狙うは1950-60年代
筆者は1950年代から60年代に作られた「実用時計」が大好物だ。この時代の時計は、手作業の良さを残しつつも、きちんと使えるものになっている。もちろん、今の時計ほど丈夫ではないが、気を使えば十分普段使いが可能なのだ。日本には、ほかにも魅力的なアンティークウォッチショップが山のようにある。しかし、江口時計店のユニークさは、この時代に作られた実用時計が、群を抜いて揃っていることなのだ。しかも、時計師を抱えているため、メンテナンス体制も十分だ。では、そんな江口時計店のストックから、普段使いがてきて、しかもちょっとひねくれている時計を選んでみたい。
OMEGA cal.550 1960年代製
1960年代に作られたオメガの自動巻き。ケースは金張りで、裏蓋はねじ込み式だ。さすがに現行品のような防水性能は期待できないが、気密性が高いため、高温多湿の日本でも安心して使える。注目すべきは、6時位置に見える「COCA COLA」のロゴ。「スタンダードでも、少し違うものが入ると個性が出てくる。オモシロイと思って仕入れました」(江口氏)。ムーブメントには傑作のCal.550を搭載。マニアだけでなく、少し変わった時計を探している人にもおすすめの1本だ。Ref.LU6304。SS×金張りケース。自動巻き(Cal.550)。¥261,800
IWC ref.803A cal.854 1967年製
江口氏が「死ぬ気で集めてます」と語るのが1950年代から60年代のいわゆる「オールドインター」だ。愛好家御用達と思われがちだが、頑丈で精度も出るし、SSケースのモデルを選べば、日本でも安心して使うことができる。これは、江口時計店らしいひねりの入った1本。ムーブメントは傑作854。日付つきは多いが、これはあえての日付なし、しかもローマ数字インデックスの組み合わせだ。独自のペラトン自動巻きはデスクワークでもよく巻き上がる。Ref.803A。SSケース。自動巻き(Cal.854)。1967年製。¥305,800
Cartier Tank louis Cartier LM 1970年代
江口時計店と言えばカルティエ。盗難被害にあったとはいえ、魅力的な個体はまだまだある。これは1970年代のタンク ルイ カルティエ。これぞタンクというデザインに、ベーシックな手巻きムーブメントを合わせている。この時代のタンクは非防水。扱いには少し気を使うが、非防水ケースならではの、メリハリのきいた造形は今なお魅力的だ。LMサイズと言えども、今の水準からするとやや小ぶり。男性だけでなく、女性にも似合うサイズだ。18KYGケース。手巻き。1970年代製。¥878,800
Rolex Ref.1803A Cal.1556 1968年製
アンティークロレックスでもっとも魅力的なもののひとつが、日付と曜日を備えた「デイデイト」だ。これは1968年製の18KWGモデル。「ホワイトゴールドは大人の選択」と江口氏が語るとおり、宝飾時計とは思えない落ち着きを見せる。ポイントは、インデックスにあしらわれたダイヤモンド。1960年代の時計としては珍しく、6時位置と9時位置にはバゲットダイヤモンドが使われている。搭載するのはロレックスの名を轟かせた名機15系だ。Ref.1803A。18KWGケース。自動巻き(Cal.1556)。1968年製。¥1,860,000
AUDEMARS PIGUET ref.61650 Cal.K2121 1970年代
これぞ江口時計店なチョイス。オーデマ ピゲのCal.2120系は、薄型自動巻きの最高傑作。ロイヤル オークに搭載されたこのムーブメントは、そもそもは極薄時計用だった。これは、その2121をシンプルなケースに収めたドレスウォッチ。1970年代の薄型時計としては珍しく、ねじ込み式のケースバックを備えている。防水性能は期待できないが、普段使いは十分可能である。一生使える高級時計。価格もかなり魅力的だ。18KYGケース。Ref.61650。18KYGケース。自動巻き(Cal.K2121)。1970年代製。¥602,800
広田雅将(時計ジャーナリスト)
1974年大阪府生まれ。時計専門誌『クロノス日本版』編集長。一般誌にも寄稿多数。
江口洋品店・江口時計店
東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目34−11
電話番号:0422-27-2900
営業時間:11:00-19:00
定休日:火曜
文・広田雅将 写真・UTSUMI