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「性差別」を考えるための6冊 by フェミニスト書店「エトセトラブックス」

『GQ JAPAN』の読者である、おもに男性に向けて、フェミニズムについて考えるさいの入口になる本をピックアップ。
「性差別」を考えるための6冊 by フェミスト書店「エトセトラブックス」
Ryuichiro Suzuki

“自分ごと”としてこの社会の性差別を考える

東京・新代田にフェミニズムに関する本を専門に扱う書店「エトセトラブックス BOOKSHOP」がオープンした。代表の松尾亜紀子さんと店長の寺島さやかさんに、『GQ JAPAN』読者に向けてのオススメ本を訊いた。

ベル・フックス(堀田碧訳)『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』エトセトラブックス、2020年

〈第2波フェミニズム〉を代表するフェミニスト理論家、ベル・フックスによる世界的ロングセラーをエトセトラブックスが復刊(原書2000年、旧版は新水社から2003年出版)。著者のフックスは、「フェミニズムとは、ひと言で言うなら、『性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動』のことだ」と定義する。彼女がこの定義を気に入っているのは、「男性を敵だと言っていない」からだそう。

「フックスがタイトルを『みんなのもの(“Feminism is for Everybody”)』としたのは、そうしないとフェミニズムは自分とは関係ないことだと思う人がいるから。この本が伝えているひとつは、『性差別について一緒に考えられる男性ならば女性と連帯できる』ということです。男性にはまず、“自分ごと”としてこの社会における性差別の構造を考えてみてほしい」(松尾)

クレマンティーヌ・オータン(山本規雄訳)『子どもと話す マッチョってなに?』現代企画室、2014年

日本では、「マッチョ」と聞くと筋肉ムキムキの人を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかしここで議論されている「マッチョ(英:macho/仏:machos)」とは、「男性優位主義」や「男尊女卑」のことだ(フランス語の「machos」にはこの意味しかない)。

「現代企画から刊行されている『子どもと話す』シリーズのひとつ。弟がフェミニストであるお姉さんに素朴な疑問をぶつけると、お姉さんが歴史をふまえながら熱っぽく語ってくれるという形式なので、とてもわかりやすい。入門書でもあるけれど、内容はかなり深いところまで議論されています。日本よりジェンダーギャップ指数がかなり上のフランス社会でも、こんな問題を抱えているのか! という発見も。ネットの記事を中心に読んでいる方に薦めたい」(寺島)

平山 亮『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』勁草書房、2017年

社会学者である著者が、親を介護する男性(息子介護者)の経験を通して、「男らしさ」の規範とその虚構性を考察した1冊。平山は序章で、「息子であることは、『男性であること』には含まれていない」と語っている。

「最近『男の生きづらさ』について男性の口から語られることが増えましたが、多くの場合が“父”として、“夫”として、“会社の一員”として……と、自分の役割や立場についての苦労話なんだと平山さんは書いています。だから女性からすると『そんなこと?』と思ってしまう。これは、男性が社会のなかで履かせてもらっている下駄を脱いだとき、つまり“息子”としての自分に向き合ったときに何が見えるか、という本です。平山さんによる『男性学』への批判も含めて、男性について考えられる貴重な1冊です」(松尾)

森山至貴『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』WAVE出版、2020年

社会学、クィア・スタディーズを専門にする著者が、「イラッ」としたり「モヤモヤ」したりするのになんとなく言い返せない“ずるい言葉”の背景にある差別や偏見を紐解いていく。たとえば、「あなたのためを思って言っているんだよ」は、なぜ“ずるい”のか? その言葉から「ぬけ出すための考え方」と関連用語の解説もついてくる。

「『中学生や高校生にまず読んでほしい』と書かれた本なので、文章にはルビがふってあるし、イラストも豊富です。フェミニズムの本として出されているわけではないけれど、“人を押しつぶす”ような言葉に対してどう対処したらいいかを教えてくれる。エトセトラブックスでも本屋B&B[寺島さんがスタッフを務める下北沢の書店]でも売れた本ですが、「自分が(ずるい言葉を)言っていやしないか、と怖いから買う」という人が多かったですね。親子で読むのもオススメ」(寺島)

樋口恵子、斎藤茂男、板本洋子編『花婿学校 いい男になるための10章』三省堂、1990年

“いい男になるための基礎講座”と銘打ち、1989年の秋に東京で開校された「花婿学校」の全記録を収録。貞淑従順な良妻賢母の養成を目指したかつての「花嫁学校」の名称をパロディしているためか、タイトルだけ見れば「フェミニストがこんな本を推すの?」と思われるかもしれない。しかしその内実は、「2021年の今よりずっと進んでる!」(松尾)のだという。

「田嶋陽子さんが有名になるきっかけになった伝説の講座を書籍化したもの。結婚したい男性に向けて、『結婚したいんだったら自分と女性のことを知り、この社会のことを知ろうね』とレクチャーする、すごくまっとうな本です。男性がつくり出している女性抑圧の構造や、女性たちにも性欲があること、そして自己確認のトレーニングなど、10のテーマについて12人の先生たちが優しく教えてくれる。いまは結婚がゴールじゃないから“花婿学校”という名前はふさわしくないけど、現代にこそ必要な講座なんじゃないかな」(松尾)

レイチェル・ギーザ(冨田直子訳)『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』DU BOOKS、2019年

ジャーナリストでありフェミニスト、そして実際に男の子を育てる親でもある著者が、「男らしさ」を取り巻く様々な問題を自身の体験と綿密な取材によってあぶり出す。ギーザいわく、「私たちみんなのために、男であることの意味を再考し、つくり変えていくにはどうするべきかを考えた」1冊だ。

「『有害な男らしさ(Toxic Masculinity)』はいかに形成されていくのか。それを少年時代から検討してみよう、という本です。有害な男らしさと決別したいのだったら、 “俺は上の世代とは違う”で終わらせないで、この本を読んで考えてみてはいかがでしょうか。これもある種、『息子としての自分と向き合ってみては?』という1冊だと思います」(松尾)

エトセトラブックス代表の松尾亜紀子さん(左)と、店長の寺島さやかさん。

エトセトラブックス BOOKSHOP
住所:東京都世田谷区代田4-10−18 ダイタビル1F
(京王井の頭線・新代田駅徒歩1分、下北沢駅徒歩10分/小田急線・世田谷代田駅徒歩8分)
OPEN:木・金・土 /12-20時(週に3日のみ営業)
新型コロナウイルスの影響で変更の場合もあり。

エトセトラブックス
https://etcbooks.co.jp

写真・鈴木竜一朗

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