平成怪奇小説傑作集1 (創元推理文庫)

制作 : 東 雅夫 
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488564063

作品紹介・あらすじ

ホラー・ジャパネスクと怪談実話の興隆で幕を開けた平成の怪奇小説シーンは、やがて多くの人気作家や異色作家を巻きこみながら、幻想と怪奇と恐怖の絢爛たる坩堝(るつぼ)を形成してゆく……平成の三十余年間に生み出された名作佳品を、全三巻に精選収録する最新のアンソロジーが実現。最高の作家たちによる、至高の怪奇小説傑作選!

感想・レビュー・書評

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  • 普段、読む本を選ぶときは、その本の作者が誰かで決めています。そして、ある作家の本を大体読み終えてほかの作家を探すときは、大体「ミステリ」か「SF」か「ファンタジー」というジャンルの中から面白そうなものを書いている作家を探します。
    そのジャンルに、最近「ホラー」が加わりました。宮部みゆきが編んだアンソロジー「贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き」を読んで、ちょっとは「ホラー」という切り口で読むものを探してみてもいいかなと思うようになったのです。そこに、3冊刊行された「怪奇小説」の「傑作集」。
    宮部みゆきを筆頭に、北村薫や浅田次郎や小野不由美や恩田陸や、そんな好きでよく読む人の作品が収録されていることもあって、思い切って買ってみました。

    これまであまり読んでこなかったジャンルなのに加え、アンソロジーなので、作風の違うものが並んでいて、自分が楽しめる作品ばかりとは限らないかもしれない、さらにかなり厚い本なので、読了できるか心配していたのですが、巻頭の「ある体験」からすんなり物語に入り込むことができて、最後まで夢中で読み終えました。

    いろいろな作品を読んでみて、自分にとって本当に怖いのは姿や正体が見えない、わからないものだなあと思いました。何が起きているのか最後までわからない「お供え」や「家――魔象」なんかがそんなお話にあたり、背中がゾワゾワする感じで怖面白く読みました。また、姿が見えないこと自体がテーマの「百物語」も、まさに百物語の百話目として楽しめました。

    他には、「静かな黄昏の国」はディストピア物のSFとして、「布団部屋」は宮部みゆきの時代ものとして、それぞれ好物です。一気に読んでしまいました。

    それにしても、面白いアンソロジーの困るところは「読みたい本」が一気に増えること。どうしよう…。

    以下、収録作品別一言コメント。

    「ある体験」吉本ばなな
    1冊ずつが厚く全3冊のアンソロジーの巻頭を飾る作品。気負ってページを開きましたが、ホラーというよりスピリチュアルなお話としてさらさら読めました。
    枕から聞こえる美しい音楽のイメージと、ドアの外のごうごうと風が吹いている様子のギャップがすごい。
    お名前だけ存じ上げていたのですが、実際に作品を読むのはこれが初めてとなります。

    「墓碑銘」<新宿>菊地秀行
    菊地秀行も名前はよく知っているけれど読んだことがない方。どこからどうやって読めばいいのかわからないくらい作品が多いから…。その数多くの作品の中で<新宿>が特別な意味を持っているようなのですが、この作品と関係があるのかどうかわかりません。
    いいのか悪いのかわからないけど、自分はNTRとして読んじゃいました。

    「光堂」赤江爆
    ラストシーンをトトロのバス停だとか、火垂るの墓だとか、自分に馴染みのある映像に引き寄せながら読んでいました。
    優しさ溢れていたはずの涼介は映画の中の弟同様孤独な身の上となって、煌々たる光の気配の向こうにどんな妖怪を見たのでしょうか。

    「角の家」日影丈吉
    狒狒。
    異常なのは角の家なのか、ひとり観察を続ける私なのか。「主人が狒狒になったことと、おくさんが狒狒を飼っていることと、どこが違うかということである。違うのは発想の出発点だけなのである」ってくだりがあるのですが、一人称の「私」が、静かに冷静に狂っているようで、何となく微笑ましく読みました。狒狒の言うように身替わりを抱えれば、ひっそりと何時まででも狂っていられるので楽かもしれません。

    「お供え」吉田知子
    自分のあずかり知らぬところで事態がどんどん進んでいく薄気味悪さにページを繰る手が止まりません。お供えって、実はこの私自身がお供えなのかな(じゃあ、お供えする相手は誰?)と思うとさらに不気味です。

    「命日」小池真理子
    怪談っぽいお話です。
    祟ってる側はカコちゃんの目に拡がる白い空洞のように、何らの悪意や意図などなく、ただ何となくやっているのかなと思うとうすら寒い気持ちになります。
    それにしても、仙台のR町を離れたのにどうしてついてきちゃったんでしょうね。

    「正月女」坂東眞砂子
    正月女の真弓ちゃんより、自分亡き後夫が結婚するのが嫌で、夫の周りの女は殺しきれないので夫を一緒に道連れにしてしまえという思考のほうがはるかに怖い。

    「百物語」北村薫
    目に見えるものより見えないもののほうがはるかに恐ろしいのです。ところでこの状況は、夜明けまで全く明かりをつけずに耐えられたらなんとかなるものなのでしょうか。

    「文月の使者」皆川博子
    「彼」が死者であることが(読者に)わかるまでは息を詰めるようにして読んでいたのですが、ラストのほうでは突然落語みたいになっちゃいました。

    「千日手」松浦寿輝
    「本当は僕はいないんだよ」のあとの突然の「おじさんもでしょう」で世界がひっくり返る。
    それにしても、永遠にどこにも行けないって想像するだに恐ろしい。

    「家――魔象」霜島ケイ
    『いっそ何かが起こればいいのに。何も起こらないというのが、曖昧で嫌でした。目に見えるものよりも怖いのは目に見えないもの、形のないもの、正体の掴めないもの。実際に存在するのかしないのかわからないもの』。
    まさにそのとおりで、何も起きないギリギリで引越しできてよかったねと思うのです。

    「静かな黄昏の国」篠田節子
    ディストピア物は好物です。
    なんだか想像力の限界に挑戦しているような気がしませんか?
    例えば小池百合子都知事の公約の「花粉症ゼロ」「満員電車ゼロ」。花粉症ゼロは…

    -------------------------------------------------------
    ~花粉症ゼロになった東京~
    「おはよう、最近あったかくなったねー」
    「ほんとほんt…っくしゅ!」
    「あなた…今の…」
    「ちがう!ちがうの、ただの鼻炎!鼻炎だから!」
    (どこからともなく現れる黒服たち)
    「ちがうんです!やめて!いやぁ!」

    『本日の花粉症患者は”ゼロ”です』

    https://twitter.com/Chu2Wannabe/status/916129325732184064
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    なんてディストピアネタで笑っていましたが、「満員電車ゼロ」は先日来のコロナ禍であっさり実現してしまいました。ほかにも北村薫の「くらげ」とこれ
    https://dailyportalz.jp/kiji/social-distance-ichimegasa
    とか、現実が想像力を超えてくることが意外に多いのに驚きます。

    この作品のディストピアを、2011年に出現した現実のディストピアがどう超えてきたのかを、画像検索すれば簡単に目にすることができます。この作品を読むことは「昔の人が想像した未来を未来の人が振り返る」ことをしていることになります。

    奇形の動植物、突然の鼻血、施設名が『リゾートピア・ムツ』…SF的な放射能に関するあれこれはともかくとして、日本が老小国に転落していく過程はちょっと違う形で実現しつつあるように思えます。

    「抱きあい心中」夢枕獏
    自分にとっては釣りのお話。「釣りキチ三平」の絵柄と現実の地名を頭の中であてはめながら読みました。

    「すみだ川」加門七海
    源三が源頼光でその子が牛鬼?
    不条理だとか幻想的だとか、そういうのはちょっと苦手です…。この話も正直どう読めばいいのか分かりませんでした。

    「布団部屋」宮部みゆき
    自分がホラーの扉を開けるための先達を務めてくれた宮部みゆきが書いた安定の人情もの怪奇時代小説。
    「堪忍箱」収録の「十六夜髑髏」と「幻色江戸ごよみ」収録の「鬼子母火」を足して2で割ったようなお話だなあと思いながら読了。
    怪談なのに人情噺に仕上がってるのは宮部みゆきの面目躍如です。
    魂を食われちゃった使用人たちは、お光さんがいなくなった後はどうなっちゃうのでしょうか。気になって仕方がありません。正気に戻ってくれるといいなあ。

    平成怪奇小説傑作集1(創元推理文庫)収録作品一覧
    「作品名」 (作者名『収録書名』)

    「ある体験」(吉本ばなな『白河夜船』(新潮文庫2002)
    「墓碑銘」<新宿>(菊地秀行『東京鬼譚』(双葉文庫1997)
    「光堂」(赤江爆『光堂』徳間文庫1996)
    「角の家」(日影丈吉『鳩』早川書房1992)
    「お供え」(吉田知子『お供え』講談社文芸文庫2015)
    「命日」(小池真理子『命日』集英社文庫2002)
    「正月女」(坂東眞砂子『屍の聲』集英社文庫1999)
    「百物語」(北村薫『1950年のバックトス』新潮文庫2010)
    「文月の使者」(皆川博子『ゆめこ縮緬』集英社文庫2001)
    「千日手」(松浦寿輝『もののたはむれ』文春文庫2005)
    「家――魔象」(霜島ケイ『幻想文学 第48号1996年10月』
    「静かな黄昏の国」(篠田節子『静かな黄昏の国』集英社文庫2012)
    「抱きあい心中」(夢枕獏『ものいふ髑髏』集英社文庫2004)
    「すみだ川」(加門七海『女切り』ハルキ・ホラー文庫2004)
    「布団部屋」(宮部みゆき『あやし』角川文庫2003)

  • 平成30年間の怪奇小説を総括するアンソロジー、全3冊刊行予定で、第1巻であるこちらは最初の10年(平成元年~10年)に発表された15作を年代順に収録。「怪奇」という言葉に含まれているジャンルは実は多様で、王道の幽霊ものから、どちらかというと不条理、幻想的なものまでさまざま。

    トップバッターは吉本ばなな「ある体験」。『白河夜船』に収録されているので既読のはずなのだけどなにせざっくり30年前のことなのでほぼ記憶になかった。ホラーというよりスピリチュアル系の印象で、当時あまり意識していなかったけどこの頃すでに吉本ばななはそっち系だったんだなと。

    赤江瀑はP+D BOOKSが、日影丈吉は河出文庫が、わりと最近何冊か復刊してくれているけれどまだまだ絶版=未読の作品が多く、今回の収録作は未読のものだったので嬉しい。同様に皆川博子も、相当数読んでもまだ絶版が多く「文月の使者」は初読だった。いずれも安定感抜群、もともと好きなのでハズレなし。

    この手のアンソロジー常連になりつつある吉田知子「お供え」、松浦寿輝「千日手」は既読、どちらも何度読んでも面白い。吉田知子は講談社文芸文庫が1冊復刊してくれたきりなので、もっと読みたいのだけど、どこか本格的に取り組んでくれないかしら。

    菊池秀行と夢枕獏は、長編伝奇ファンタジー作品の印象が強いので(前者は吸血鬼ハンターD、後者はキマイラを10代の頃に少し読んだきり)こういう短編もあるんだと意外だった。夢枕獏「抱きあい心中」は実話らしく、古き良き王道の怪談。唯一名前すら知らなかった霜島ケイ「家――魔象」も実話系で、これはタイトル通り家に憑いてる系。

    小池真理子「命日」は、正統派の幽霊もの、坂東真砂子「正月女」は地方都市の言い伝え系で、どちらもある意味怪談の王道ながら、女性作家ならではの日常描写の細かさや心理描写が効いていて、かなりゾッとした。篠田節子「静かな黄昏の国」は収録作の中では一番異色だったかも。唯一、近未来が舞台でSFというかディストピアというか。怪奇現象はとくに起こらないが、とても怖い。

    北村薫「百物語」は、短い中にぎゅっと怖さが凝縮されたオチが効いている。加門七海「すみだ川」は古典芸能をふまえた凝った構成、宮部みゆき「布団部屋」は時代もの。どれも面白かった。続刊に何が収録されるのか楽しみ。

    ※収録
    吉本ばなな「ある体験」/菊池秀行「墓碑名<新宿>」/赤江瀑「光堂」/日影丈吉「角の家」/吉田知子「お供え」/小池真理子「命日」/坂東真砂子「正月女」/北村薫「百物語」/皆川博子「文月の使者」/松浦寿輝「千日手」/霜島ケイ「家――魔象」/篠田節子「静かな黄昏の国」/夢枕獏「抱きあい心中」/加門七海「すみだ川」/宮部みゆき「布団部屋」

  • 平成で怪奇小説というと、自分は真っ先に90年代に「ホラージャパネスク」と言われた一連の小説が思い浮かぶ。
    輸入モノの「モダンホラー」のエンタメ的ストーリーに日本的怪奇情緒が合わせた感じがあって、ミステリーともSFともつかない展開が新鮮で、すごく好きだった。
    わかりやすい例を上げれば、「リング」の怖さよりも「らせん」の話の広がり、個人的にはそういうところこそが「ホラージャパネスク」という気がする。
    確か、「ホラージャパネスク」という言葉はこの本の編者の東雅夫氏が言い出したような記憶があるが、この本はそれよりはちょっと古い感じのホラー小説(まさに「怪奇小説」)が多いような気がした。


    「ある体験」は、まさに”あの時代”って雰囲気の話。
    初出は89年7月ということだが、あの頃の夜だったらポカンとあってもおかしくないような話?w
    ていうか、吉本ばななって、あの頃流行ってたよなーと、ミョーに懐かしかった(^^ゞ

    それに対して、「墓碑銘(新宿)」、「光堂」、「角の家」はやけに昭和テイスト(^^ゞ
    ていうか、平成は昭和とつながってたわけで。
    特に、最初の10年(つまり90年代)はバブルをずっと引きずってた。
    「平成」って、その文字を書くたび、ものすごく違和感があった。
    そんな、結局、なんとなくの違和感のまま終わっていた『平成」だけど。
    考えてみれば、「昭和」っていうのも、今では現実感のない昔になっている。
    かと言って、令和4年なんて言われても、一瞬、それがいつのことだかわからなかったりする(・_・;)

    続く「お供え」、「命日」、「正月女」も、伝統的な怖さのある小説という意味で(平成よりは)昭和っぽいかなぁーw
    「正月女」の坂東眞砂子はあの頃は「ホラージャパネスク」って感じがしたけど、今となってみるとむしろ昭和っぽい。
    とはいえ、昭和に坂東眞砂子みたいなホラーを書く人いたかなぁー?とも思う。

    「百物語」は展開が星新一でw
    やっぱり、平成というよりは昭和かなぁー。

    一方、「文月の使者」は90年代でもないし、かといっても昭和でもないし…!?って感じ。
    いや。たんに自分がこういうタイプの話を読んでなくて、それでわからないだけなんだろーけど(^_^;

    「千日手」も平成というよりは昭和かなぁー。
    ただ、このパターンって、自分はまず「シック・スセンス」を思い出しちゃうんだけど、あれの影響ってことはないのかな?
    (あ、でも、「シックス・センス」って1999年の映画なんだ)

    「家-魔象」は、「文藝百物語」にあった話ということもあって、平成っぽく感じる(というよりは90年代っぽい?)。
    ただ、この話は加門七海の本でも読んだんだけど、出来事が夢で見たとか、感じたばかりで、個人的には好きじゃない。
    ていうか、このバージョンは最後が落語のサゲみたいで、思わず吹き出してしまった(^^ゞ

    「静かな黄昏の国」は読んだことがある。
    ていうかー、確かに篠田節子は「ホラージャパネスク」の作家なんだけど、ここでは異質すぎるw
    (この前が霜島ケイで、その次の次が加門七海って、「文藝百物語」か!って笑ったw)
    小説としての出来という意味でも、この本の中では異質すぎる気がする。
    ただ、その異質さこそが「平成怪奇小説」なのかなぁーという気もした。

    「抱きあい心中」はテイストで言えば「お供え」、「命日」、「正月女」に近いのかな?
    ただ、それらよりも怪談寄り。
    そう、怪談ブームって、たぶん90年代の後半くらいからなんだよね。

    「すみだ川」は幻想小説っぽくって、ストーリーを楽しみたい自分からするとイマイチ。
    こういう文体って、個人的には90年代以降って気がするんだけど、それは自分が知らないだけなのかな?

    最後は、宮部みゆきの「布団部屋」。
    ちなみに、読んだことがあったのは、これと篠田節子の「静かな黄昏の国」だけ。
    宮部みゆきの江戸怪談は大好きだし。また、平成になって宮部みゆきが確立したジャンルななんだとは思うけど、この本では現代を舞台にした話にしてほしかったような気がする。


    ていうか。
    最初の「ある体験」の雰囲気がまさにあの頃って感じだったので、話の内容よりはその時代という観点の感想になってしまった(^^ゞ

  • 平成30年間の間に書かれた日本の怪奇小説を年代順に収めたアンソロジー第一弾。平成元年~10年までの作品が収められています。平成の30年史を怪奇小説と共に振り返ることができる、なんてお得なアンソロジーだ。
    お化けも幽霊も出てこないけど一番ゾッとしたのが、篠田節子「静かな黄昏の国」これが1996年に描かれていたということが怖い。そしてこれを読了したのがたまたま3月11日だったのも妙な符合で怖かった。
    2.3巻も楽しみ。

  • ホラーアンソロジー。再読のものが半分ほどありましたが、どれも粒よりです。
    再読だけどやはり好きなのは小池真理子「命日」と坂東眞砂子「正月女」。これぞ恐怖、という印象の王道ホラー。迫りくる死の印象があまりに絶望的で鮮烈です。特に「正月女」はみんな邪悪で、だからこそ引いて行っちゃうんでしょうね。
    しかし現代において真の意味で一番怖い作品は、篠田節子「静かな黄昏の国」ではないでしょうか。昔読んだ時にはありえないこともない未来の話だと思いましたが。今読めばまったくもって絵空事とは思えないこの物語。もちろん主眼に置かれた恐怖はあの偽りの楽園の正体なのでしょうが。私にはとことんまで発展した終末医療のほうがよほど恐ろしく思えました。ああいう生き方、というか死に方はしたくないです。それを思えば偽りであっても、あの楽園はあまりに優しいのでは。
    初読の作品でのお気に入りは吉田知子「お供え」。怖い、というよりは不気味かな。なんだか嫌な話、という印象でした。

  • 面白かったです。
    既読のものもありましたが、どれも独特な怖さがありました。
    ホラーは苦手ですが、怪奇小説は好きだということに気付きます。違いを明確に表せないのですが。
    吉田知子さんはもう何度も読んでいる「お供え」なのですが、やっぱり大好きです。得体の知れないものがじわじわと迫ってきて、そしていつの間にか取り返しのつかないことになっている。もう引き返せない。怖いです。
    皆川博子さんも言わずもがなで、「文月の使者」は短編なのにひとつの舞台を見たような鮮やかさがありました。昏いのですが…台詞まわしかなぁ。
    北村薫さんって怪奇小説もあるのですね。「百物語」、ぞわぞわしました。
    霧島ケイさんの「家ー魔象」は、三角屋敷に住むのは絶対避けようと思いました。
    篠田節子さんの「静かな黄昏の国」がディストピア大好きなわたしに刺さりました。壊れた国、その中にあって自然たっぷりな終の棲家…でもそこではせいぜい3年しか生きられない。発光する植物、奇形の動物…その自然もなんだかおかしい。。好きです。この作品に出会えたので、この本を読んで良かったです。

    「ハードボイルド読書探偵局」というラジオ番組で知ったアンソロジーですが面白かったです。
    良い番組です。

  • 2019年7月創元推理文庫刊。1989(平成1)年〜1998(平成10)年に発表された15の短編アンソロジー。平成に発表されたというだけで、ベストとかではなく、多彩さでの選択だということですが、有名どころの短編って、これしか無かったの?と思えます。吉本ばなな:ある体験、菊地秀行:墓碑銘<新宿>、赤江瀑:光堂、日影丈吉:角の家、吉田知子:お供え、小池真理子:命日、坂東眞砂子:正月女、北村薫:百物語、皆川博子:文月の使者、松浦寿輝:千日手、霧島ケイ:家──魔象、篠田節子:静かな黄昏の国、夢枕獏:抱きあい心中、加門七海:すみだ川、宮部みゆき:布団部屋

  • 『お供え』『文月の使者』『布団部屋』は既読。序盤ゆるゆるとした雰囲気の話が続き、悪くはないけれど思っていたのと違うなと少々物足りなさを感じながら読み進めたが、『お供え』あたりから「ああ、来た来た。こういうのを期待していたんだよね」という話が増えてきた。『命日』『正月女』『抱き合い心中』はわかりやすい怖さが印象的で、『静かな黄昏の国』は他とはタイプの違う絶望的な世界観があり得なくもない未来であるだけに恐ろしい。

    <収録>
    『ある体験』吉本ばなな、『墓碑銘<新宿>』菊池秀行、『光堂』赤江瀑、『角の家』日影丈吉、『お供え』吉田知子、『命日』小池真理子、『正月女』坂東眞砂子、『百物語』北村薫、『文月の使者』皆川博子、『千日手』松浦寿輝、『家――魔象』霜島ケイ、『静かな黄昏の国』篠田節子、『抱き合い心中』夢枕獏、『すみだ川』加門七海、『布団部屋』宮部みゆき

  • 平成怪奇小説と銘打ってはいるものの、体験談形式、時代小説、SFモノとバラエティーに富んでおり、同時代性はあまり感じられない。第2巻、第3巻と読み進めていけば傾向を掴めるだろうか。

    一編選ぶとしたら、個人的に馴染み深い土佐弁で生々しい人間関係と恐ろしい伝承が語られる『正月女』だろうか。年越しの柱時計が鳴るシーンなど、狂気じみていて好き。

  • 白眉は皆川博子先生と篠田節子。

    ■吉本ばなな「ある体験」★ ※竿姉妹と思いきや上質な百合。新生活へ向かうための清算でもある。
    ■菊池秀行「墓碑名<新宿>」 ※幽霊的女を夢想する、自称ハードボイルド男性の、自分勝手な夢想。構図はわかるが旧時代的感覚だ。
    ■赤江瀑「光堂」 ※むんむんとするゲイのにほひ。は、一転、裏切られ、四半世紀を経てしまってはもはや追憶の彼方。やはり赤江瀑はよい。妖怪話というのもぐっとくる。
    ■日影丈吉「角の家」★ ※主人が狒々になる→奥さんにとって相手が身代わりでもどうでもいい→その関係性が執拗に気になる語り手→あなたもそうではありませんか。という反転。外皮と内臓が裏返るくらいの衝撃だ。
    ■吉田知子「お供え」★ ※再読。なのに込められた意味は、ただ薄気味悪いという程度で、論理的に説明できない。
    ■小池真理子「命日」 ※家を媒介した少女の呪いが「ついてくる」恐怖。脳内映像は黒沢清「降霊」。
    ■坂東真砂子「正月女」 ※女の怨念も怖いが、正月女は七人引いていくという発想も怖い。
    ■北村薫「百物語」★ ※百物語の蝋燭を現代の家電に移し替えるという面白さも、娘の語り口調もよい。
    ■皆川博子「文月の使者」★ ※再読。視点人物こそが実は……という最も好きなどんでん返し。さらには中洲という異界の舞台設定。最高の幻想小説にして、後半、とてつもなく面白いコントに転じる。それとなく泉鏡花「高野聖」を連想する。
    ■松浦寿輝「千日手」★ ※壮年の懐古的な夢想と、ゴーストストーリーと、自分自身すらも。
    ■霜島ケイ「家――魔象」 ※ネット由来の実話怪談の系譜。友人S=加門七海なのだとか。ですます調で統一されているのに、最後の一文でいきなり。
    ■篠田節子「静かな黄昏の国」★★ ※これは凄まじい……「子羊」に匹敵するトラウマ。311以前に書かれたものらしいが、アフター311の今、そして今後、ずっとアクチュアルな小説だ。
    ■夢枕獏「抱きあい心中」 ※水死体について。
    ■加門七海「すみだ川」 ※隅田川、時間を超えて三篇。よくわからない。
    ■宮部みゆき「布団部屋」 ※さすが手練れ。読後感は爽やか。
    ■東雅夫 編者解説

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