グレートB級グルメ百花繚乱 Vol.2「とんかつ」

事件は現場で起こってる! とんかつ事変2017-2018

稀代のタベアルキストにして「東京とんかつ会議」のメンバーであるマッキー牧元が、会議室を飛び出し、巷を賑わすとんかつ旋風の現場から、新旧名店の”今、食するべき殿堂入りとんかつ”を語る。 文・松浦達也 写真・菊池陽一郎、岡本 寿
事件は現場で起こってる! とんかつ事変20172018
とんかつ 一頭揚げ 亀かわ 東京 巣鴨本店

発祥は明治の頃。以来100年以上にわたり、庶民のごちそうとして親しまれてきたとんかつに一大変革期が訪れている。タベアルキストにして「東京とんかつ会議」のメンバーであるマッキー牧元氏も「この数年、とんかつのすそ野がグンと広がった。女性のひとり客もずいぶん増えました」とまなじりを下げる。

「店の選択肢ととんかつのバリエーションが一気に増えましたね。どんな豚肉のどの部位をどう揚げるのか。その日の気分で好きな店、好きなとんかつを選べるようになった。こんな国は世界中探してもありません(笑)」

”とんかつ会議”で殿堂入りした老舗の「ぽん多本家」や「成蔵」など、ていねいな仕事と精妙な技術に裏打ちされたとんかつが全体のレベルを引き上げた。

昨年は、高田馬場の「ひなた」や巣鴨の「亀かわ」といった「部位の食べくらべ」ができる新店が複数オープン。新しい食べ方に業界は一気に活気づいた。

「単なるブームでは到底片付けられません。すそ野が広がっていますし、食べ方の提案もどんどん新しいものがでているし、リーズナブルな業態の店舗も増えています」

そう言った牧元氏が揚げ……いや、挙げたのは、両国の「いちかつ」に代表される格安とんかつ店。御徒町の「山家」や曙橋の「山さき」、高田馬場の「いちよし」などだ。

「こうした店では700円そこそこでちゃんとしたロースカツ定食が食べられる。名店の4000円という贅沢なとんかつにも、1000円でお釣りが来る日常の一皿にもそれぞれの楽しみが見いだせる。それが2018年ならではのとんかつの楽しみ方なんです」

では今後、とんかつにはどんな未来が待っているのか。

「まず、『亀かわ』『ひなた』のような部位別で提供する店はさらに登場するでしょう。同時に、西麻布『豚組』のように様々な銘柄豚を揃えた店も増えるはず」

そして、牧元氏の「個人的なイチオシ」はカツサンド。

「この間、ある店で揚げたてのヒレカツを浅草の『ペリカン』のパンにはさんで、ソースをチュッとのせて食べたら、旨くてね。揚げたてのカツサンド、来るんじゃないかな。いや、来てほしい(笑)」

そんな牧元氏が選ぶ、2018年の東京を代表する殿堂入り4店。どの店に行く? どの店から行く?

マッキー牧元
1955年、東京都出身。『味の手帖』取締役編集顧問。”タベアルキスト”として、とんかつのみならず立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツ、居酒屋まで、年間600回外食。『東京とんかつ会議』(共著/ぴあ)など著書多数。

とんかつ 一頭揚げ 亀かわ 東京 巣鴨本店 シェフは”とんかつオタク”を自認。数々のとんかつ店のショップカードやとんかつ資料のスクラップも。2017年12月オープン。
とんかつ 一頭揚げ 亀かわ 東京 巣鴨本店 シェフは”とんかつオタク”を自認。数々のとんかつ店のショップカードやとんかつ資料のスクラップも。2017年12月オープン。
とんかつ 一頭揚げ 亀かわ 東京 巣鴨本店 一頭揚げ 亀かわ定食 ¥2,200。”体にやさしいとんかつ”をめざし、揚げ油は米油を採用し、油の劣化を防ぐフライヤーも導入。
5つの部位を同時に揚げる絶妙技

ロース、リブロース、トントロ、メンチにその日の厳選部位を加えた5種類のカツを同時提供する離れ業は「フリッツ」「旬香亭」という揚げの名店を渡り歩いた菊井誠シェフの試行錯誤が結実したもの。

店名の由来でもある生産者が育てる「南国スイート」はパイン粕での飼料を与えた、長期肥育豚。

衣はカリサクッ、肉質ジュワァッ。衣の内側に隠れた五色の味わい。食べる順に悩むのも楽しい時間だ。

とんかつ 一頭揚げ 亀かわ 東京 巣鴨本店

東京都豊島区巣鴨4-19-8
☎03-6903-7029
営11:00〜14:30LO/17:00〜20:30LO(土・日曜、祝日は11:00〜20:30LO)
㊡無休

とんかつ成蔵 霧降高原特ロースかつ定食 ¥2,920。豚汁のダシなど、主役以外の椀や皿も常に進化。口直しの酢の物やお新香も◎。
とんかつ成蔵 霧降高原特ロースかつ定食 ¥2,920。豚汁のダシなど、主役以外の椀や皿も常に進化。口直しの酢の物やお新香も◎。
とんかつ成蔵 衣を立たせるため、パン粉は生地の配合だけでなく、焼き型への入れ方まで特別な手法のものを発注。2010年創業。
進化し続けるロゼ色の矜恃

「変わらないのは、鍋とラードだけ」

いつもの銅鍋と腸間膜からとった特注のラードで揚げるとんかつは、創業7年でさらなる進化を遂げた。

低温から15分かけて揚げ、揚げ油から引き揚げる。さらにバットの上で、余熱でじわじわと加熱する。

脂身やスジまできっちり熱を通しつつ、赤身はロゼ色の仕上がり。

行列の長さ=店の価値ではない。技術を探求し、歩みを止めない姿勢こそがこの店の真価である。

とんかつ成蔵

東京都新宿区高田馬場1-32-11 小澤ビルB1
☎03-6380-3823
営11:00〜13:30LO/17:30〜20:00LO
㊡木・日曜

とんかつ ひなた リブロース
とんかつ ひなた とんとろ
とんかつ ひなた しきんぼ
とんかつ ひなた らんぷ
とんかつ ひなた ロース
とんかつ ひなた ひれ
とんかつ ひなた 食べ比べコースで提供する6部位とも揚げ時間や休ませる時間がそれぞれ異なる。調味料にはオリーブオイルも用意。
ここでしか味わえない、”全部位”食べ比べコース

昨年1月にオープン。「一番おすすめ」というリブロースに始まり、とんとろまで全6種の「食べ比べ(全部位)コース」 3500円が出色だ(15時以降・2〜4名限定・要予約)。

サイズ、特徴、脂のノリなどがすべて異なる6種類の部位を「それぞれのおいしさがもっとも引き出せる揚げ方」で提供する。

しきんぼの肉汁の膨らみ、とんとろの食感は未知なる味わい。とんかつの新地平が開けた。

とんかつ ひなた

東京都新宿区高田馬場2-13-9 鈴木ビル
☎03-6380-2424
営11:00〜20:30LO
㊡日曜

ぽん多本家 カツレツ ¥2,700。ラードは仕入れた豚の脂からとった自家製。キャベツも、1枚ずつはがして折りたたんだものを手切りする。
ぽん多本家 カツレツ ¥2,700。ラードは仕入れた豚の脂からとった自家製。キャベツも、1枚ずつはがして折りたたんだものを手切りする。
最高峰の質と量の仕事が生む最高の「カツレツ」

「ぽん多本家」のカツレツ、2700円。これを「高い」と思う人に、この店の敷居をまたぐ資格はない。

肉は王道のロース。だが脂身など外側のカブリの部分をすべて取り去り、ロース芯の部分だけを使う。

カツレツは仕入れた豚の脂身を1時間かけて炊いたラードのなかで、ゆったり湯にでも浸かるように低温からやさしく揚げていく。

この仕込みと仕事に値段などつけられない。ありつけるだけで幸せだ。

ぽん多本家

東京都台東区上野3-23-3
☎03-3831-2351
営11:00〜13:45LO/16:30〜19:45LO(日曜・祝日11:00〜13:45LO/16:00〜19:45LO)
㊡月曜