プロペラをかたどったお馴染みのロゴマーク。その下にローマ字が連なっている。BMW好きの方ならばそこにかつて、“駆けぬける歓び”(フロイデ・アン・ファーレン)、とあったことを思い出すだろう。
ポルトガルはファロで開催された新型7シリーズの国際試乗会に参加してみると、プレスキットや案内板のBMWロゴの下にドイツ語でこう記されていた。
“BAYERSCHE MOTOREN WERKE”(バイエリッシュ・モトーレン・ヴェルケ)。
英訳すればバイエルン・エンジン・ワークス、つまりはバイエルンのエンジン製造工場、というわけで、頭文字をとってBMW、社名の由来であった。
どうして今さら本名を名乗ることにしたの? マーケティング担当の上級副社長が応えて言うには、「プレミアムラグジュアリィに省略語は似合わないだろう?」。さらに「自動車の歴史が大きく変わろうとする今、会社の原点をしっかりアピールしておきたい」ということでもあるらしい。
今後、ラグジュアリィブランドとして最も力を入れていく分野は? という問いかけに対しては、「電動化や自動化は自動車メーカーとして当然の取組みで、高級車ブランドにとってはデザインとデジタル化が重要になるでしょう」、とも。
ご覧の通り、押し出しがかなり強くなった。写真で見るより実物のほうがまだしも収まって見えるけれど、それでもかなりの迫力だ。中国市場などでは、これくらい見た目の“強さ”がないと高級セダンとして通用しないということなのかもしれない。好き嫌いは別にして、まさにデザインの時代を予感させる好例だろう。
インテリアにも小変更を実施した。ステアリングホイールやセンターコンソールまわりなどを最新世代と同じ機能デザインとしている。ボイスコマンドも備わった。
まずは中心グレードというべき750Li xDriveを試す。流行りのグレーカラーにコニャック色のナッパレザートリムというゴージャスなコーディネーションで、20インチのランフラットタイヤを履いていた。
代表的なグレードだけあって、エンジン性能を上げてきた。最高出力は、前期型750に比べて80psアップとなる530psとなり、いよいよ大台を超えてきた。通常ラインナップ(BMWの場合ではMではないということ)の大型サルーンも500馬力オーバーがフツウというわけだ。
クリスタルが美しいシフトレバーを操作して、走り出す。静粛性が増したように思う。街中から高速道路まで一貫して、心地よいV8サウンドが厚い壁の向こう側で鳴っている感覚、とでも言おうか。決して無音ではないけれど、無粋な風きり音やロードノイズが減っているのは確かで、もうこれだけで“(値段の)高いクルマに乗っている”という満足感に満たされた。
ドライブモードをいろいろ試してみた結果、最近のBMWはすべてそうだけれども、アダプティヴモードが最もしっくりときた。前期型もそうだったが、いっそう進化したようだ。高級車や高性能車において走りのキャラを乗り手に選ばせる時代はそろそろ終わるのかも知れない。クルマが乗り手を分析して自ら走りのキャラを臨機応変に変える時代がやってきそうな気配が、濃厚だ。
まるで5シリーズサルーンであるかのように、ファロ郊外のワインディングロードを駆け巡る。ロングボディもまるで気にならない。オプション装備のインテグラル・アクティヴ・ステアリングとエグゼクティヴ・ドライブ・プロが効いている。
大満足で750Liの試乗を終えて試乗会のベース基地となったコンラッド・アルガルヴェに戻ってみれば、また少し色味の違うグレーの7シリーズを間髪入れずに与えられた。PHVの745Le xDriveである。
こちらは特注部門であるBMWインディヴィジュアルがインテリアをコーディネートしており、メリーノレザーにユニークなトリムフィニッシャーの組み合わせがシャレていた。
注目すべきはもちろんパワートレーンだ。ストレート6エンジンを改良し、よりハイボルテージなバッテリーを積んだことで、PHVとしての魅力、つまりは電動走行と総合性能のいずれもが大幅に向上している。
フル充電時で最大58kmまでフルEVとして使えるようになった。日常領域のほとんどを賄えると思う。日本での使用を想定すれば尚さらだろう。
また、エンジンと電気モーターを併せたパフォーマンスは394ps(スポーツモード時)で、従来型の750相当だ。スポーツモードでのドライブでは加速時に若干ショックが入る場合があったけれども、力強さは十二分。まず間違いなく、今後の主力グレードは745eになるだろう。