INSPIRATION OF THE YEAR

草彅 剛がいまを語る── 細胞が気持ちいいと感じるところへ

ヴィンテージ・デニム、50年代のギター、40年代のバイクと、いずれもオールド・アメリカンの世界を愛し、遊ぶ草彅 剛。飄々とした雰囲気を保ちながらも、新しい出発へ向けて腰が据わった視線を投げかけている。GQ MEN OF THE YEAR 2017の「インスピレーション・オブ・ザ・イヤー」賞の授賞者、草彅 剛にインタビューした。 聞き手・鈴木正文(GQ) 構成・サトータケシ Photos: Maciej Kucia @ AVGVST Styling: Tomoki Sukezane Hair & Make-up: Eisuke Arakawa
みんながいいって言ってくれるのなら一曲いかせてもらいますよ──細胞が気持ちいいと感じるところへ
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草彅 剛

アーティスト

2016年12月31日の「SMAP」解散、2017年9月8日の稲垣吾郎、草彅 剛、香取慎吾の前SMAPメンバー3人の事務所退所、そして同年9月22日の3人のファンサイト「新しい地図」での再始動、さらには11月早々のインターネット・テレビ・チャンネルでの72時間ぶっ通しの生放送、と2017年は前SMAPメンバーの去就に「国民的」な注目が集まった年であった。

第12回の「GQ MEN OF THE YEAR」は、新しい出発に踏み出したこの3人を「インスピレーション・オブ・ザ・イヤー」(人々をもっとも勇気づけた男たち)として称える。(インタビューは2017年10月某日)

細胞が気持ちいいと感じる方向へ

── 2017年は、10代の頃から突っ走ってきた草彅さんにとって、いろいろと考える時間を持てた年だったかな、と思います。

なんて言うのかな、ターニングポイントだったり節目になったりした1年でしたね。リスタート、リボーンという感じで、いろんなことがあったんですけど乗り越えて、次の方位を新しい地図に合わせたという気持ちでしょうか。

── 会社勤めの30代、40代の人が転職すると決まって、次の会社に出社するまで1カ月ぐらい自由な時間ができたときに、外国を旅したり、英会話学校に通ったりするという話を聞きますが、草彅さんの場合もそんなことがありましたか?

時間はあったので、どこかに行こうと思えば行けたんですけど、基本的に海外行くのがメンド臭くて(笑)。『GQ JAPAN』を立ち読みして、海外で走っているカッコいいクルマを見たり、祐さん(スタイリストの祐真朋樹氏)のお洒落なスタイリングを見て海外に行った気分になったりとかしましたけど。僕、東京が凄い好きで、なかでも六本木とか港区が大好きなんですよ。時間はあったので身近なというか、僕の好きな東京を満喫した感じでした。

── リスタートした草彅さんの第2章は、第1章をどんなかたちで引き継いでいくことになる、と予感していますか?

今までやってきたことももちろん大切なことで、かけがえのない経験をしてきたんだと思います。ですから、なにもかもが新しくなければいけないということもないはずですよね。得てきたものを全部忘れる必要はもちろんないと思う。ただ、ざっくり言うと、自分が行きたい方向へ行けばいいかなという気がしてます。ファンの方には無責任な発言だととられるかもしれないけれど、自分勝手にやるという意味じゃなくて、人からどう思われるかよりも自分の細胞がウキウキする方向に行きたい、かな。その細胞がウキウキするのが、たまたま吾郎さんと慎吾ちゃんとのプロジェクトなんだと思うんです。僕はワクワクしています。いい風が吹く方向に、気持ちがいいと感じる方向に足を運んでみようかな、とそんな感じで進んでいます。

── そのファースト・ステップが、「新しい地図」というウェブサイトを中心としたあたらしいデジタル・プラットフォームになったわけですね。

30年近く所属した事務所を退所したわけですから、正直、もう少し考える時間が長くてもよかったんじゃないかと思わないでもないんですが、でも、僕たちにかぎらず、生きていると迷ったり立ち止まって考えたりすることがだれにもあると思うんです。そのとき、たまたま十分な時間をかけることができずに再出発しなければならない、ということもあると思うんですね。それから、僕たちは事務所を退所したけれど、そんなふうにわかりやすい区切りをつけずに同じ職場で働き続けている人でも、ちょっと心持ちを変えるといつもと同じ景色が違って見えるということもあるんじゃないでしょうか。「新しい地図」というプロジェクトも次の映画(『クソ野郎と美しき世界』)も、いろんな意味で人それぞれである「再出発」への思いに共感してくれる仲間が集うプロジェクトなのかな、と考えています。「新しい地図」はファンサイトという面もありますが、それだけじゃないと考えています。みんなと一緒に作り上げる、みんなが集まれる場所にしていきたいんですね。

── 前事務所時代にはしてこなかったデジタル・メディアでのダイレクト・メッセージの発信をはじめつつあるわけですが、草彅さんはユーチューバーとして活動する、と予告していますね。抱負をひとつ、おねがいします。

僕自身はものすごくアナログな人間なので、いま勉強会とかでデジタルを学んでいる段階なんです。ですので、あえて背伸びをして知ったかぶりをするより、俺ちょっとわかんないんでゴメン、みたいな風に楽しみながら作っていこうと思っています。むしろ、何も知らない人の方が面白いってこともあるだろうし、でもホントに動画を上げられるのかよって心配もあるし。だから1発目は僕自身は出ずに、江頭2:50さんに頼んで、エガちゃんに僕の「1本満足バー」のテレビCMを踊ってもらうとか。”ユーチューバー草彅”でトレンド入りしてるのに自分は出ないのかよ! みたいな(笑)。

"おだてられると何でも見せちゃう、それが僕のいいところ"

アメリカン・フィフティーズ愛

── ところで、いまお召しのリーバイスはいつのものですか?

いまはいているのは大戦モデルといって、1944年から47年にかけて作られたものなんですけど、やっぱ結局、自分が好きなものは変わらないというか、20代前半のときに好きだったアメカジに戻ってきちゃってるんです。ドルチェ&ガッバーナとかトム ブラウンとかグッチとかも好きなんですけど、でも最近は、アメカジも日本独自のアレンジで、昔の”ザ・アメカジ”じゃなくなってきていて、アメカジと日本の技術とハイファッションのブランドがごっちゃ混ぜになってきている世界なので、そういうのを自由に楽しんでいるというか、そんな感じです。あと、岡山で作ってるジーンズが本当に好きですね。

── もうひとつの趣味であるギターのほうは、やっぱりギブソンですか?

ギターはね、1950年代のギブソンがやっぱり好きですね。6本持っています。最後に買ったのは2年前かな。ギブソンのCF100っていうちょっと小ぶりでマニアックなモデルなんですけど、でも凄くいい音で鳴る。クルマは1969年型のシェヴィ(シヴォレー)のピックアップ・トラックのC-10、バイクは1940年代のハーレーダビッドソンで、やっぱりフィフティーズあたりのアメリカものが好きなんです。いずれも、戦後の高度成長期のアメリカで機械が大量生産を始めた時代のものなんですけど、でもそのころの機械ものってまだハンドメイドに近い機械というか、それゆえにモノとしてのぬくもりがある。当時のメカもののそういう感じがすごい好きで、僕のなかではフィフティーズがアイデンティティというか、キーワードになっています。

── 1950年代から1960年代にかけてのアメリカのクルマやバイクの工業製品は、おっしゃるように手仕事のぬくもりを感じさせるものが多いし、また、デザインとしてもすぐれたものが多く出ていると思います。その時代のものが好きな草彅さんが、デジタル・テクノロジーを駆使してどんなユーチューバーになるのか、ちょっと楽しみですね。

そうそう、デジタルもインターネットもやるし、自分の中に染みついているアナログもあるし、ハイブランドもヴィンテージも好きだし……。だから「新しい地図」じゃないけれど、時代も性別も方法も問わず、自分の好きなものをチョイスして飛び回りたいですね。飛び回るっていっても、おそらくは港区限定になるでしょうけど(笑)、港区内を縦横無尽に飛び回りたい。

── これはほかのおふたりにも訊いていますが、3人の関係をどう受け止めていますか。一面では仕事の仲間であり、他面では友人である、ということでしょうか。

今年のことだけではなくて今までもずっとそうだったんですけど、一緒に歩いたり走ったりしてきて、いろんなことを乗り越えたうえで同じ方向を向いているんだなって、思っています。お前はどうなの、って話し合ったことは話し合ったけれど、それぞれが「新しい地図」に気持ちが向いたというのが、僕としてはとても嬉しいですね。3人の関係性について、家族なのか兄弟なのか同志なのか戦友なのか、想いを馳せることもたまにあるけれど、やっぱりその時々によって関係性が変わるし、それがまた面白いのではないか、と思っています。

── 当然、よきライバルでもある?

ライバル意識もあるにはあるんですけど、「新しい地図」に上がった動画を見たときに、ふたりが格好よかったことが凄く嬉しかったんですよ。もちろん以前からそういう感情はあったんですけど、よりそういう想いが強くなったというか。うん……、なんかね、言葉だと何て言っていいかわかんないけれど、30年近く一緒にやってきたんですけど、ここにきて新しい化学反応が起きて、新鮮な気持ちでふたりを見ることができたのだと思います。自分としても今までと違う表現ができるんじゃないか、と思えてきた感じです。ただね、動画を見て、僕より吾郎さんと慎吾ちゃんのアップのほうが多いじゃないか、僕の尺が足りないんじゃね? という気持ちもあるにはあるんですけどね(笑)。

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「5分の1」から「3分の1」へ

── 「5分の1」から「3分の1」になった変化は感じますか?

人間、正直なもんで、今までも責任感はあったんですけど、3分の1になって、露出とかの分担が増えるのは、無意識に感じているかもしれませんね。3人でリスタートするって頭ではわかっているにしても、実際に始まってみると、今までになかったスイッチが作られているというか……。そのスイッチはまだ入っていないのかもしれないけれど、でも、新しくインターネットを始めるとか、すべてを楽しんでやっているし、そう、今は楽しんでいる感じかな。

── なるほど。それで香取さんは、草彅さんからYouTubeのアイデアがばんばん出てきてヤバい、と言ってたんですね。

曲もいっぱいできてるんですよ(笑)。曲づくりは2年ぐらい前から始めたら意外とつくれて、最近は『渋谷バラッド』って曲をつくりました。タイトルは、大好きな斉藤和義さんの『歌うたいのバラッド』からいただいたんですけど、結構よくできたかなって。渋谷のロケーションのいいところでギターを持って歌って、YouTubeに上げようかなと思ったりしてます。

── 自信あり、と。

いえいえ、そうでもないっすよ。でも、自信って気持ちの問題だとは思うんですよね。空元気じゃないけど空自信でもないよりはあったほうがいいっていうか、そう信じているうちに自分も乗ってくるというか……。歌をつくるときには見切り発車になることが多いんですけど、僕は基本的に何も考えていなくて、でもそれもほかのふたりとのバランスで、ふたりが僕を支えてくれているというか、泳がせてくれているというか、手のひらの上で遊ばせてもらっているからなんだと思うんです。それを僕自身も楽しんでいて、どんどん手のひらの上で転がしてくれよ、と。おだてられると何でも見せちゃうし、それを自分でも楽しめるところが僕のいいところかもしれないな、と。自分で言っちゃうと、ですけど(笑)。みんながいいって言ってくれるのなら一曲いかせてもらいますよ、というのがいまの心境ですね。

TSUYOSHI KUSANAGI
1974年7月9日生まれ。SMAP結成時は13歳。1997年に主演した連続ドラマ『いいひと。』や、1999年に主演したつかこうへい作・演出の舞台『蒲田行進曲』での好演で、役者としてのポテンシャルを証明した。とりわけ、つかこうへいからは「大天才」と絶賛されたほか、三谷幸喜からも演技力を高く評価されるなど、そうした面でも今後が期待される。