weber主宰者・池田仁インタビュー 古着への飽くなき愛と「大Tシャツ展」への思い

店舗形態をとらず、都内の商業施設内を中心にポップアップストアを展開する“ノマドな古着屋”weber。年に1〜2回程度行うイベントの中でも特に注目を集めるのが、古着Tシャツに特化したポップアップストア「大Tシャツ展」だ。本イベントでは映画、音楽、アートなどのジャンルを中心に、数百枚から千枚近くの古着Tシャツを販売。中には数十万円のレアなTシャツもあるが、その枚数や他店では見ることができないラインアップで、買うだけでなく、見るだけでも楽しむことができる内容となっている。

6月17〜30日に渋谷・MIYASHITA PARK内の「TOKiON the STORE」と、「TOKION」オンラインストア(実店舗の営業時間外である21:00〜翌11:00のみオープン)で「大Tシャツ展」を開催するにあたり、weber主宰の池田仁にこれまでの活動を振り返るとともに、今回の意気込みなどを語ってもらった。

――そもそも池田さんが古着と出合ったのはいつ頃だったのでしょうか?

池田仁(以下、池田):高校生の時です。当時は古着ブームで、僕もまんまとその流れに乗っていました。学生だしお金もなかったので、シカゴみたいな良心的な価格のお店に通っていました。

――その時からTシャツへの思い入れが強かったんですか?

池田:いや、僕は北海道出身なので、Tシャツにあまりなじみがなかったんですよ。ハマったのは沖縄の大学に通い始めた後です。今はもうないんですけど、国際通りにすごく良い古着屋があって、そこに通いつめてスケートブランドのものやロックTなんかを買いあさっていました。Tシャツは店員さんとも話していくうちに理解を深めて、より好きになっていくアイテムですよね。

――Tシャツのどこに魅力を感じたのでしょうか?

池田:グラフィックものが好きだったんですが、単純に見た目が良くて、着れば1枚でさまになるのは大きかったです。これを着ていたらOKみたいな。ある種のブランド力みたいなものがあるかもしれませんね。

――weberの店名は写真家のブルース・ウェーバーが由来だそうですね。ブルース・ウェーバー関連の古着Tシャツは以前から高い値段がついていますが、出合ったきっかけはなんでしょうか?

池田:社会人になった時に通っていた美容室の担当の人が古着好きで、ブルース・ウェーバーの『サマー・ダイアリー』という作品のTシャツを着ていたんです。「なんだこれ、めちゃくちゃかっこいいな」と思って、どんどん好きになっていきました。

――weberのInstagramの投稿でも、ブルース・ウェーバー本人からいいねをもらったとか。

池田:2018年にweberを始める時に、目標を立てたんです。1年目で人気店になるぞ! 3年目でブルース・ウェーバーと一緒に仕事するぞ! みたいな。まだその目標はかなってないですけど、認識してくれているのかもと思うと嬉しいですね。

長年の古着愛を原動力に始めたweber

――weberを始めたのはどのような経緯だったのでしょうか?

池田:そもそも僕は古着と出合ってから1回も浮気していないというか、ずっと好きなままなんです。それは社会人になってからも変わらなくて。2001年に新卒で東京勤務の仕事を始めたんですが、そこからもっと古着屋に通いつめるようになったんです。

――Tシャツをめがけて?

池田:そうです。毎週のように高円寺や原宿に行っていました。2011年にZOZOに転職してからも変わらず好きで、買ったり売ったりをしながら、いつか自分で古着屋をやりたいという思いがずっとあったんです。そして会社が2018年に副業を解禁したタイミングで、今も一緒にweberをやっている上司に相談したら、「やったほうがいいよ」と言われてどんどん話が進んでいったんです。

――副業解禁後、すぐにweberを始めたんですね。

池田:最初にweberを開いたのが2018年4月1日です。本当はブルース・ウェーバーの誕生日である3月29日にやりたかったんですけど、結局会場がおさえられませんでした。1日限定で、基本的に僕が仕入れたものと、あとは仲間が委託してくれたものを展開していましたね。300枚くらいあって、ラインアップも今と大きな差はありません。

――その後も不定期でポップアップストアを展開していますが、どのように活動が広がっていったんですか?

池田:商品自体にパワーがあったからか初回から並びが出たのですが、縁にもとても恵まれたと思っています。当時、weberのInstagramフォロワーはまだ100人台程度だったのですが、知り合いのoffshoreの的場(良平)さんがストーリーズにあげてくれて、それを見たスタイリストの二村毅さんが来てくださったんです。二村さんはちょうど開業したばかりのヒビヤセントラルマーケットのアドバイザーをしていたんですが、フロアの一角でイベントをやらないかと誘ってくれました。その約2ヵ月後に第2回を開催した頃からメディアで記事にしていただいたり、セントラルマーケットでもたまにイベントをやらせてもらったりしているうちに広がっていったんです。

映画Tシャツを豊富にそろえた今回の「大Tシャツ展」

――約1年ぶりの開催となる「大Tシャツ展」ですが、今回のラインアップをご説明いただけますか?

池田:1000枚近く用意しましたが、中でも映画Tシャツはとにかくたくさん集めました。おこがましいですけど、これだけの量が一度に集まるのは世界的に見てもそんなにないと思います。

――今回、特に気に入っているTシャツはなんでしょうか?

池田:たくさんありますが、『アメリカン・ヒストリーX』や『メメント』は気に入っています。『レインマン』のTシャツは、長年映画Tシャツを探してきた中でも初めて見たので、かなりテンションが上がりましたね。もう一度探せと言われても見つからないアイテムもたくさんあるので、そういうのは売れなくてもいいと思っています。

――好きな映画作品で言えばどうでしょうか?

池田:学生時代にたまたま観た『カッコーの巣の上で』ですね。当時、沖縄のテレビは放送局が3つくらいしかなかったんですけど、深夜にたまたま流れていて、ついつい最後まで観ちゃったんですよね。すごく思い出に残っています。今回、『カッコーの巣の上で』は2枚あるんですけど、両方ともこれ以外見たことありません。正直、これも売りたくないです(笑)。

――2000年代以降の映画もありますよね。

池田:そうですね。例えば『犬ヶ島』は2018年の作品ですけど、自分達が良いと思ったものは年代問わず、セレクトすることを心掛けています。

――Tシャツって、単純に好きなモチーフだから着るというだけでなく、グラフィックに引かれて調べていくうちに、元ネタの作品が好きになるということもありますよね。

池田:新しい作品に出合うきっかけにもなればいいなと思います。最近は家にいることも多いですし。

――映画以外のラインアップはどうしょうか?

池田:ブルース・ウェーバーのTシャツもたくさんそろえました。あとは音楽やアート、企業ものなどもあります。でも、例えば音楽でいったら“ザ・ロックT”みたいなものは、あんまりないかもしれません。値段的に買いやすいものもたくさんありますし、人とはかぶらないだろうデザインのTシャツも用意してあります。そういう古着特有の“オンリー・ワン”の魅力や、たくさんの中から自分にぴったりのものを“掘る(Dig)”楽しみみたいなものも体感してもらえればと思っています。

“他のお店がやらないことをやる”ことと、“好きなものを扱う”こと

――古着でも高騰したり、例えばバンドTでもあるジャンルが突然人気になったりすることがあります。池田さんはそのようなトレンドをどのように感じ取っていますか?

池田:正直、あまり考えたことがありません。映画Tシャツも、まとめて置いている店があんまりなかったけど、自分は昔からずっと好きなのでどんどん買っていたら集まったという感じです。weberはイベントごとにコンセプトを設けて、過去には文字やタイポグラフィーにフォーカスしたり、アート系に絞ったアイテムを展開したりしましたけど、結局はトレンドではなく、自分達が“おもしろい”と思うものを置いているんです。

――“他のお店がやらないことをやる”ことと、“好きなものを扱う”ということに帰結するんですね。

池田:映画Tシャツもなんでもかんでも買っているわけではなくて、“好きなもの”という軸はブレていません。ホラー系の映画はあんまり好きじゃないから集めていないですし、海外だと人気がある『プレデター』とかも正直あんまりピンときませんでした。それにヴィンテージだと「このタグが良い」とか「こういう縫い方が良い」というような判断基準があると思いますが、僕等は単純に“好きかどうか”“おもしろいかどうか”を優先して選んでいます。年代が新しくて価値が確立されていないものでも、カッコよかったらいいかなと。weberは半分趣味、半分商売でやっているので、別に売れなくても自分達で着ればいいかなって感じでやっています(笑)。そういうパーソナルな部分も大きい分、weberの活動を応援していただけたり、皆さんが喜んでくれたり、共感してくれることが本当に嬉しいんですよね。

――自分で着ればいいやという精神なんですね。

池田:僕等がこれだけのアイテムを集められるのは、経済的な面で言えば、店舗の維持費や人件費がほとんどかからない分、自分達が欲しい! と思ったものにお金をかけられるからなんです。損をせず、500ドルで買って550ドルくらいで売れたらいいやくらいの感じでやっていたりもします(笑)。

――最後に、改めて今回の「大Tシャツ展」の意気込みをお願いします。

池田:こういう情勢なのでおおっぴらには言いにくいですけど、ウェブでも店舗でも、おのおの楽しんでほしいというのが一番です。見るだけでも楽しいと思いますし、新しい発見があったり、Tシャツを通してのめり込めるものに出合ったりすることもあるんじゃないかと思います。

weber
“好き”を追求して、好きなヒトと好きな場所で好きな時に好きなモノを集めた“ノマドな古着屋”。ヴィンテージTシャツをアーカイブし、不定期開催でポップアップを開催。アーカイブした古着をベースに新品も製作しており、昨年の映画『mid90s』に続き、今年7月には同じくA24製作の映画『THE LIGHT HOUSE』とのコラボTシャツも発売予定。
Instagram: @weber71_

■大Tシャツ展
会期:6月17〜30日
会場:TOKiON the STORE
住所:東京都渋谷区神宮前6-20-10 MIYASHITA PARK 2階
時間:11:00〜20:00(「TOKiON the STORE」) / 21:00〜11:00(「TOKION」オンラインストア)
※緊急事態宣言などの影響により、日時が変更になる場合がある。

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ヴィンテージ好きに、古着Tシャツとの出合いを振り返った上で、今回の「大Tシャツ展」で気になるアイテムを選んだもらった。

岡本大陸(「ダイリク」デザイナー)

古着が好きになった高校生の頃、大阪にあるアメ村の古着屋に行き、最初はなんとなくヴィンテージのTシャツを買って着ていました。本格的に集め始めたのは上京してからのことなんですが、僕自身、映画好きということもあって古着屋さんに行って最初に掘るのは、Tシャツがあるゾーンから。そして好きな映画Tを発掘すると、財布のひもが緩んでしまいます(笑)。リアルに着るのもありますし、サイズが小さくて着られないけど好きな映画だからどうしても欲しくて、保管しているのもあります。その日の気分に合わせて身に着けることで、その映画を背負った気分(主人公の気分)になれるのが映画Tの良さだなと思います。映画Tとの出会いは、映画の発見にもつながるので僕にとっては“宝物”です。

源馬大輔

中学の時に「チャンピオン」のダブルフェイスを買ったのが最初だったと思います。

佐野玲於(GENERATIONS from EXILE TRIBE)

小学生の頃にダンスを始め、音楽と出合いました。ダンスを始めた頃、なんとか買えるものが古着くらいしかありませんでした。 地元が中野なので、お小遣いをもらったらそこから自転車で高円寺に行ってスポーツ系の古着を入り口に、好きなヒップホップ・アーティストの T シャツを集めていきました。また、バンドをやっていた父からヨーロッパのバンド T シャツももらっていました。

そこから、好きな映画や写真家や企業ものなど、自分の好きな物を身につけるようになりました。主に日本の古着屋、海外に行った時はそこの古着屋、インターネット等も駆使して購入しています。海外のディーラーの友達から「レオこれ持ってないだろ?」とメールでオファーをもらうこともよくありますが、 古着市場の価格高騰が激しくて頭を抱えています(笑)。weberさんには「どこからこんなに集めているのだろう?」というようなビックリするラインアップでいつも楽しませていただいています。これからもさまざまなアイテムとの出合いを楽しみにしています!!

TEPPEI(スタイリスト)

スタイリストになる以前に在籍していたヴィンテージショップにて手に入れた、デヴィッド・ボウイの半袖スウェットTシャツ。生まれ年の1983年の作品であったのもあり、手に入れました。スウェットTシャツ、というところがひねくれてますね……。

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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