ネット民意
動かすのは誰
「リベラル」「保守」
それとも...

新型コロナウイルスへの政府の対応や検察庁法改正案への批判など、ネット投稿が民意としての影響を強めている。外国人排斥で過激な主張をする「ネトウヨ」(ネット右翼)の存在も注目を集める。

ネット上の民意はどのように生まれ、誰が動かしているのか。日本経済新聞社データエコノミー取材班は、東京大大学院の鳥海不二夫准教授、データ分析会社のホットリンクの協力を得て日本のツイッター上の投稿状況を分析した。

※主に政治的な意見を含む投稿を分析対象とし、直近の選挙(東京都知事選)に重なる期間に、候補者に関連するキーワードを含んだ投稿を抽出した。

意見はどう広がるのか

リツイートで拡散

ツイッターの投稿は、他の利用者がリツイート(転載、RT)することで拡散する。リツイート数が多いほど、ネット上に表示される機会が増える。

投稿行動が似た集団 いくつも存在

注目度の高い投稿のリツイート状況を分析すると、常に同じような投稿に興味を示すことが多いなど、情報収集の仕方が似ているアカウント(投稿者)が一定数ごとにかたまって存在することが分かった。

これらの集団を「コミュニティー」と呼ぶことにした。それぞれの特質やネット世論全体への影響について、6月11日~7月5日までの投稿状況の分析をもとに調べた。

大小300のコミュニティー

ツイッター上の投稿行動が似たコミュニティーは、大小300近くの存在が確認できた。

その中で、特にリツイート数が多く、影響力が大きいとみられる5つに注目。主な投稿の内容や投稿者の属性などをもとに、独自に分類したうえ、それぞれの特徴を示す名前も付けた。

5大コミュニティーとは

リツイート数は109万で1位のリベラルコミュニティー リツイート数は26万で2位の保守コミュニティー リツイート数は17万で3位の専門家コミュニティー リツイート数は7万で4位のメディアコミュニティーとリツイート数は6万で5位のサブカルチャーコミュニティー

リツイート規模1位は「リベラル・左派」

最もリツイート数が多かったのは、原発反対や護憲など「リベラル」や「左派」といわれる政治的な話題を好むコミュニティーだった。夫婦別姓や弱者保護にも関心が高いことが、頻出ワードからみてとれる。東京都知事選の候補者の名前もあった。

リツイート規模2位は「保守・右派」

次に多いのは、憲法改正や集団的自衛権に肯定的な「保守」や「右派」といわれる政治的な立場の発言が多いコミュニティーだ。外国人の排斥などに関する過激な主張をする「ネトウヨ」と呼ばれる層も、この一部に含まれる。

3位は医師や学者など「専門家」

3つ目は、医師や弁護士、学者など「専門家」や、各分野の専門的な話題を好む人々のコミュニティー。特に新型コロナウイルスの流行以降、急速にリツイート数を伸ばして注目が高まった。

4位「メディア・ブロガー」
5位「サブカルチャー」

4つ目は、メディア関係者やブロガー、読者らの「メディア・ブロガー」コミュニティー。

5つ目は、映画や音楽などの話題に関心が高い「サブカルチャー」コミュニティーだ。

声の大きさ≠影響力

各コミュニティーのリツイート元が内部か外部かをチャートで表す リベラルは内部から53%・外部から47%。保守は内部から33%・外部から67%リツイートされている 専門家は内部から16%・外部から84%。メディアは内部から5%・外部から95%。サブカルは内部から3%・外部から97%リツイートされている 各コミュニティーのリツイート総数のチャート 各コミュニティーのリツイート数とアカウント数のチャート 5大コミュニティーのアクティブユーザーのアカウント数はそれぞれ全体の1~2%にあたる 各コミュニティーが持つ1389万のアクティブユーザーへの影響力は? 各コミュニティーへのアクティブユーザーのリツイート率をチャートで表す

各コミュニティーは、どんな投稿をリツイートしているのか。その内訳を分析し、関心の傾向を探った。「リベラル・左派」や「保守・右派」がリツイートした投稿は、自分と同じコミュニティーから発信されたものが多かった。一方で「専門家」など他の3コミュニティーは、外部発信の投稿をリツイートすることが大半だった。

内向き姿勢の「リベラル・左派」「保守・右派」

「リベラル・左派」と「保守・右派」は、コミュニティー内からの投稿を好む。リツイートのうち3~5割が、同じコミュニティーから発信された投稿だった。

自分と似た価値観の投稿に強い関心を注ぐ、内輪受けの傾向が強いともいえる。

「専門家」などは、外部に関心

対照的に、「専門家」や「メディア・ブロガー」「サブカル」は、同じコミュニティーの投稿をリツイートすることは少ない。その割合は3~16%にとどまる。

彼らがリツイートする大半は、外部から発信された投稿だった。興味や関心の対象が広いようだ。

リツイート数でコミュニティーを比較

リツイート数のトップは「リベラル・左派」で109万、「保守・右派」が26万、「専門家」が17万と続く。

アカウント数でみると一変

各コミュニティーを構成するアカウント(投稿者)数を割り出すと、「メディア・ブロガー」が32万で最も多く、2番目は「専門家」。「リベラル・左派」は11万で、5つの「コミュニティー」で最も少なかった。

普段から活発にリツイートし、情報収集に積極的な「アクティブユーザー」は約1389万アカウントある。5大コミュニティーはアカウント数でみると約12万~32万アカウントで、全体に占める割合は1~2%だ。

いわゆる〝ネトウヨ〟と呼ばれる人々は「保守・右派」の一部に含まれ、実数は多くても全体の1%程度とみられる。

ネット民意への影響が大きいのは?

各コミュニティーの声には、どれほど影響力の差があるのだろうか。

それぞれの投稿に関し、アクティブユーザーが関心を示してリツイートした割合(リツイート率)を算出。ネット全体への波及力を比べた。

専門家の投稿に関心高く

アクティブユーザーの反応が最も良かったのが「専門家」の投稿だった。一方で「保守・右派」や「リベラル・左派」の投稿には、やや反応が鈍かった。

専門家の投稿は、より多くのアクティブユーザーを通じてネット全体に波及し、その影響を強めているようだ。

ネット上に交錯する意見やデータは、リツイート数などの見かけの存在感と実際の影響が必ずしも一致しない。誰から発信されたのかも、情報の広がり方を大きく左右する。

SNS空間では、自分と似た考えの人々が集まりやすい。あなたがスマホの画面を通じて感じた「みんなの常識」は、実は価値観が似た人々で共有されているだけなのかもしれない。

世の中の人々がどんな意見を持っているのか――。
ネットを通じて民意や世論を読み取るには、流れ寄せる情報の偏りを意識し、多角的な視点を持とうとする姿勢が大切になる。