「7.3メートル歩いた!」。その日の感動を乙武洋匡氏は決して忘れないだろう。この連載は両手両足のない乙武洋匡氏が義足を装着して歩行技術を獲得するプロセスを、自らの筆でお届けするものである。

ついに「乙武義足プロジェクト」発表の日がやってきた。その会場に乙武氏は、ひとりの女性を招待していた――。

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落合陽一氏の挨拶から始まった

11月13日の18時半、渋谷ヒカリエ八階のシンポジウム会場は百名を超える参加者で膨れ上がっていた。

「たいへんお待たせしました。この回が、2018年超福祉展の最後のシンポジウムとなります。『JST CREST クロスダイバーシティ』と題して、たくさんのゲストの方をお招きしています。まず最初にご紹介するのは、この研究の代表を務める筑波大学准教授の落合陽一先生です」

司会者の紹介に大きな拍手が湧き上がると、いつものようにヨウジヤマモトの黒い服を身にまとった落合氏が登場した。

「我々の社会は少子高齢社会化が進み、人口も減少カーブを描きはじめました。人間には年齢を重ねていくにつれて、歩くことができない、目が見えない、耳が聞こえないなどの身体的な問題が発生します。我々に取りうる手立てには何があるのだろうということを考えました」

落合氏は「クロスダイバーシティ・プロジェクト」の全体像を語りはじめた。

クロスダイバーシティプロジェクト公式HPより。左より専門チームの遠藤謙氏、本多達也氏、落合陽一氏、菅野裕介氏

動かなくなった身体にロボティクス(ロボット工学)の技術を入れれば、高齢者が高齢者でなくなる、障害者が障害者でなくなる。落合氏はそのための研究だということを力説していた。

研究テーマはおもに4つ。そのうちのひとつが遠藤氏の義足プロジェクトだが、並行して、落合氏による車椅子などのプロジェクト、菅野裕介大阪大学准教授による人工知能の研究や、富士通の本多達也氏による聴覚支援技術を開発する研究も進められている。この日は四人の研究者がみな登壇し、それぞれの研究の成果や今後の見通しなどを語った。