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なぜスズキはワゴンRにスライドドアを設定したのか? 新型スマイル誕生の背景

8月27日に発表されたスズキの新型軽自動車「ワゴンRスマイル」は、シリーズ初のスライドドアモデルだ。市場に投入された背景を大谷達也が解説。
suzuki ワゴンRスマイル スズキ 軽自動車 wagon R smile ハイトワゴン マイルドハイブリッド
Hiromitsu Yasui

今や主流はスライドドア!

スズキの新しい軽自動車であるワゴンRスマイルは、同社のロングセラーのワゴンRのスライドドア版である。

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1993年にデビューしたワゴンRは、「背が高いトールボーイスタイルなのにスタイリッシュ」というユニークな立ち位置が好評を博し、発売から20年で400万台を売り上げるヒット作となった。ワゴンRが垢抜けて見えた理由はいくつかあったけれど、軽自動車のワンボックスワゴンに多く見られたスライドドアを採用せず、いわゆるヒンジ式ドアとしたことが重要な柱となっていたように記憶している。

【主要諸元(ハイブリッドX)】全長×全幅×全高=3395×1475×1695mm、ホイールベース2460mm、車両重量870kg、乗車定員4名、エンジン657cc直列3気筒DOHC(49ps/6500rpm、58Nm/5000rpm)+モーター(1.9kW/40Nm)、トランスミッションCVT、駆動方式2WD、タイヤサイズ195/65R14、価格159万2800円(OP含まず)。

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全グレード共通デザインの14インチ・フルホイールキャップ。

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つまり、ヒンジ式ドアが売り物だったワゴンRに、敢えてスライドドアをつけたのがワゴンRスマイルなのである。

この、ちょっと矛盾しているようにも思える判断の背景には、スライドドアに対する世の中の意識の変化が関係している。

エンジンは全車657cc直列3気筒DOHC(49ps/6500rpm、58Nm/5000rpm)。

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ふたつのカメラを使った運転支援装備は全車標準。衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報機能などを搭載する。

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360°カメラは、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やナビゲーション・システムとのセットオプション(23万1000円)。

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たとえば軽規格の乗用車でスライドドア・タイプの比率は2012年に35.3%だったものが、2020年には52.3%へと急上昇。かつて商用車と見間違えられることもあったスライドドアは、いまやごく当たり前の存在に変貌しているという。

「スライドドアのほうが使い勝手がよくて好き」と、考えるユーザーも女性では5割に達しているようだ。

2トーンのボディカラーはオプション。

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運転席下あるマイルド・ハイブリッド・システム用のリチウムイオンバッテリー。

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トランスミッションはCVT。

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マイルド・ハイブリッド・システムの作動状況は、オプションの9インチ・ナビゲーション・モニターも表示される。

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シンプル・イズ・ベスト

そんな事情を背景に誕生したワゴンRスマイルは全高をワゴンRより45mm高い1695mmとすることで1330mmの余裕ある室内高を実現。これはワゴンRを65mmも凌ぐ数値である。

シャシーやドライブトレインは現行型ワゴンRとの共通点が多く、プラットフォームは最新の「ハーテクト」を採用して軽量設計と高剛性化を両立。エンジンも現行型ワゴンRに搭載されているのとおなじ「R06D」で、一部モデルにはマイルド・ハイブリッド仕様が用意される。ギアボックスは全車CVTで、駆動方式は前輪駆動と4WDから選べる予定だ。

ホワイトのカラーパネル(加飾)を使ったインパネまわり。シンプルで明快なデザインを目指したという。

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ステアリング・ホイールはチルト機構付き。

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セーフイティプラスパッケージ装着車のメーターには、フルカラーのマルチインフォメーションディスプレイが付く。

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セーフイティプラスパッケージ装着車は、ヘッドアップディスプレイ付き。

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エンジン回転数は、マルチインフォメーションディスプレイに表示される。

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そうしたハードウェア面以上に注目されるのが、内外装のデザインやカラーバリエーションだ。

ワゴンRスマイルではアクセサリーとして「ブリティッシュ・スタイル」、「エレガント・スタイル」、「カリフォルニア・スタイル」、「モダン・スタイル」という4つのコーディネーションを提案。それぞれ独自の世界観を表現している。各スタイルのデザインテーマは名称から想像できるとおりだが、これが面白いほどイメージが異なっていて、なかなか興味深い。

メーカーオプションのナビゲーションを選ぶとCD/DVDプレーヤーが付く。

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フルオートエアコンは全車標準。

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スズキの関係者に訊ねたところ、ワゴンRスマイルは当初よりこのようなバリエーション展開を想定しており、内外装はこの方針に従ってデザインされたという。

なるほど、よくよく見ればワゴンRスマイルのエクステリア・デザインは、その多くが直線と円を基本とするなど、実にシンプルな造形。どんなボディカラーでもよく似合い、さまざまな加飾(後付けできるデザイン上のアクセント)を受け入れる懐の深さを備えているのは、このシンプルなデザインのおかげだろう。いっぽうで、ショルダーライン(サイドウィンドウの下端を軸とするボディサイドのラインのこと)を高めに設定することで、キャビンの“囲まれ感”というか“パーソナル感”を演出し、商用車らしさやファミリーカーらしさを打ち消しているそうだ。

ハイブリッドは運転席の高さ調整機構付き。

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フロントシートのセンターアームレストの蓋付きの小物入れ。

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フロントシートのバックレスト裏の格納式のリアシート用テーブル。

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助手席の座面下には、スズキの軽自動車でおなじみの、取り外し可能なバケツが付く。

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インテリアのデザインも同様にシンプルで、こちらもさまざまなカリーバリエーションがよく似合っている。高価格なプレミアムカーでありながら「内装色はブラックだけ」なんてこともある一部のドイツ車とは大違いだ。

しかも、ダッシュボードやシートに使われている素材感もさほど安っぽくない。くわえて、シートの座面に比べて廉価な素材が使われることが多いマチ部分にも、座面部分とよく似た織りが入ったファブリックを使うなどしてクオリティを高めている。

リアシートはふたりがけ。

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Bピラーには乗降に便利なアシストグリップ付き。

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リアシートはスライド機構付き。

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メーカーオプションのナビゲーション用モニターには、シートベルトの締め忘れ警告も表示される。

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リアシートを1番うしろまで下げた状態のラゲッジルーム。

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リアシートを1番前に出した状態。

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ラゲッジルームのフロア下には小物入れもある。

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リアシートのバックレストを倒すと、フラットで広大なラゲッジスペースがあらわれる。

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ルーフライニングのファブリックには、ひし形の模様が描かれている。

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つまり、ワゴンRスマイルはスライドドアで利便性を改善するいっぽう、豊富なカラーバリエーションでデザイン性を高めて商品性の向上を図った新世代の軽自動車といえるだろう。

これまでワゴンRをはじめ「アルト」、「ハスラー」などで軽自動車の新機軸を打ち出してきたスズキの次なるヒット作となるのか? ワゴンRスマイルの今後に注目したい。

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文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend)