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社説 〝コロナ不況〟を転機に 住宅着工40万戸時代に備える

 〝失われた10年・20年〟という言葉を生んだ90年代初頭のバブル崩壊から約30年が経過した。当初は業界関係者の多くが「地価は数年で下げ止まるだろう」と油断していたが、現実は資産デフレという長いトンネルの始まりだった。不動産業は先を見通す力が生命線となる。

 野村総合研究所が6月9日、新設住宅着工戸数の長期予測を発表した。それによると、今から20年後の2040年には41万戸にまで減少するという。しかし、世界同時不況となった今回の〝コロナショック〟は、経済の悪化にとどまらず「社会構造やライフスタイルに大きな変化をもたらす」(菰田正信・不動産協会理事長)可能性が指摘されている。野村総研の予測は、(1)移動世帯数、(2)住宅ストックの平均築年数、(3)名目GDP成長率の3つを大きな変動要因としたもので、〝コロナショック〟による社会構造の変革や人々の価値観の変化まで捉えた結果とは言い難い。こうした経済的要素以外の変動要因が「新設住宅着工40万戸時代」への減少トレンドを加速させる可能性は十分予測できる。住宅不動産業界はそれを念頭に、今後の事業戦略を構築する必要がある。

 コロナが終息したあとでも、例えば住宅の売れ行きが回復しなかったり、あるいは新築から中古への流れが加速し始めたとすれば、そこに介在するものは何か。人生が長期ローンで縛られることへの疑念、家を買うにしてもローン負担を少しでも軽くしておこうといった、いわば〝人生不確定時代〟への警戒感ばかりとは言えない。外出自粛やテレワークなど家で過ごす時間が多くなったことが契機となり、「住まいとは何か」をじっくり考え始めたとき、家を所有するという価値観、〝ハードの新しさ〟という価値が、従来ほどの重みを持たなくなるという人々の意識の変化も想定される。

 オフィスビル市場にも変革の波が押し寄せている。在宅勤務やテレワーク、サテライトオフィスなどが今後どのようなスピードで、どこまで普及するかの予測は難しい。しかし、「仕事の概念」が大きく変わり、勤務時間の長さや場所ではなく、社員個々人が創造する〝価値の生産性〟によって証明されるという社会変革が進むことは間違いない。その結果、企業にとってのオフィスのあり方も大きく変わる。また、これまで都心への通勤を前提に沿線や最寄り駅からの距離によって決められてきた住宅の価値にも大きな変化が生まれるだろう。

 つまり、必ずしも〝立地〟が最大要素とはならず、在宅勤務のしやすさや、仕事の能率を高める自然環境の有無、家に自ら手を加えて楽しむリノベーションのしやすさなどが大切にされるようになる可能性がある。「住宅着工40万戸時代」への備えは、量ではなく住まいの感性に注目すべきである。