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商業主義と歴史的情緒のバランス

香港・マカオの旅もいよいよ終盤。

大学生の頃に「深夜特急」を読んでからずっとどんな楽しい国なんだろうと思っていたのですが、想像以上にどこもかしこも発見がいっぱいで、年明け早々たくさん刺激を受けています。

中でも、マカオはカジノを含むホテルエリアの豪華絢爛さに圧倒され、日本にはない規模の大味なエンターテイメント性に驚くばかりでした。

▲今回マカオで泊まったホテル。ホテルの中に観覧車やアトラクションがあって、USJのような雰囲気でした。

恥ずかしながら渡航前に歴史などを詳しく調べることなく来てしまったためその日の夜改めてその歴史を振り返り、豪華絢爛なホテルたちができたのはこの10年ちょっとの話だということを知りました。

さらに私が滞在している現在もあちこちで工事中のホテルらしきものが点在しており、もし次に来る機会があったらその時にはまたマカオの景色は一層きらびやかになっているかもしれません。

▲パリをイメージしたホテルは、レセプションもヨーロピアンスタイルの豪華絢爛な内装。

一方で、昔ながらの景色が残るラザロ地区やセナド広場はこうしたホテルエリアとは対照的で、ポルトガルのキッチュな色使いと中国のオリエンタルな佇まいが融合した情緒ある風景でした。

▲ラザロ地区の街角はどこを撮っても画になる風景。

まったく違う国なのではないかと思うほど雰囲気の異なる地域を行き来してみて思ったのは、商業主義的な「施設」と文化的・歴史的な「風景」のバランスの難しさです。

個人的な価値観としては、目がチカチカしそうなネオンがきらめくホテルエリアより、人の暮らしが息づく歴史的なエリアの方が歩いていて楽しく、もしマカオにホテルエリアしかなかったら再訪しようとはなかなか思わない気がしています。

これは単に私がカジノやホテルの大規模なショーなどのエンターテイメントよりも、歴史や文化、街歩きが好きだからという理由が大きいですが、私にとってのマカオの価値は、洋風と中華風が混じった他にはない街並みや文化的背景でした。

ホテルエリアでは、主要なホテルを一通り見回ったものの、日本の百貨店にもあるブランドやテーマパークと似たショー、ピカピカでやや大味な造りには持ち前の「深掘りしたい」欲がくすぐられなかったのが正直な感想です。

カジノを中心としたホテルエリアはまさに商業主義の極みと言えるような空間で、そこではつまり最大公約数の人を満足させるだけの「わかりやすさ」が必要になります。

だからとにかく「大きく」「派手」であることがよしとされ、日本の茶道や華道のような「秘める美」「文化の余白」のようなものは削ぎ落とされているのです。

早く儲かるものを作るためには、わかりやすいものだけに注力する方が効率的だからです。

しかし一方で、そうした効率一辺倒で作られたものは、消費されるのも早いものです。

私は常々「作るのに要した時間と消費される時間はイコールになる」という考え方をとっているのですが、数百年の時を越えて連綿と続くお寺や歴史的遺産が他に代替されずオリジナルとして長く愛されているように、その場所やものが耐えてきた時間が強い愛着をうみ、消費されずに長く残っていくのではないかと思うのです。

大抵のことはすぐに真似できる時代には、機能としてオリジナルであり続けることは難しく、そこに蓄積された時間と物語、人の愛着が何重にも織り成されていることこそが本当の意味の「オリジナル」を作る。私はそう思っています。

とはいえ、時間の流れは万人に同じなので、今作ってすぐに100年経ってくれるわけではありません。

では、長い長い時間を耐えるだけの力は、どうやって醸成されるのか。

以前ゲストライターとして書かせていただいたmilieuの記事で、私はそのひとつの答えとしてこんな風に表現しました。

「消費される人」と「活躍し続ける人」。
その違いは、今の資産を切り売りする人と、常に変化を見せてくれる人ではないだろうか。

メディアのルールは変わった。今のプライドを捨てる勇気はあるか?

マカオのホテルエリアもきっと、今後絶えず変化していくことで30年、50年という時を越えていけば、今のきらびやかなエンターテイメント性とはまた違う情緒をもつようになっていくのでしょう。

今ある歴史的建造物も、はじめは何らかの商業的・政治的な実利としての目的があったはずです。

そしてその時代にあわせて変化し続けてきたものだけが今に残り、人々の記憶という歴史が重ね合わさることで歴史的情緒が生まれ、今を生きる私たちがもとの用途とは異なる価値を感じるようになったのです。

「今」という点で見れば商業主義的でも、数十年の時を経ればまた新たな価値が付加されていく。

そのためにも、作ってすぐに消費されてしまわないように絶えず変化し、時間によって洗練されていく過程を焦らず受け入れる覚悟が重要なのかもしれません。

そんなことを考えた香港・マカオ旅行でした。

P.S.夢のようだった旅も今日で終わり。明日、日本へ帰ります。今年もたくさん働くぞ!

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