シャシーはアルピーヌ製、パワーユニットはルノー製
3月2日、ルノー・スポールにかわってF1世界選手権を戦うことになったアルピーヌF1チームが2021年の参戦体制を発表した。
今回の、ルノー・スポールからアルピーヌへの移行は、昨年9月に発表されていたもの。この時点では、巨額なコストを要するF1参戦の看板にアルピーヌを用いるのが不自然にも思われたが、その後、ルノー「メガーヌRS」などを手がけるルノー・スポール・カーズ、そしてルノー・スポールのモータースポーツ活動を担っていたルノー・スポール・レーシングは、すべてアルピーヌ・ブランドとして再出発することが発表され、F1チームの名称変更もこの一環であることが明らかになった。
ただし、いささかややこしいのが、アルピーヌF1に搭載されるパワーユニット(エンジンやハイブリッドシステムなどのパワープラントを意味する)は今後もルノー・ブランドとして供給される点にある。つまり、シャシーはアルピーヌ製、パワーユニットはルノー製になるのだ。
この日、発表されたニューマシン、アルピーヌ「A521」は、2020年モデルであるルノー「R.S.20」の進化版。今季はどのチームもレギュレーションによって大がかりな開発が禁じられているものの、車両規則が一部改正されたエアロダイナミクスに関しては部分的なモディファイが実施されたという。
アロンソのF1復帰
肝心のドライバーは、フランス人のエステバン・オコン氏が今季も残留。そのチームメイトにはダニエル・リカルド氏に代えてフェルナンド・アロンソ氏を起用する。
アロンソ氏といえば、ルノーに在籍していた2005年と2006年にF1タイトルを勝ち取った名ドライバー。その後、フェラーリやマクラーレンを渡り歩いたスペイン人は、2017年よりインディ500やル・マン24時間への挑戦を開始。いっぽう、2018年を最後にF1からは遠ざかっていた。
それが今シーズンは久々のF1復帰となるものの、2月中旬にはスイスでのトレーニング中に自転車事故に遭い、アゴの手術を受けている。現在は回復に向かっており、すでに水泳などのトレーニングを再開しているというが、かつてF1チャンピオンの最年少記録を更新したアロンソもすでに40歳。しかも2年間のブランクがあっただけに、今季の活躍に関しては疑問符をつける向きもある。
もうひとつ注目されるのが、新チームのレーシングディレクターに就任したダヴィド・ブリヴィオ氏の手腕だ。現在56歳のブリヴィオ氏はヤマハやスズキの2輪GPチームを率いてきた人物で、これまでに合計16のタイトル獲得に貢献した名将とされる。
とはいえ、4輪チームを率いるのは今回が初めてとあって、どの程度の力を発揮するかは未知数。これについてブリヴィオ氏は「MotoGPチームとF1チームでは規模がまったく異なるが、基本となる考え方はおなじ。精一杯努力する」と、述べた。
アルピーヌ・ブランドとF1の整合性はどうなるのか?
ニューマシンのカラーリングはフレンチ・トリコロールである青、白、赤を基調としているが、発表会ではフランスとイギリスの国旗をモチーフにしたと説明された。これは、シャシー開発を担う部門がイギリスのエンストンに本拠を構えているため。
いっぽうで、マシン全体を彩るようなメインスポンサーが存在しないのも事実で、チームの財政面に対する不安も残る。
もっとも、旧ルノーF1チームはこれまでも限られた予算で効率的に好成績を収めてきたことで知らており、昨年もオコン氏がサキールGPで2位表彰台に上がる金星を手に入れた。今季はマシーンの信頼性改善にも取り組んだというので、「安定した成績を残す」というチームの目標が達成されるのを期待したい。
発表会のなかで、アルピーヌのローレン・ロッシCEOは次のように話した。
「今年はチームにとって転換期にあたる。また、マシンは昨年型の改良版を使うが、安定した成績を収めるとともに、チャンスが巡ってきたときには表彰台に上ることも可能だろう。そして長期的にはタイトルの獲得を目標にしてチャンピオンシップを戦っていく」
ところで、現在「A110」のみを販売しているアルピーヌは、今後“100%エレクトリック・スポーツカー”のブランドに生まれ変わると宣言しており、A110の後継モデルはロータスと共同開発するEV(電気自動車)となる見通し。その場合、ハイブリッドとはいえ依然として内燃機関を使うF1との整合性をどう図っていくのかという点も注目される。
もっとも、脱炭素社会を目指しているのはアルピーヌばかりではない。その影響か、モータースポーツ活動の方針を見直す自動車メーカーが相次いでいる。近年、トヨタ1社がエントリーしていたル・マン24時間に参戦する自動車メーカーが続々とあらわれている。そのいっぽうでアウディとBMWは今季限りでフォーミュラEから撤退することを決定。アウディはDTMのワークス活動も終了しており、この影響でDTM自体がカテゴリーとしての立ち位置を大きく見直すことになるなどの波紋を呼んだ。
CO2削減へと突き進む自動車産業界の動きがモータースポーツ界をどのように変えていくのか。今後も注視していきたい。
文・大谷達也