護者や保育士に負担がのしかかっていることを危惧する。

    「おむつ持ち帰りのルールを決めているのは、汚れたおむつに直接、触らない人たちなんです。調べれば調べるほど、おむつ持ち帰り問題は、子育て世代や保育の現場が置かれている不条理を象徴しているように思えてなりません」

    厚労省保育課によると、使用済みおむつの取り扱いについては、前出の感染症対策ガイドラインの「蓋付きの容器に保管」「保管場所の消毒」を示しているのみだという。園内処理か持ち帰りかは、各自治体や各施設の判断だ。

    「感染症対策として、おむつの管理の仕方の指導であり、処理の仕方を示すことは特にしていません。ごみ処理や園の規模など、地域の実情に応じて工夫していただいています」


    高崎さんは、このアンケートがおむつ持ち帰りルールの見直しにつながれば、と近くデータをまとめて公表するそうです。公表後、この記事に追記します。

    【更新】

    高崎さんのアンケートの結果報告を掲載します。

    おむつ調査結果報告1 以下連投にてシェアします。まずは調査報告書、全6枚の4枚です。

    おむつ調査結果報告1〜3で投稿されています。


    BuzzFeed JapanNews