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 都市活動のスマート化を図るためには、AIと人の協働が欠かせない。その際いわゆる「デジタルツイン」を発展させる格好で、AIの側からも認識できる3Dデジタル世界、あるいは物質的感覚なども反映させた、より高次の鏡像的な世界を用意するのが合理的なはずだ。人工知能の分野で提唱されている「コモングラウンド」の概念が、その成立の鍵を握る。

第1回[上編]AIと人が協働できる「3D世界」構築が日本版スマートシティーの活路

西田さんは、「AI(人工知能)」と「情報」は区別したほうがいいのだとおっしゃいましたが、改めて、両者はどう違うのですか?

西田 AIを人間に例えるのであれば、もちろん「頭脳」です。それに対し、情報というのは「神経」なんですね。神経は、信号を伝達するという重要な働きをするけれど、意思決定をするわけではありません。両者を区別しないと、今のAI時代の意味するものを見誤ってしまいます。

 人類史上、人間の仕事の中で意思決定に関わる重要な部分を人工物で再現することは、これまでできませんでした。2回目のAIブームのときは、プログラミングの高度化を行い、普通の人には高度に見えるような問題を解決できるエキスパートシステムがつくられました。しかし、それは狭い範囲に限定されたものであり、少し範囲を広げると急速に性能が低下してしまう上に、自分で学習して賢くなっていくということは、ほとんどありませんでした。

豊田 知能といっても、まだルールベースでしかないから、ということですね。

西田 そうです。ロジックを組んで、いろいろなことを丁寧に覚えさせれば、ようやく人間がやっているすごいことのほんの一部が再現できるくらいの頭脳にはなりました。しかし、センスに依存した感覚的なこと、例えば、人と普通に会話するとか、イラストを描くとかいったことは、これまでほとんどできなかったんです。

京都大学大学院情報学研究科教授の西田豊明氏(左)と、noizパートナー、gluon共同主宰の豊田啓介氏(右)(写真:日経 xTECH)
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京都大学大学院情報学研究科教授の西田豊明氏(左)と、noizパートナー、gluon共同主宰の豊田啓介氏(右)(写真:日経 xTECH)

豊田 現在はどこまで来ているんですか?

西田 会話については、ちょっとした内容ならば相手が話したことを普通に聞き取って、用事をこなせるようになりました。イラストであれば作風をまねてそれらしい高品質の作品を描けるところまでは来ました。

 今のAIブーム(注1)で、人間の諸能力のうち、視聴覚に代表される「知覚」と、高度な判断を自律的に行う「知能」の両方を、コンピューター上でも再現可能になってきた、というところでしょうか。これによって、人の表情の背後にある感情を読み取ったり、状況に応じて自動車のハンドルを切ったり加減速したりするといった、これまで人間にしかできなかった繊細な仕事をAIでこなせるようになってきたのは、すごいことです。さらにそうしたサービスを、少し勉強すれば誰でも安価に利用できるようになった。これは非常に大きな進歩です。