メディアはどう生き残るのか BuzzFeedCEOが語る社会的責任とビジネスの多角化

    創業者CEOジョナ・ペレッティが公開したBuzzFeed社員へのメッセージ

    メディアの世界は激変が続いています。1年前の戦略が、あっという間に古びてしまう。泣き言を言っても、変化は止まらない。スピード感を持って対応していかなければなりません。

    インターネットメディアの世界に様々な革新をもたらしてきたBuzzFeedも、例外ではありません。私(古田)が朝日新聞を辞めて、入社した2015年と比べても、その戦略は大きく変化しました。

    この記事は、BuzzFeed創業者CEOのジョナ・ペレッティが2017年12月に世界に公開したBuzzFeed社員へのメッセージを翻訳したものです。

    世界的なメディア状況の分析、今後の課題をビジネスの側面だけでなく、メディアの社会的な責任の側面も語っています。

    政治的、文化的な分断が進む社会の中で、民主主義と文化の未来は情報の発信者とプラットフォームに委ねられている。彼のメッセージは、日本社会や日本のメディアにも参考になると考え、日本語版を公開します。(古田大輔)


    BuzzFeedに携わるすべての方へ

    BuzzFeedは2017年、利益とユーザー数の新記録を再び達成しました。しかし、簡単な道のりではありませんでした。

    メディア産業は今、危機に瀕しています。

    GoogleやFacebookが広告収益の大半を握る一方、コンテンツの作り手にはユーザーに提供する価値に対して見合わない報酬しか支払っていません。この状態は、質の高いコンテンツクリエイターを経済的に不利な立場に追いやっています。

    そして、フェイクニュースやプロパガンダや陰謀説、手早く扇情的に仕立て直したストーリー、こそこそと海外で稼ぐコンテンツファームの記事、機械的に生成されたコンテンツ、海賊版動画などを発信するチープなメディアに有利に働きます。

    政治的、文化的な分断が今までになく深くなり、現実に対する感覚を破壊しつつある今、経済をめぐるこうした困難は、社会に深刻な脅威をもたらします。

    GoogleやFacebookのような巨大テックプラットフォームは、メディアをパーソナライズすることで、自分以外の視点が入り込む隙のない世界に生きることを可能にしています。一方で、伝統的なメディアは、富裕層向けのサブスクリプションモデルを取り入れ、既存のエリート層の世界観こそ正しいと見せています。

    私たちメディア産業の収益構造は細分化され、その結果ますます多くの人々が、質の高いジャーナリズムと魅力的なエンターテイメントに接する機会を失っていきます。民主主義と文化の未来は、この問題に対応する発信者とプラットフォームに委ねられているのです。

    最大規模の独立系デジタルメディア企業として、BuzzFeedはこれらの問題に対応する中心的存在です。それはビジネスの重荷でもあり、問題解決のカギを握る最も強い立場にもしています。

    事業課題を克服するにあたり、私たちにはメディア産業全体の収益構造の再構築を促し、ポジティブで永続的なインパクトを社会に与えるチャンスがあります。

    メディア産業の前進を牽引し、発展させ続けるための事業計画をシェアするために私は、この文章を書いています。

    メディアとテクノロジーの関係を修正する

    まず、私たちはメディアと大型テクノロジープラットフォームの関係改善に寄与する機会を得ています。 巨大プラットフォームは低品質で不愉快で醜悪なコンテンツに苦しんでおり、プロのコンテンツ・パブリッシャーは自分の仕事に対する公正な報酬を得るために苦労しています。

    この問題は簡単に修正できます。プラットフォームは価値あるコンテンツにきちんとした報酬を与えるべきなのです。 この変化は必須のものです。デジタルメディアの収益構造を適正化することは誰にとっても重要で、プラットフォームはより良いコンテンツを、メディア業界は持続可能なモデルを、人々は質の高いニュースとエンターテイメントを得ることができるのです。

    変化の兆しは見えてきてはいますが、公正な配分を得るために私たちは引き続き闘い続けなければなりません。 この闘いでは、質の高いコンテンツを作成することが私たちの最良の武器となります。私たちは、強力なジャーナリズム、ほかとは全く違うライフスタイルブランド、視聴者とつながる新しいフォーマットやBuzzFeedの記事、リスト、クイズで勝負に出ようと思います。

    短期的には、現在の収益構造はコンテンツ作成のコスト削減と質の悪いコンテンツ作成を助長します。しかし、私たちは長期的な視野を持って取り組みます。長い目で見れば、最高のコンテンツが勝利を得るでしょう。

    複数収入モデルへの進化

    2018年には、プラットフォームからの収益が大幅に増加すると期待しています。 過去4年間にFacebook、Amazon、Netflix、Googleから直接的に得た収益は次のとおりです。

    私たちはプラットフォームからの増収を棚ぼた式に待つだけではありません。 広告ビジネスを補完するために、引き続き複数収益モデルを構築していきます。

    近年、デジタルメディアの競合たちは、短いサイクルでの新技術の導入や受容といった一連のムーブメントに耐え、何が真のビジネスモデルかと考えてきました。ある人たちはネイティブ広告を推奨し、ほかの人たちはプログラム的な広告を提唱しました。

    ある人たちは、eコマースとコンテンツを統合することにフォーカスし、ほかの人たちは、動画への転換や従来型のテレビの発展モデルが良いと主張しました。ある人たちはマスを追いかけ、ある人は強い購買意欲を持つニッチ層こそターゲットにふさわしいと考えました。

    しかし、現実はもっと複雑です。デジタルメディアには完璧な唯一のモデルというものは存在しません。最高のメディア企業は、様々な収益源から、広告、予約購読、スタジオ開発、ブランドのライセンス事業、商品化計画などを組み合わせてコツコツと利益を産んでいます。

    デジタルメディア全体が成熟するにつれ、最高のデジタルメディア企業は、大規模複合企業よりも、オーディエンス重視で、データを活用し、効率的でグローバルであるという本来の利点を利用して、たくさんの収益源を持つ多様なビジネスを構築するでしょう。

    私たちはすでに、デジタルメディアから収益を創出する方法がこれまで以上に多いことを目の当たりにしています。2017年には、BuzzFeedの収益の約4分の1が直販の広告事業以外のところから発生しています。

    これを2018年には収益の約3分の1に、2019年の収益の約半分にまで拡大します。私たちは、eコマース、広告、プラットフォームからの収入、ショー開発など、さまざまな収益源から収入を得るためにコンテンツとブランドをさらに作り出していきます。「Tasty」はすばらしい例です。このビジネスに収入をもたらす方法を見てみましょう。

    強力なブランドのポートフォリオを構築

    私たちはTastyの成功モデルを水平展開していきます。そして、人々の実際の生活を見据えたブランドをさらに作っていきます。

    かつて消費者はブランドに忠誠心がありました。ブランドは憧れの存在で、魅力的なイメージを打ち出し、消費者はそれを手に入れるべく努力しました。

    ところが次第にパワーバランスが変わってきて、消費者はブランドをコントロールできるようになってきています。今日、ブランド側が、消費者に忠誠心を持たなくてはなりません。強いブランドを持つ企業は、消費者の日々の実際の生活を良く知った上で、サービスを提供しているのです。

    BuzzFeedはデジタルとデータへの強い経験を使って、ライバル企業が何十年もかけ、数億ドルも投資したものに匹敵するブランドを作りました。1980~2000年初期に生まれたミレニアルと呼ばれる世代の10人に9人はBuzzFeedとBuzzFeed Newsを知っています。

    Tastyブランドは、フード関連メディアでは比較的新参者ですが、Facebookで最もLikeを得ているブランドで、ほかのどのフード関連ネットワークよりも世界中の人々に届いています。

    Tastyの華々しい躍進は、消費者のニーズに対する明確な気づきを私たちに与えました。世界が分断されるにつれて、人々は政治論議から離れて、同じ情熱を持つ人とシェアしやすい、生活を向上させることができるコンテンツを必要としている、と。

    Tastyは、食べ物に情熱を持つ人々にとって、上の要件を満たす、すばらしい事例です。このモデルをほかのコア事業にも展開し、DIY愛好家向けのNiftyや健康なライフスタイルのためのGoodful、新しくローンチするすべての人が自身のスタイルを表現するのに役立つ美とスタイルのためのブランドに投資します。

    Tastyは始まりにすぎません。人々を共通の情熱をシェアしあい、つながるための、新しいブランドを現代的な方法で立ち上げること。

    私たちには、まだまだやれることがあるのです。

    未来のための組織づくり

    複数の収益源と強力なブランドを組み合わせる戦略をより効率的に実行するため、新しい組織体制を構築していきます。

    その体制のなかで、それぞれのコアなコンテンツエンジン、つまりBuzzFeed、BuzzFeedニュース、Tasty・Nifty・Goodful等BuzzFeedのライフブランドのポートフォリオは、広告、eコマース、スタジオ開発という3つの主要な収益源を持ち、収益を伸ばしていきます。

    3つの収益源を持つことで、新たなビジネスチャンスを獲得することができるのです。下の図では、いくつかの例を紹介しています。

    2018年、コンテンツチームはビジネスチャンスを生かし、あらゆる面で成長を促します。BuzzFeedに携わるすべての人は、自分の仕事が(少なくとも一つの分野において)どのように直接貢献できているかを理解できるようにします。

    そして、技術、商品、マーケティング、法務、コミュニケーション、金融、人事のチームは垣根を超えて協力します。互いに協力しあうことで、規模拡大が可能となります。それだけなく、視聴者との繋がりが強化され、それぞれの部門でさらなる収益を生み出すことができるでしょう。

    2017年、私たちは事業を多様化させるために力強く前進しました。私たちはBAE(BuzzFeed Audience Engine)や、BuzzCutやプログラマティックのような広告の導入により、提供する広告の姿を変えました。

    私たちは国際的な枠組みの中で、メキシコシティのコカコーラ社、オーストラリアの観光産業、ブラジルにおけるネスレ社と、大きな契約を取り交わしました。

    また、私たちはTasty「One Top」やパーティ用ゲーム「Social Sabotage」、すぐに売り切れてしまうUnsolved、Ladylikeなどのシリーズ商品などを売るeコマース事業をまっさらな状態から作り上げ、現在それを有利なライセンスパートナーシップに移行させています。

    そして、私たちは以前にも増して「AM to DM」「Unfortunatly Ashly」のようなヒット作から、Facebook用のQuintaやNBCU用のKelseyなどの外部パートナー向けのプロジェクトに至るまで、オリジナルコンテンツを開発してきました。

    私たちは収益とユーザー数を増やしつつ、これらやそれ以外の事業をわずか一年でやりとげました。しかし、残念ながら、私たちが望むほどの利益成長は生まれませんでした。

    これをデジタルメディアの終焉の兆候として受けとめたがる人たちも中にはいるでしょうが、実際はもっとシンプルです。ヘッドラインニュースとしてはおもしろみはないですが、私たちは成長し続けています。

    私たちは競合他社とは全く違い、単一の収益源で事業を築く以上のことをやってきました。私たちはニュースとエンターテイメントのブランドのポートフォリオを育て上げ、様々なユーザーを魅了し、多様な企業を支援してきたのです。

    成功し続けていくには、実験的かつ好奇心旺盛で、楽しく、多様性のある文化を保護、補強していくだけでなく、新しい変化を受け入れる必要があります。

    現在、メディアが置かれている状況は厳しいですが、私たちの中には大きな勝利のタネとなるものがあります。私たちの作る道は、その他の人にも利益をもたらします。私たちは、ビジネスの多様化とブランドのポートフォリオの成長を図りながら、壊れてしまったメディアと技術の関係修復を行っていきます。

    この問題を解決することは、BuzzFeedを強固な企業にするだけでなく、メディア産業を新たなデジタルの未来に連れていきます。同時に、人々を結びつけ、民主主義と文化を強めるのです。

    私はあなたたちの、分析的な精神、創造性、勤勉さ、そして粘り強さに絶えず感銘を受けています。あなたとともに、メディアの将来を築いていくことは、名誉であることをここでお伝えします。

    ありがとう

    ジョナ


    この記事は英語から翻訳されました。