新しいマスク DJ が次から次へと現れる今、なぜそんなに多くのアーティストがマスクを着用して表舞台に現れるのだろうか、と疑問に思ったことはないだろうか。
どうやら、彼らのマスクには多くの戦略や哲学、そして愛情が込められているようだ。マスクは彼らが誰であるか、どこから来たのか、彼らの音楽が何を共有しようとしているかについての物語を表している。マスクは個人のプライバシーを保護したり、芸術家を厳しい非難の声から保護する場合もあるし、他の誰かになることによって、本来の自分よりも更にアグレッシブになれるのかもしれない。
 

・Daft Punk(ダフト・パンク)

マスクを被った DJ でまず最初に頭に浮かぶのが Daft Punk ではないだろうか。このフランスのデュオは当初、マスクを被らずに活動していたが、顔を見せることを好まず、90年代後半には今とは異なるマスクを使用するようになった。2001年にセカンドアルバム『Discovery』がリリースされた頃に、現在のロボットのマスク姿が定着した。なぜ、ロボットのような見た目になったのかというと、1999年9月9日にレコーディングを開始した際に機材が爆発し、体に大きな損傷を受けた二人は、それを治すために自身がサイボーグになる以外の選択肢がなかった、ということらしい。このストーリーや設定は徹底しており、Daft Punk と一緒に仕事をしたアーティストも、彼らのことを名前ではなく「ロボット」と呼んでいる。こうしてプライベートとアーティストを使い分けることは、自身を世間の目から切り離す方法でもあり、それによって Daft Punk というアーティストの魅力が更に増しているのかもしれない。

 

・Deadmau5(デッドマウス)

Deadmau5 こと Joel Zimmerman(ジョエル・ジマーマン)がフリーランスのウェブデザイナーだった頃、彼はマウスヘッドをロゴとして使用していたとのことだ。そしてその当時、彼はインダストリアル・メタルバンド Orgy(オージー)のウェブサイトでいくつかの仕事をしており、バンドのリードボーカルである Jay Gordon(ジェイ・ゴードン)が Joel に、もし真剣にエレクトロニックミュージシャンになるのならマウスのヘルメットを被ってステージに上がるよう言ったことから、彼はヘルメットを被り始めたという。
それから約20年後、彼は Deadmau5 としてヘルメットをかぶり世界で最も有名なプロデューサーの一人と活動している。2014年にはディズニーのミッキーマウスに似ているということから、ディズニーが Deadmau5 を訴えようとしたが、2015年に法廷外で解決している。
Deadmau5 のヘルメットは Jim Henson's Creature Shop という The Muppets(ザ・マペッツ)の作成者である操り人形師 Jim Henson によって1979年に設立された特殊/視覚効果会社が制作している。

 

・Marshmello(マシュメロ)

マスクの中身が未だ謎に包まれたままの Marshmello だが、Mashmello のファンやインターネットユーザーの中には、既に彼の正体に目星をつけている人もいるのではないだろうか。ふわふわのマシュマロを元にしたマスクは、世界中のフェスティバル会場で被られており、海外では子供たちの人気ハロウィンコスチュームにもなっている。
ジャンルを超えたプロデューサーの Marshmello は、マスクなしの姿を決して見ることができず、ステージ上でなければ話をすることすらない。
Marshmello のマネージャー Moe Shalizi は「このヘルメットの下に誰がいるのかは関係ない」と2018年にビルボードに語った。更に、「Mashmello のブランドの精神としては、一人のアイコンとしてではなく、人々の動向を象徴するもの作り出すということだ」とも語っている。

 

・Claptone(​クラップトーン)

金色のくちばしとハットが目印の Claptone(クラップトーン)。Claptone のファンが Claptone のマスクを着用する姿も最近ではよく見かけるが、マスクの中の情報に関しては彼がドイツ人であること以外分かっていない。
彼の着用しているマスクは、1656年のペストが流行していた頃に医師が着用していた「くちばしマスク」をモデルにしている。(中世の医師たちは、ペストは空気を通して感染すると信じていて、長いくちばしにドライフラワーや、ハーブ、スパイスを詰めていた。)

 

・SBTRKT(サブトラクト)

ロンドンを拠点に活動するプロデューサー。「SBTRKT」という名前は「引き算」を意味しており、SBTRKT というプロジェクトから自身の人格を差し引くという意味でつけられた、とのことだ。ロンドンで生まれたトライバルマスクの中の人物は、ケニアで幼少期を過ごし、Resident Advisor のインタビューでは「私が作る音楽は少し予想外で、マスクはその一部だ。私は本当に古い文化と新しいものの両方に興味があり、バックグラウンドは一つにとどまらず、グローバルにルーツを持っている。それは音楽を造り出す方法を刺激し、最終的にマスクはその視覚的アイデンティティーに過ぎない」と語っている。
マスクは本人同様匿名のデザイナー、ビジュアルアートディレクター「A Hidden Place」と共同で設計および制作されているそうだ。デザイナーはかつて OkayAfrica にこのように語っている。「このカラフルな形はグローバルな観点から、多くのネイティブおよび古代の社会からインスピレーションを受けている。ドゴン族の美しい仮面やコンゴのマスクにみられる三角形が好きで、さらにアステカの芸術全般の色使い、カラフルな野生動物も好きだね」

 

・Malaa(マーラ)

Malaa については謎だらけでほとんど情報がない。フランスのプロデューサーであることは判明しているが、身元を隠すために常時目出し帽を着用しており、更に彼は Mashmello とは異なり、マイクで喋ることもない。レーベルのミーティングにも現れず、フェスティバルの舞台裏にも現れないので彼の素性を知る人物は本当に少ないのかもしれない。唯一彼のパーソナリティーを知ってる人物がいるとするならば、それは彼と懇意にしている DJ Snake(DJスネーク)と Pardon My French のクルーだけだろう。なぜ彼は目出し帽を被るのだろうか? 謎が深まるばかりだ。