「新人に戻った気分」キャリア26年の矢内理絵子女流五段が感じる自分の変化

「新人に戻った気分」キャリア26年の矢内理絵子女流五段が感じる自分の変化

ライター: マツオカミキ  更新: 2020年01月24日

ローソンのデザートを食べながら、和やかな雰囲気で女流棋士にお話を聞くこのシリーズ。ローソンの定番デザートとなったバスク風チーズケーキ「BASCHEE(バスチー)」を、矢内理絵子女流五段に食べていただきながらのインタビューです。2019年4月に出産・育児による休業から復帰し、「新人に戻った気分」になった話や、矢内女流五段の前向きな姿勢の源についてもお話いただきました。

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「新人に戻った気分」復帰して感じたこと

――本日はバスチーを食べながらお話できればと思います。甘いものは普段から召し上がりますか?

子どもが生まれてからは、こっそり食べていても見つかってしまうので、食べる機会が少なくなりました。だから、今日はバスチーを食べるのを楽しみに、お腹を空かせてきています(笑)。

――それは良かったです! お味はいかがでしょうか。

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バスチー、初めて食べましたが、チーズの味がしっかりしていておいしいですね! 食べ応えがある濃厚さです。もともとチーズケーキが大好きだったんですが、最近は子どもが好きなショートケーキを選ぶことが多いので、久しぶりに食べられました。嬉しいなあ。

――お子さん、2人いらっしゃるんですよね。

はい。上の子が年少さんで、下が2歳。どちらも男の子です。下の子も成長してきたので、意外と下の子が強かったりするんですよ。最近は2人で喧嘩をするようになって、それを見ているのがおもしろいですね(笑)。

――2019年4月に産休・育休から復帰されましたが、復帰してみて何か感じたことなどはありますか?

将棋を指す感覚も錆びついているし、制度が変わっている部分もあって、なんだか新人に戻った気分でした。2016年11月からお休みに入ったので、もう2年半ぐらい経ってますからね。その前も上の子の出産時に1年ほど休んでから4カ月間だけ復帰して、その後すぐに下の子のお休みに入ったので、それも合わせるとかなり長期間のブランクがあります。

――復帰から数カ月経って、感覚は戻ってきましたか?

だんだん慣れてきた感じはありますが、感覚はなかなか戻らないですね。タイトル戦に出ていた頃と比べると、頭が働いていないのが自分でもわかります。今はまだ、リハビリのような状態です(苦笑)。

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「今、対局がとても楽しい」休業前と今で変わったこと

――4月に復帰して新たなスタートを切ったと思いますが、お休みの前後で、将棋に対する想いや姿勢に変化はありましたか?

今、対局をするのがとても楽しいんです。子どもが生まれる以前は研究や勉強、対戦相手のことを調べるなど、将棋の事だけを考えて生活していました。その時ももちろん楽しんではいたのですが、生活のすべてを将棋に捧げている分プレッシャーも大きかったんです。「勝ちたい」という気持ちが強くなりすぎていました。

今は、子育てとの両立でなかなか研究の時間がとれないこともあって、変に気負うことなく、純粋に相手の指す一手一手を楽しく読んだり考えたりしています。以前よりも客観視できている感覚が楽しいんです。

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――昔とは違う向き合い方になっているのが、おもしろいですね。

子どもの影響もあるかもしれません。子ども達が遊びや勉強に対して純粋に一生懸命に取り組む姿を見て、自分ももっと真っすぐな気持ちで将棋に向き合わないといけないな、と教わりました。子どもって、自分が忘れてしまっていたような「大事なこと」を教えてくれるんですよね。

――子育てと将棋の両立の中で、オフの時間はとれていますか?

なかなかちゃんと時間をとることは難しいのですが、私にとっては主人とゆっくり話をしたり、一緒にストレッチやヨガをしたりするときがリラックスタイムです。精神科医の主人も忙しいので、夜遅い時間に少し話すだけですけどね。あと、夫婦ともにお笑いが好きなので、和牛さんやナイツさん、サンドウィッチマンさんなどの好きなコンビの漫才を見て笑ったりするのも大事な時間です。

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「将棋の世界に入れて、タイトルを獲れて、私は運が良い」そう思うきっかけ

――これまでの将棋のキャリアの中で、最も苦しかった時期はいつでしたか?

最も苦しかった時期‥‥、あまりなかったかもしれません。タイトル戦に出ていたような頃は常に苦しんでいた気もするんですが、もしも昔の自分にアドバイスするとしたら「もうちょっと頑張って真剣にやりなさい」と言ってあげたいです。あの時も自分なりに本気で向き合っていたし、苦しんではいたけれど、もっと苦しんでも良かったのかな、と。

――「もっと苦しんでも良かった」というのは、どのような想いがあるのでしょうか。

周りの棋士や女流棋士の方々と自分を比べたときに、私は割と翌日にはケロッと立ち直るタイプでしたが、周りには2~3日寝込んでしまうほど落ち込む人もいました。今の里見香奈女流四冠や、タイトル三冠保持者の西山朋佳奨励会三段といった若い世代のストイックさを見ていると、自分はやった気になっていただけで甘かったんじゃないか、とも思います。‥‥とはいえ、当時に戻りたいとは思わないですけどね(笑)。自分は自分の道を進むしかないので。

――落ち込んでも翌日に立ち直るとおっしゃっていましたが、もともと前向きなタイプですか?

そうですね。私は割と運が良い人生だと思っているので、気持ちの切り替えも早いのかもしれません。運だけで生きてきた、みたいな(笑)。

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――「運が良い」と思うようになったきっかけはありますか?

母の運を分けてもらっているような気がするんです。

――お母様の運、ですか。

はい。実は、私が19歳の時に母が亡くなったんです。当時母はまだ50歳で、きっとやりたいこともいっぱいあった中で私を育ててくれていたと思います。私がもうすぐ成人を迎え、母にとっても第二の人生のスタートだという頃に病気で亡くなってしまって。だから、きっと母が、自分の運を私に分けてくれたんだなって思いました。

将棋の世界に入れたこと、タイトル戦に出られたこと、タイトルを獲れたこと、これらもすべて運が良い証拠です。そして、将棋だけに人生をささげようと思っていた時期に優しい主人に出会い、結婚できて子どもも授かった。これも運が良かったですね。母から分けてもらった運があるから、私は運が良い。その運を、大切に使わなくちゃって思ってます。

――最後に、2020年の目標を教えてください。

2020年の1月で40歳になり、40代のスタートです。10代20代と一生懸命に将棋をやってきて、30代で結婚出産と人生の転機がありました。40代も子育て中心にはなると思いますが、もっと「自分のために生きる」をテーマにしていきたいと思っています。せっかく将棋ができるチャンスや環境をいただいているので、子育てしながらも自分のペースで将棋に向き合い、楽しんでいきたいです!

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まとめ

「私は運が良いんです」とおっしゃっていた矢内女流五段。「運が良い」と思える前向きな気持ちこそが、矢内女流五段の気持ちの強さと優しさにつながっているのかもしれないと感じました。そして、「BASCHEE(バスチー)」を差し入れてくれたローソンクルーのあきこちゃんには、素敵なメッセージをいただきましたよ。

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取材協力矢内理絵子女流五段

1980年1月10日生まれ。埼玉県行田市出身。(故)関根 茂九段門下。 1993年4月1日、女流2級。2014年2月21日、女流五段に昇段。2008年7月より行田市観光大使。

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ローソン×日本将棋連盟 コラム

マツオカミキ

ライターマツオカミキ

2014年からライターとして活動する平成元年生まれ。28歳にして初めて将棋に触れました。将棋を学びながら、初心者目線で楽しさをお伝えします!普段は観光地や企業、お店を取材して記事を執筆中。

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