こんにちは。斎藤充博です。
今日来ているのは、田端駅から徒歩8分のところにある「タバタバー」。8人も入ればいっぱいになってしまう、小さな立ち飲み屋です。
タバタバーのウリは「レモンサワー」。
「定番レモンサワー」(400円)、「甘味レモンサワー」(500円)、「塩味レモンサワー」(600円)「本気の国産レモンサワー」(800円)と4種類のレモンサワーをとりそろえています。
「定番レモンサワー」を飲んでみました。たしかに普通の居酒屋で出てくるやつよりうまい。味が濃くて、居酒屋のサワーというよりも、バーのカクテルを飲んでいるみたいな雰囲気がします。
立ち飲みだけれども料理もしっかり作っています。これは「唐揚げ~ネギソースを添えて~」(500円)。
こちらは「自家製餃子」(500円)。餡から手作りしている。
ここまで紹介したけれども、ある意味普通の立ち飲み屋だな、という感じです。レモンサワーは充実しているけれども、その他にものすごくめずらしいメニューがあるわけでもない。
でもこういう「普通の立ち飲み屋」を営業していることがすごいんです。
店主はコンビニエンスストアの店長
なぜならタバタバーの店主の櫻井寛己さんは「コンビニエンスストアの店長」が本業だから。
コンビニ店長っていろいろな仕事の中でもかなり忙しいやつですよね。バイトが急に抜けると店長が入ってシフトの穴埋めをしなくてはいけません。
僕と櫻井さんは以前からの知り合いなのですが、それでときどき飲み会に来られなくなることがありました。飲み会に来られない人が、逆に飲み屋を経営するという、逆転の発想……(こういうのは逆転の発想とはいわない)。
ほとんど一人のDIYでお店を作った
櫻井さんはこのお店を、コンビニの仕事の合間にコツコツとDIYで作ってしました。施工前のタバタバーはこんな感じだったのですが……。
自力でちょっとずつきれいにしていって……
業者に頼んで看板をとりつけて……。
(ほとんどDIYでやっていたのですが、電気と水道とガスは業者に頼んだそうです。看板は電気工事が関わってくる)
かっこよく完成。
内装も最初はこんなふうだったのが
ちゃんとキレイにして
カウンターを手作りして、壁紙を貼って、
ちゃんとした「お店」になっています。
「お店をやってみたい」という気持ちはまだわかる。ただそれと「お店を作ってみたい」は、普通は別物ですよね。両方やるの、ちょっとどうかしている。
修行にも出た
さらに工事中に櫻井さんは「修行」にも出ています。
櫻井さんは飲食店で働いた経験がゼロ。そのために知り合いの飲食店で3店舗ほど働き、お酒の造り方やバーカウンターの中での立ち振る舞いを身につけました。
僕も修業先しているところを見に行っていました。ちゃんと生ビールをおいしく入れてくれました。修行の成果だ……(ちなみにタバタバーでは生ビールは出していません)。
修行が必要というのはもっともなのですが、なんか順番がおかしくて最高です。
【店舗を契約】→【DIYで店舗の工事】→【修行に出る】→【オープン】
普通は修行がすんでから店舗の契約をするものなのでは? 修行とDIYのせいで、店舗契約からオープンまで13か月かかってしまっているのです。もちろんこの間も賃料はずっとかかり続けています。
このあたり、本業が他にあるからできることなのでしょう。いや、本業が他にあってもこんなことは、やっぱりしないよな……。
趣味でWebメディアの編集長も
TABATIME/タバタイム | 田端による田端のためのwebマガジン
さらに櫻井さんは、田端のwebメディア「タバタイム」の編集長をしています。
田端のメディア、ニッチすぎてお金になるようなものではありません。でも、読んでみると異常なまでに細かい田端の情報が載っていてけっこうおもしろい。
僕は仕事でよく田端に来るのですが、ランチなどを情報を検索すると上位にこのサイトが引っかかってきて、便利です。
それにしても、櫻井さん、本当に一体何なんだ?
櫻井さんに聞いてみた
櫻井さんのことを人に説明しようとすればするほど、「この人はなんだんだろう?」という気持ちが芽生えてきます。
どうしてこういうことをしているのか。本人に聞いてみました。なお友人のために口調がだいぶフランクになっていることをご了承ください。
「タバタバーの調子はどうすか?」
「開店して1週間経つんですけれども、まだ慣れてないですね。これは数をこなすしかないです。お客さんの数も想像していたよりはずっと多いです」
「それじゃあ成功ですね?」
「ただ、この後どうなるか、予想はつかないですね。それが不安です」
なんでタバタバーを始めたのか
「改めて聞きますが……。櫻井さんはなんでそもそもタバタバーを始めたんですか?」
「僕はタバタイムをやっているじゃないですか」
「はい」
「うちは曾祖父の代からずっと田端に住んでいて、田端が好きなんですよ。タバタイムも地域を盛り上げようとしてやっているんです。
でもそれだけだと物足りなくて。タバタイムを見て(櫻井さんの働いている)コンビニに来てくれる人もいるんですけれども、特に交流を持てるわけでもなく……」
「そりゃそうですね」
「もっと田端のためになることをやりたいって思っていました」
「コンビニ経営だって地域のためになっていると思うけれどもなあ」
「コンビニはコンビニでいいんですが、やっぱり『公共のインフラ』みたいなイメージが自分の中にあって。自分の場所じゃないなあ、って思ってしまうんですよ」
「それはなんかわかるような気がしますね」
正直今はちょっと無理している
「忙しさは大丈夫ですか?」
「正直、今はちょっとスケジュール的には無理をしているんです。始まったばかりなので、営業日を多くして」
「やっぱり無理はしているんだ」
「ただ、タバタバーはやっぱり楽しくて。ぜんぜんストレスがないんです。だから苦にならない」
「正直心配だけども、本人が楽しみでやっていることって、止められないよなあ……」
「まあ、もう少ししたら営業日を少なくしたり、人に任せたりして、徐々に自分が休めるようにはしていきたいと思っています」
地域の交流に自分自身が関わりたい
「ちなみに、やっていていいことってありましたか?」
「田端の人たちがここに集まってきてくれています。タバタバーが田端での交流の拠点になるんじゃないのかっていう実感がありますね」
「なるほどね。よく『インターネットで人々が分断されている』なんて話を読むけれども、分断された人たちが、また地域同士で繋がりを求めているのかもしれない……」
「それはあると思うんです。うちの実家は、コンビニをやる前は飲食店だったんです。でも、飲食チェーンが台頭してきたときに、勝てなくなってしまったんですね。そこで、今のコンビニに切り替えました。そんな親からすると、子どもの僕が飲食を始めたのがちょっと不安らしくて。『なんでそんな大変なことしているんだ?』って言われます」
「『また同じ苦労をするのか』って話になっちゃうのかな」
「ただ、また時代は繰り返して、再び個人の飲食の時代も来ているんじゃないかって思いますね。今度は繋がりを求めて。
それから、さっき親が不安そうっていいましたが、同時にちょっとうれしそうでもあるんですよね。結局同じことをやっているというのが……」
なるほど……。ここまでの話を聞いてわかりました。櫻井さんがこんなにもいろいろな活動をできるのは「本当に田端が大好きだから」
実はこれまでに何度も櫻井さんからは「田端が好きだからタバタバーをはじめるんです」と聞いていました。
でも、僕は納得ができなかったんですよね。それは僕の中に「地元を愛する」という気持ちがなくて、ぜんぜん理解できていなかったから。
でも今回櫻井さんと話していて、それがやっと腑に落ちたような気がします。
タバタバーはできたばかりですが、これからずっと田端の人たちの中にあり続けるんじゃないのかなあという気がしてきました。
櫻井さん、がんばって! でも無理はしない程度に!
取材協力