アプリのダウンロード数6000万件超、1日の出品数100万点超、月間流通総額100億円超。国内唯一の「ユニコーン」(企業価値10億ドル以上の未上場企業)との呼び声高いフリマアプリ大手のメルカリが大幅な軌道修正に打って出た。

 その一つの発露が、12月4日に実施した仕様変更。住所や氏名など初回出品時の本人情報登録を必須としたほか、売上金の銀行口座への振込期限を従来の1年から90日に短縮。また、売上金を直接使用した商品購入は不可とし、購入に充当したい場合はポイントと交換する手順に変更した。これが何を意味するのか。

 「上場のための準備」「今さらかよ」「こんなことすらしていなかった闇マーケット」。メルカリが11月17日に仕様変更を発表すると即座にネット上の話題となり、こんなコメントがツイッターなどのSNS(共有サイト)にあふれた。

 メルカリはコンプライアンスよりも成長や売り上げを優先してきた。しかし、上場準備の段階で、警察庁と金融庁から“物言い”がついた。「盗品対策がなされていない」「ユーザーの売上金の扱いについて、資金決済法に準じた処理もなされていない」と。そこで、上場したいメルカリは、致し方なく対応した――。辛辣なコメントを浴びせるネット民の見立ては、さしずめこんなところだろう。

 思い返せば、2017年はメルカリの社会的責任が大きく問われた1年だった。

 現金や入金済みの「Suica」などが相次ぎ出品され、テレビニュースなどで非難の的となったのは今年4月半ばのこと。今夏には、盗品や違法コピーの出品も取り沙汰された。メルカリは都度、出品禁止にしたり、アカウントを削除したりと対応を実施しているが、後手が目立っただけに、今回の仕様変更も「上場対策」の“おためごかし”といぶかしがられても仕方がない。

 しかし、今回の「変節」の裏に、どんな背景や思いがあったのか、当事者の生の声はあまり伝わっていない。

「経営陣としてすごく反省している」

メルカリの山田進太郎会長兼CEO(最高経営責任者)。1977年愛知県生まれ。愛知の名門、東海中学校・高等学校を経て、早稲田大学教育学部に進学。楽天から内定を受け、インターンとして「楽天オークション」の立ち上げなどに携わるも、卒業後の2001年、ソーシャルゲームを手がけるウノウを起業。10年ウノウを米ジンガに譲渡。世界一周の旅を経て、13年メルカリ創業。17年4月から現職(撮影=的野弘路、以下同)
メルカリの山田進太郎会長兼CEO(最高経営責任者)。1977年愛知県生まれ。愛知の名門、東海中学校・高等学校を経て、早稲田大学教育学部に進学。楽天から内定を受け、インターンとして「楽天オークション」の立ち上げなどに携わるも、卒業後の2001年、ソーシャルゲームを手がけるウノウを起業。10年ウノウを米ジンガに譲渡。世界一周の旅を経て、13年メルカリ創業。17年4月から現職(撮影=的野弘路、以下同)

 創業者の山田進太郎会長兼CEO(最高経営責任者)の本音を探ろうと、六本木ヒルズにあるメルカリの本社を訪ねた。普段通りのラフな格好で会議室に現れた山田CEOは意外にも殊勝な態度で、何度も「反省」という言葉を口にしたのである。

 「自分たちはスタートアップだという思いがすごく強くて、とにかく人と同じことをやっていては生き残れないみたいな中でやってきて、ある種、走り過ぎていた部分が確実にあるなと思っていまして。取引先もお客様も、関係省庁もそうですけれど、それらに対して、何か『うちはこういう形なので』というような、譲らない姿勢が自分たちにあったことは、もう否定できないと思っています」

 「そういう中で、現金出品の報道が大きくなされたり、関係省庁からも、このままだとちょっと認められない、みたいな話があって、そこまで注目されているのかと、ある意味、驚いたというか。僕も米国法人の立ち上げで日本を離れている時期が長くて、報道もちゃんと見ていなかったりして、社会からメルカリがプラットフォーマーとして見られている、ということに気付くのが遅れたのは事実です。そこは経営陣としてすごく反省をしています」

 体よくあしらわれているのか、本心なのか。一つひとつ、確認をしていこうと、まずは「現金出品騒動」のことを掘り下げた。

なぜ、現金出品騒動が起きたのか

今年4月中旬、メルカリで現金が出品され、額面以上の値段にもかかわらず購入する人がいたことから話題となった
今年4月中旬、メルカリで現金が出品され、額面以上の値段にもかかわらず購入する人がいたことから話題となった

 なぜ、現金を額面以上で購入する人がいたのか。キャッシング枠がない、消費者金融で借りられない、といった事情を抱えた人が、クレジットカードのショッピング枠、あるいはメルカリ上での売上金を使って現金を得たかった、という筋が濃厚だ。こうした手法は、カードで新幹線のチケットを買って金券ショップで売るなど、従来からよくある換金術だ。

 記念硬貨などの売買もあるため現金を販売してはいけないという法律はないものの、貸金の観点では弱みにつけこんだ違法ビジネスと言える。実際に11月16日、メルカリに現金を出品した男女4人が額面以上の価格で現金を販売し、法定利率の上限を超える利息を受け取ったとして、出資法違反の容疑で逮捕されている。

 なぜ、現金出品騒動が起きてしまったのか。山田CEOは当時をこう振り返る。

 「予想外の使われ方をされ、恥ずかしながら外部からの指摘で気づいたこと、発覚が遅れてしまったことについて深く反省しています。当時、利用規約で禁じていた出品対象に『現金』はありませんでしたが、『マネーロンダリングの疑いがあるもの』という項目があったことから、便宜上、この項目に違反するという名目で、発覚後すぐに削除対応をしました」

 「たまに『売り上げや流通総額が欲しいから放置していたのでは』などと言われるのですが、そういうことは本当にないというか……。確かにメルカリは、個人による自由な売買の場として成長してきた面もあるのですが、大きくなっていったときに、予想もつかなかったような使い方が出てきて、それに対して現実的な対応を都度、迫られているというのが実情です」

 成長や流通総額のためなら何でもありというわけではない、とする山田CEOのコメントを裏付ける事実がある。

 一つは、その件数。派手に報じたいからか、メディアは現金出品の件数について触れなかったが、メルカリによると「多くて1日10件、合計でも数十件」。1日100万件以上の出品という規模の中では極小であり、看過しようが禁止しようがメルカリの成長にはほぼ関係のない量だった。それでも、山田CEOは「1件でも発生してしまったことは、やっぱり反省すべき」と言い、数件でも禁止対象の出品を逃さない体制づくりを急いだ。

「業者」は一律排除

 もう一つの事実は、メルカリが当初から掲げる「業者の排除」だ。CtoC(個人間取引)において、「チケット」や「アカウント」の転売は古くから主要なコンテンツ。特にチケットは、迷惑防止条例などで転売目的のいわゆる「ダフ屋」行為が禁止されているが、ネットオークションなどでは「一緒に行こうと思っていた友人が行けなくなったのでお譲りします」「仕事で行けなくなりました」といった文言を印籠にかざし、実際は業者であっても看過されていた実態がある。

 ヤフオク!が今年11月、利用規約の出品禁止対象に「転売目的で入手したと当社が判断するチケット」を追加し、本格的に「転売屋」排除に向けて動いたと話題になったが、メルカリは最初から規約で転売屋を禁止とし、怪しいアカウントの削除も昨年8月頃から強化している。なぜならメルカリはあくまで「個人」の売買の場であり、「業者」は一律、排除の対象だからだ。

 例えば、「仕事で行けなくなりました」とチケット出品の商品説明にあっても、同一アカウントでチケットばかりを出品しているアカウントは個人のふりをした業者とみなし、2015年頃から出品やアカウント削除などをしてきたという。「NINTENDO Switch」など品薄の商品を次々と出品するアカウントも、内容にかかわらず転売屋と見なし、削除対象としてきた。山田CEOは言う。

 「僕は必ずしも業者が悪いと思っているわけではないんですけれど、個人のお客様がやりとりをする場なんです、ということを前提としているので、そうじゃない方々はちょっと別のところでやってくださいというスタンスなんですね」

 「業者とみられるアカウントや出品の削除を強化したことで、確かに全体の出品数は一時的には減りました。けれども、逆に個人の出品が売れるようになったりと副次的な効果もあり、我々が『GMV』と呼んでいる、いわゆる流通総額に対しては、ほぼインパクトがない結果になっています」

 「将来的には、業者さんもメルカリの中で販売できるような仕組みをつくっていこうとは思っていますが、我々が気にしているのは、業者の方々が入ってくることによって個人のお客様が売れなくなるとか、肩身が狭い感じになってしまうこと。それは避けたいなと思っています」

盗品など目立つ不正出品

 話はそれるがメルカリは11月30日、商品をライブ配信動画で紹介する機能「メルカリチャンネル」を、一部法人向けに開放した。ただしこれはあくまで動画配信のみで、かつ一般のメルカリのようにどの法人でも自由に使えるわけではない。将来の法人対応に向けた実験的な取り組みと見た方がよい。

 本題に戻すと、現金出品騒動は「売れれば何でもアリ」というスタンスだから起きたわけではなく、想定外の事故のようなことであった、ということになる。それでは「盗品」はどうか。

 メルカリはヤフオク!などと比べて確かに“ゆるい”。それが気軽に手軽にモノを売りたい個人に刺さり、個人がモノを売り買いするインフラとして定着した。一方で、そのゆるさは盗人などの犯罪者の付け入る隙にもなった。

 今年7月には、万引きした約800冊の書籍をメルカリで販売し、100万円近くの利益を得ていたとして、徳島県の女が逮捕された。8月には、違法コピーしたマイクロソフトの「Office」をパソコンにインストールして販売したとして、岡山県の夫妻が逮捕されている。

 メルカリは、2015年から警察とのホットラインを開設し、問い合わせ対応や情報提供をしてきた。盗品と思われる場合は、独自に出品やアカウントの削除対応もしてきたという。しかし、氏名や住所などの登録が必須ではなく、本人確認もないため、捜査が難航することがあったことから、警察庁などと協議が続いていた。

「フラストレーションが警察にあったのは確か」

メルカリでは12月4日から、初回出品時に住所氏名、生年月日の登録が必須となった
メルカリでは12月4日から、初回出品時に住所氏名、生年月日の登録が必須となった

 メルカリが出した一つの答えが、住所や氏名など初回出品時の本人情報登録を必須とする今回の仕様変更だ。免許証などによる「本人確認」はしないが、銀行口座の名義との一致で事実上の本人確認が可能になるとしている。山田CEOは経緯をこう説明する。

 「『盗品みたいなのがあるから流通総額が増えている』とか『盗人市場じゃん』とか、いろいろ言われることもありますが、もちろん許容しているわけではないですし、放置していいとも全く思っていません。むしろ、撲滅したいとパトロールや削除をやってきていたつもりでした」

 「ただし、出品全体のボリュームが増えていくと、盗品など不正な出品の絶対数も増えていき、我々の対応が追いついていなかったのも事実です。目立つケースも出てきて、警察の中でも問題視されつつあって、フラストレーションが溜まっていたのは確かだと思います。そこは率直に反省し、まず実質的にできることとして、出品時の本人情報登録をやることに決めました」

 あまりにメルカリの成長速度が早く、関係省庁が目を尖らせる案件が増えてきた。山田CEOはそこへの対応が遅れたことを真摯に認め、反省する。それは、売上金の処理についても同様だ。

「売上金」の扱いで金融庁と協議

 これまで、メルカリで販売して得た売上金は、そのまま1年間を上限にメルカリ上に預けておくことができ、メルカリ上での買い物に利用することもできた。1年以内に売上金を銀行口座に振り込む申請手続きをしなければ消滅してしまうが、手数料がかかるため、1年以内にメルカリ上で買い物に使うユーザーが多かった。

 メルカリ経済圏を活性化させる一つのアイデアでもあったこの仕組みに、物言いをつけたのが金融庁だ。

 メルカリは、ユーザーの売上金を別口座で管理しており、消費者保護やコンプライアンスの観点で問題はない、という認識だった。しかし、メルカリの急成長とともに、プールされた売上金も膨張する様を見た金融庁は今春あたりから、資金決済法の「資金移動業者」にあたると考え、両者の話し合いが始まった。

 資金移動業者に該当するとなれば、プールされた売上金の100%以上を供託金として保全する義務がある。さらに、ユーザーから運転免許証など身分証明書のコピーを送ってもらい本人確認をする義務も生じる。メルカリとしては、固定費がかさみ、ユーザーの利便性も損なうため承服し難い。最終的な着地点は、メルカリが資金決済法上の「前払い式支払手段発行者」になるという方法だった。

 そのため、この12月に売上金を1円=1ポイントの「メルカリポイント」に換金してプールする方式へ変更し、かつ売上金の預かり期間を90日間に短縮。それ以降は、銀行口座に自動的に振り込むようルールを変えた。ユーザーは、売上金をポイントに変えればこれまで通りメルカリ上で買い物ができるし、損もしない。メルカリにとっては、ポイント残高の50%以上を供託すれば済むので固定費の圧縮にもなる。

 果たして山田CEOはこの着地をどう見ているのだろうか。

「これだけでは不十分」

 「正直、複数の法律事務所からも、これだったら合法ですねと意見をもらいながらやってきましたし、別に違法なことをしていたわけではない。これまで、特にずっと何も言われてこなかったのですが、かなりの現金が1年間も滞留するのは危険じゃないですか、といったご意見を頂戴するようになって、であればどういう形が望ましいのか、話し合いの結果、こういう形に落ち着ついたということです」

 「これだったら、金融庁も納得できる形になり、我々としても、使い勝手でワンクッション増えるものの、万が一うちが倒産してもちゃんと供託・保全しています、と逆に分かりやすくなった。全くネガティブには捉えていなくて、むしろ、いろんな省庁とのリレーションができ、これからの事業がすごくやりやすくなった、事業の継続性が高まったなと、かなりポジティブに捉えています」

 「ただ、もっと自分たちが主体的にやっていなければいけなかったなと、そこはすごく反省の大きい部分でして、これだけでは不十分だとも思っています。ここまでは、要請されたことをやったというレベルにとどまってしまっていますので」

 「じゃあ例えば、12月の施策だけで完全に盗品が防げるんですかというと、もっとできることがあると思っているので、これに終わらず、来年の1月以降も第2弾、第3弾とやれることを主体的にやっていきたいと思っているところです」

 メルカリは顧客対応、あるいは不正な出品を検知したり、削除したりするために、カスタマーサポートの人員を増強してきた。東京・仙台・福岡にサポートの拠点があり、山田CEOいわく「際限を付けず、採用してきた」。結果、現在は合計300人体制になったという。

AIで不正出品を検知

 ただし、規模が膨らんだ今、「人力」には限界がある。そこで山田CEOは、主体的に取り組みたいことの一つとして、「AI(人工知能)」の活用に大きな期待を寄せている。

 メルカリは今年2月頃から、機械学習などAI分野の技術者の採用を強化、「チームAI」と呼び、様々な開発を急いでいる。その大きな成果が、今年11月中旬に機能追加された、「商品名自動入力機能」だ。

例えばメルカリのアプリで電子タバコ「アイコス」を撮影すると、「アイコス」「メンズ/小物/タバコグッズ」といった情報が自動的に入力される
例えばメルカリのアプリで電子タバコ「アイコス」を撮影すると、「アイコス」「メンズ/小物/タバコグッズ」といった情報が自動的に入力される

 出品する際、画像を登録した上で商品名やブランド名、カテゴリーといった情報を入力する必要があるが、11月中旬の機能追加では、AIが画像からある程度のキーワードを推測して、候補として提示するようにした。AIは過去の出品情報を基に学習を重ねるため、提示する候補の精度は上がっていくという。

 当然、今後はAIを不正出品の検知にも活用していく。テクノロジーカンパニーを標ぼうする山田CEOの口調に熱がこもっていった。

 「現金や盗品のような不正な出品は、人力では完全にゼロにはできないかもしれない。でも、AIを活用すれば、限りなくゼロにする、事実上、問題が起こらないようにすることができるんじゃないかという思いで、今、開発を急いでいます」

 「例えば、急に同じコミックの最新刊を5冊出品するのは怪しいなど、盗品や偽物を出す人の行動には特徴があると思っているんですね。チケットなどを連続出品する業者も同様です。AIがそれらの行動を学習し、特徴を浮き彫りにし、出品を検知した時点でさらに高度な本人確認を要求するなどすれば、かなりの不正を未然に防げると思っています」

 「あるいは偽ブランド品であれば、画像をAIが分析すれば人間よりも正確に真贋を見極めることができる可能性が十分にある。加えて、今はお客様の通報をもとに人間のパトロールが確認しにいって発覚することが多いのですが、通報・確認の結果を学習させて、さらに人間の鑑定士の鑑定結果も学習させれば、むしろ人間よりも精度は高まるはずと期待しています」

 どこまで現実のものとなりつつあるのか。出品を禁止している「ゲームアカウント」については既にAIでの検知を試験的に始めており、その他の不正出品の検知も今年末から2018年初頭にかけて、随時、運用を開始する段階まで来ているという。

 AIにかける山田CEOの期待は大きい。その根拠は、1日100万件以上もの出品数にある。

 「AIによる機械学習というのは、データがないと何もできない。メルカリには膨大な出品があるという点で、すごくいいポジションにいると思っていますし、そこに魅力を感じて、優秀な機械学習のエンジニアが次々と入ってきてくれている。だから、偽物判定や盗品判定という分野では、相当いい性能が出せるはずですし、もしかしたら世界最高峰のものができるかもしれません」

 「一方で、AIの活用で人間が楽になる分、そのリソースをもっと高度な監視や、電話やチャットによるアクティブな対人サポートに振り向けることができると思っていまして、そっちはそっちで増やしていく。そこは、ある意味、コストを度外視してでも、やれることは全部やろうという感じで取り組んでいます」

社会に「愛される存在」へ

 ここまで話を聞いて、単に「上場のため」の回避策として12月の仕様変更を実施したわけではないと思えたが、一応、本人に念押しをした。

 「上場については、決まっていることはないとしか言えませんが、当然、選択肢としてはずっとあります。ただ、その前の段階で、プラットフォーマーとして社会的な要請と折り合いをつけなければならないフェーズが訪れたという認識です。そのことに、現金出品騒動があった今年の春くらいから気づかされました」

 「いろんな報道やご指摘が出てきて、何でこういう状況になっているのかなと考えた時、やっぱり自分たちがまいた種というか、『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』という自分たちのミッションに本当にピュアに向き合っていた一方で、『社会的な責任』に鈍感だった部分があると思っていまして」

 「自分たちはベンチャーなので放っておいてください、という態度はもう許されない。社内的には『愛される存在になろう』と言っているんですけれど、これからのフェーズは、社会から愛されないとむしろミッションから遠ざかってしまう。一連の気づきを経て、反省し、次なる世界での展開につながるいい機会をいただけたと思っています」

 「Go Bold(大胆にやろう)」を掛け声に、ベンチャーらしく突き進んできたメルカリ。今回のメルカリの変質は、上場するために変わったというよりは、上場を視野に入れたのと時を同じくして現金出品騒動が起き、関係省庁から様々な指摘を受け、このままではいけないと覚醒した、というふうに見るべきだろう。

ベンチャーらしさと社会との折り合いのバランス

 コンプライアンス上の問題を起こし、謝罪する経営者が後を絶たない。上場企業であれば、その社会的責任がより問われ、世間の監視も強まる。どれだけ突っ張っていたベンチャーでも、上場し、成長すればするほど、否応なしに社会的責任や社会との折り合いを強く意識するようになる。

 このプロセスを上場を前にして済ませたメルカリは、会社の姿勢を変える機会が早く訪れたぶん、ラッキーと言えるのかもしれない。山田CEOも「いい機会をいただけた」と言っている。

 上場時期についてメルカリは一切の明言を避けるが、2018年春と目されている。ベンチャーとしての勢いを失わずに、メルカリ流に言えばGo Boldを保ったまま、社会と上手く折り合って行けるのか。その両輪を回す手綱さばきは極めて難しいが、山田CEOにはその道筋がある程度、見えているようだ。

 「上場するということは、本当に社会の公器になるということとイコールなんだなと、言葉では分かっていたんですけれど、今回のことで腑に落ちた感じがしています。これを乗り切ることができれば、本当に次のステージにいけるなという感覚で、これもできる、あれもできる、まだまだやれることがたくさんあるなと、次の展開がかなり見えてきました」

 メルカリが今後、成長を維持しながら上手く社会と渡り合うことができれば、今回の覚醒は「あの時に社格が上がった」と、より評価されることになるだろう。逆に大きく躓くようなことがあれば、あの時の覚醒や、山田CEOの言葉は何だったのか、ということになる。それだけに山田CEOの言葉は重い。

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