最終更新: 2019年1月28日



アルバムひとつを通して見える一貫性と、描き出す情景や世界観。たとえ同じ曲が並んでいたとしても、アレンジが加わるだけでたちまち別の作品へと生まれ変わるのだ。前作『code』から7年ぶりとなるニューアルバム『GARDEN』をリリースしたACID ANDROID。今作では昨年先行配信された楽曲9曲に新たなミックスを施し、『2018 MIX』と称した新バージョンを収録している。また、初回限定盤では先行配信された『2017 MIX』を収録したDISC2も同封。9曲それぞれの別バージョンが聴けるという贅沢な作品となっている。

紛れもなく同じ曲であり、同じことを歌っているはずなのに、アルバムひとつを通して聴くとその音像の違いに驚いた。曲中に見える景色や感覚もそれぞれ違うものだったのだ。『2017 MIX』とリマスタリングされた『2018 MIX』、その違いについて。そして、その2枚を合わせてこそ『GARDEN』であると考える軌跡を記したい。

『code』ではメタリックなサウンドにディープなエレクトロサウンドを駆使して、ダンスミュージックやテクノを基調としたダンサブルなナンバーや、Nine Inch Nailsを彷彿とさせるようなインダストリアルロックに密接したアグレッシヴなナンバーを集め、作品を通してパワフルな印象がとても強かった。ACID ANDROIDの首謀者であるyukihiroのボーカルも色とりどりでロックバンドさながらエネルギッシュに歌い上げるものもあれば、まとわりつくような甘ったるい歌い方まで見せていた。一方、今作ではよりシーケンス主体となっており、前作で織り交ぜていたバンドサウンド感は息を潜めている。そしてyukihiroの歌声にも劇的な差はなく、穏やかかつ冷静なボーカルで統一されている。

しかし、ダークウェイブを背景に、テクノやエレクトロポップに昇華させたサウンドは心地よく、血液の循環に溶け込んだように自然と体内へやってくる。まるで浸食されるように、闇の美しさに虜になってしまいそうな感覚。そして、その楽曲たちの上で、この一見単調とも取れる落ち着きある歌声が、一つの線となってくっきりと浮かび上がるのだ。モノクロームの庭園で、あいまいを許さないとばかりにそれぞれの曲たちははっきりと独自の色を放つ。「echo」「roses」のような甘美に歪むダークエレクトロミュージックや、「the end of sequence code」や「gardens of babylon」といったソリッドな音色が強めのアップテンポなナンバーに至るまで、一風堂を彷彿とさせるような一貫された艶やかさが存在する。そして、各楽曲とも一定のテンポが終始続く中で、終わりに向けてひとつの作品が繊細に構築されていくように、様々な音が足されていく。パーカッションが折り重なっていき、時には甘く、時には尖るノイジーなギターサウンドが決め手を担ってゆく。その映像が頭に浮かんでくるような、洗練された美と闇の世界を堪能できるアルバムとなっている。

ここで前年にリリースされたものと、リミックスされた今年のものを比較したい。まず、『2017 MIX』では全体的にパーカッションが強く、軽やかに抜けつつも乾いた音像が印象強い。一方、『2018 MIX』では奥行が広く、重みを増してよりリアルな空間を演出している。その中で唯一7曲目の「precipitation」はリマスタリングされた後者の方がパーカッションが際立っていて、ロウが強く響くことで大きな空間に取り込まれる感覚と躍動感とひしひしと感じる。逆に前者では、アタックの強さとドライなノイジーサウンドが際立ち、ストリングスもよりパンチが効いているようだった。それぞれのアルバムの中で雰囲気を変える一曲となっている。

また、アルバムとしての情景も大きく変わる。『2017 MIX』では尖ったサウンドとインダストリアルの空気感が主体を握るからか、モノクロームに覆われたディストピアを彷彿とさせるが、『2018 MIX』では低音が効いた厚みある音像がゆえに、艶やかさが増し、果てが見えない甘美な闇を彷彿とさせる。後者の厚みや奥深い音像の要として、今作に参加したTHE NOVEMBERSの小林祐介のギターにある。ガツンとくるインパクトよりも情景が広がっていくようなサウンドに加え、エッジィなのにどこか甘いカッティングや、時折ソリッドなノイズを鳴らすというアクセントをそれぞれにつけているのが、後者の魅力のひとつとなっていることは間違いないだろう。特にダークネスな歪みとシーケンスの音色が織りなす優雅な美しさを持つ「dress」や、サウンドスケールが格段に大きくなり、メロディアスなギターリフにノイズが更に際立った「the end of sequence code」など、ずっしりと重たい曲へ変貌しており、迫力が増しているように思う。

『2017 MIX』と『2018 MIX』、同じ曲だからこそ違いが明確に表れ、それぞれの世界観を確立している。それはACID ANDROIDもといyukihiroが曲作りからMIXに至るまで携わり、イメージが沸きあがるものすべてを詰め込んだ証でもある。インダストリアル、ニューウェーヴ、エレクトロポップ、テクノを始めとしたダンスミュージック。こういったキーワードを自分の中で融合させては作品として生み出すことにトライし続けたyukihiro。アルバムを重ねるごとに、彼ならではのダークウェーヴ的サウンドと構築的な美を追求した作品へと進化し続けているのだ。違った世界観を持つこの“2作品”は共に、yukihiroが生み出した芸術品であり、彼の魂を宿し、丁寧に世話と手入れをされて美しく咲き誇る花々なのだ。闇の中、凛とした花々が咲き誇る美しい庭園。一輪も欠けることなく触れてみてはいかがだろうか。一見同じ花にも細かな違いを感じては、その度に感嘆の吐息を漏らすことになるだろう。(pikumin)

【Magazine】
【デジタル版】Magazine Vol.24(Ver.3.0)
Vol.24全ページ(P32)と新たに下記、未公開写真・記事28ページを追加した全60ページ。2016年7月にWebで掲載したyukihiro×小林祐介の対談に、写真を最新ライブのものに全て差し替えた特別な内容をお届け。未公開写真も有り。

【Release】

『GARDEN』
NOW ON SALE
レーベル:tracks on drugs records