ビットコイン爆弾「テザー問題」を眠い声で説明するよ

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ビットコイン爆弾「テザー問題」を眠い声で説明するよ
Image:John le Bon/YouTube

この地上のどこかにドルはあるのか、それとも…。

ビットコイン相場が下落するたびにビットコインを大量に買い続けている仮想通貨取引所のTether(テザー)に、 「23億ドル(約2520億円)もドルもってないんじゃないの」疑惑が生じ、世界トップの監督機関である米商品先物取引委員会(CFTC)が強制捜査に乗り出しました。

Bloombergによると、裁判所から文書提出命令が下りたのは12月6日で、 CFTCは通貨発行元テザー社とその経営者が運営している別の大手仮想通貨取引所「ビットフィネックス(Bitfinex)」に、 保有しているはずの23億米ドル(約2520億円) がこの地上のどこかに存在することを示せる証拠書類の提出を求めています。これに対し同社は「定期的に入る調査であり協力している」とコメントしていますよ。どこかにあってくれ、ドル!

テザーは「1テザー=1米ドル」の固定為替レートを旗印に掲げて登場し、中国政府による取引所閉鎖で行き場を失った中国のビットコインマネーを大量に吸い上げ成長しました。ただ冒頭でも触れたように、ビットコイン価格が下落するたびに大量買いを繰り返しており、米国の仮想通貨業界では 「これだけ毎回ワンパターンだと人為的な買い支えによる市場操作と疑われてもしょうがない」という声が前々からありました。ただ、New York Timesも書いているように、それを証明するのは簡単ではありません。

しかし疑惑を払拭するためテザー側が雇った監査法人フリードマン社もいつの間にやら契約打ち切りとなっていたことが先日わかり、また、昨春からウェルズファーゴなどの米銀とも契約解消になっていることなどからも怪しさが増しています。

ビットコイン崩壊を呼ぶテザー爆弾を10分で説明

文書提出命令発行の事実が明るみになったことで、巷では早くも「テザーが崩壊するとビットコインも崩壊する」という不安が広がり、ビットコインは9千ドルを割り込んでしまいました。なぜそう言われているのか? 気だるい声で解説している動画がありましたので、ちょっと訳してみましたよ。

お客さんのCさんがある日、「ビットコインを買いたいなあ」と思い、ビットコイン取引所のビットフィネックスさんに行きました。「ビットコインください」。

すると、ビットフィネックスさんに「ドルじゃ買えないよ。テザーに両替してきて」と言われました。どうも最近の取引所はそういう仕組みになっているようです。しょうがないのでCさんはテザーコイン取引所のテザーさんに行って、100米ドル払って100テザーコイン(USDT)を買いました。これをもってビットフィネックスさんに戻り、100テザーコイン払ってやっとビットコインを買うことができました。

結局100米ドル分のビットコインが買えたんだから結果オーライです…よね? 1テザーコイン=1米ドルなので、要は米ドルで買うのと同義です。

「だったら最初からドルで買えばいいじゃん! なんでこんな仲介人(テザーさん)を挟むんだよ!」ってなりますよね。でも、これには2つの理由があります。1つはビットフィネックス側の都合で、ドルのような法定通貨の取引に紐付いている法規制を無視するために「うちはビットコインの取引を仮想通貨としかしない」と宣言しているのです。もう1つはCさんのような、ビットコインを買いたい側の都合で、こちらも法定通貨の取引をビットコインから遠ざけたい事情があります。

例えばCさんが中国人だったら(テザーの客の多くがそう)、中国元や米ドルといった法定通貨でビットコインを買おうとすると、中国政府などの法規制に引っかかってしまいます。なのでこうして一度別の仮想通貨(この場合はテザーコイン)に両替(洗浄)してからビットコインを買うことで、火の粉が降りかからないようにして法律の抜け穴にしているのです。また、仮想通貨しか扱わない取引所では手数料なしで簡単スピーディーにお金が動かせるので、そういう理由で使っている方も多いです。

そんなこんなで遠回りしましたが、テザーさんがまじめに1ドル預かって1テザーコイン発行していれば何も(ビットコイン市場的には)問題ありません。ただ、話が胡散臭くなるのはここからで、テザーさんに「実は1ドル=1テザーコインというテザー(紐づけ)がちゃんとされてないんじゃないの?」という疑いの目が向けられているのです。なぜか? このチャートを見てください。

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Image:John le Bon/YouTube

とんでもない勢いでテザーコインが発行されています。数日間に1億ドル(約109億円)とかもザラです。会計監査が入っているなら問題はないんですが、一度も入らないまま気づけば7億ドルも発行されています(昨年11月段階)。しかもサイトの免責条項にはこんな恐ろしいことが書かれているんですよ。

テザーコインの現金化あるいはドル換算を求める契約上の権利、その他の権利、法的権利はお客様には一切ありません。テザーコインの買い戻し、現金との交換は保証しません。また、テザーコインの購入、取引、販売、換金で生じるいかなる損失の補償もいたしません。

無論、ビットコインの相場が上がり続けている限りは安泰です。Cさんは喜んで、またテザーさんからテザーコインを買って、ビットフィネックスさんからビットコインを買うでしょう。ただここでひとつ重大な問題が…。

テザーさん、よく見るとビットフィネックスと同じ人たちがやってる会社なんです。そんなバカな! と思うけどホントです。New York Timesもビットフィネックスがハッキング被害にあったときの記事で「同一人物」と書いています。

つまりどういうことか。Cさん(お客さん)からのお金の流れが、もしかすると一方通行かもしれないんです。だとすると、テザー・ビットフィネックスにどんどんお金が集まる。するとどうなるか。ビットコイン価格は上がります。どんどん上がり続ける。でも問題は下がりだしたときです。それでもCさんがガチホ(ガチガチのホルダー:ずっとビットコインを売らない人)で居続けることができるのか? というところなんですよね…。

テザーさんはビットフィネックスさんと一心同体なので、ビットコイン相場が上がっても下がっても、どっちに転んでも儲かります。相場が下がって困るのはCさんただひとりです。なぜなら現金を引き出せないから。

にわかには信じられないような話ですが、相場が上がり続けているのはテザーコインが大量に出回っているからにほかなりません。それを発行・取引しているテザーと、そのお得意先ビットコイン取引所のビットフィネックスが、一人二役で運営されているんだから「なんのつもりだ」って思われてもしょうがないですよ。ひとつの可能性として考えられていれるのは、テザーコイン乱発でビットコイン相場を吊り上げ、餌食のCさんにぬか喜びさせてもっとつぎ込むように仕向けている、というシナリオ(ビットコイン相場の吊り上げに使われているのは、テザーコインの担保としてテザーが保有しているはずの米ドル)。憶測ですけど、そんな見方も成り立ってしまうんです。

相場が下がり始めたらどうなるのか? テザーは公式サイトで「現金化には応じない」と免責しちゃってますから、漫画『ザ・シンプソンズ』みたいに運営者らがタヒチに高跳びしてで終わりでしょう。Cさんにはなんにも残りません


Image: John le Bon/YouTube
Source: Bloomberg, John le Bon / YouTube, New York Times

(satomi)