星野リゾートが仕掛ける20代旅。意識したのはフェスの延長

「修学旅行以来、旅行をしていない」

そんな学生たちの発言を機に、星野リゾートはどうしたら20代に「旅」を体験してもらえるかを模索している。それが2013年から始めた「若者旅プロジェクト」(若者旅)。高級温泉旅館に一律料金で宿泊できる若者旅プランは以前から好調だ。2016年度からは、バスツアーで行く新企画「RYOKAN CAMP」も始めた。

旅離れが進む若者がなぜ、星野リゾートが展開する高級旅館に足を運ぶのか。若者は旅に何を求めているのか。

あえて高級旅館に泊まるプロジェクト

観光庁の2015年度の調査によると、「若者の趣味」のランキングで、「旅行」は8位だった。1位は「音楽鑑賞」、2位は「PC・スマホ」、3位は「読書・マンガ」と何ともインドアだ。

星野リゾートが若者旅プロジェクトを始めた2013年も、若者の旅離れが顕著だった。

宿泊予約サイト「じゃらん」の2012年の調査によると、1年間に宿泊旅行をした人は20〜34歳では10人中1.5人にとどまり、2005年~2012年の8年間での宿泊旅行をした20〜34歳は1225万人減少していたのだ。

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日本の旅行のHowtoを解説した「RYOKAN GUIDE」。温泉や旅館が初めての人に対しても、敷居を下げられる。

そんな若者たちを対象にしたプロジェクトの拠点に星野リゾートがあえて選んだのは、高級温泉旅館の「星野リゾート 界」。「旅館に泊まる」という日本の文化を若者に体験してもらいたいと、20代限定で1泊2食1万9000円(最大46〜48%割引)の一律の価格で、全国の「界」に宿泊する「若者旅プラン」を提供し始めた。旅館にまつわるマナーを解説した「RYOKAN GUIDE」を配り、同世代の旅館スタッフがサポートする。

主に冬場の3カ月間程度を対象に、これまでに第7弾まで開催した。

参加者は、初回の約550人から、第6、7弾では約3000人に膨らんだ。12月から始まる第8弾は4カ月で4000人の利用を目指す。

意識したのは「仲間感」と「学び」

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RYOKAN CAMPを立ち上げた佐藤亜沙子。

佐藤亜沙子(27)は、2015年から若者旅プロジェクトに関わる。

プロジェクトは順調だったが、利用者のデータを見ると、年齢層は20代後半が全体の約5割を占め、1年間の旅行回数は2~3回という回答が最も多かった。 「本来は国内旅行に行かない人のためにやるプラン。旅の良さを知らない人に知らせる、とにかく掘り起こしが大事な要素」と原点回帰する企画を練った。

そこで生まれた企画が「RYOKAN CAMP」。 定員35〜40人のバスツアーで、 参加者の年代は「19〜22歳の学生」などと限定した。2016年度に2回開催し、2017年度は留学生らに対象を広げた。価格は2万円台。

佐藤亜沙子は企画する上で、広告会社が出した若者消費に関する報告書に着目した。報告書には「コンセプトを大事にする若者の旅」「安いだけでなく、お金や時間を費やす価値があると思う動機や対価が必要」とあった。佐藤亜沙子は、若年層は)ただ旅に行って楽しむだけでなく、何かを得られる充実感を求めている」と感じた。意識したのは「仲間感」「同世代との学びのある旅」。

貸し切りでフェスの延長

「一緒に参加した仲間と充実した時間をつくるには」と考えたとき、1つは「交流」だった。「CAMP」には、「合宿感覚でワイワイと楽しんでほしい」との思いが込められている。

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同世代の仲間と温泉旅館を体験する「RYOKAN CAMP」。修学旅行や合宿のような雰囲気だ。

出典:星野リゾート

「旅はフェスの延長線。バス、旅館は貸し切り」、盛り上がれる場をつくった。

若者が苦手な「移動」も旅ととらえて、車内で旅館や温泉にまつわるチーム対抗のクイズをした。旅館では同世代のスタッフからマナーを教わる場面を盛り込み、「(個人旅では得られない、)みんなと一緒に楽しむイベント」という付加価値をつけた。

参加者は、初対面同士でも、クイズをするとすぐに打ち解けたという。

「19〜22歳の学生」とターゲットを絞ったことも功を奏した。参加者の1人は「学生にとっては高額だったが、グループの人と仲良くなり、最高の2日間だった」と感想をくれた。

「その時にしか体験できないメッセージを年齢制限をしたことでより伝わる。初めての温泉旅館だけど自分だけじゃない、どうやってやるんだろうと、一緒に体験ができる」(佐藤亜沙子)

就職前にゴルフデビュー

「学び」は毎回テーマを設定した。初回は「手仕事トリップ」をテーマに鬼怒川温泉の地元で、伝統工芸・黒羽藍染の工房を継いだ若手職人とのワークショップ、2回目は「温泉ゴルフデビュー」をテーマに打ちっ放しやハーフのコースを回った。 就職を控えた参加者が多く、一足早いゴルフデビューになった。

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マーケティング統括ディレクターの佐藤大介。

マーケティングを統括する佐藤大介(42)は「日本文化をルールとしてではなく、作法として知っていると楽しくなる。実際にやってみて、なるほど、と思ってもらいたい」と話す。

中には1人で予約をした人もいて、佐藤亜沙子は「(若年層は)物事に対しての興味関心度が高い。癒しだけではなく、旅を通して知識や感性を得たいと思っているのかもしれない」と考えている。

若者旅は将来への投資

観光庁の若者旅行振興研究会は若者旅行を分析した結果、傾向や対応策に「3人以上のツアー参加者が多い」「明確なテーマ設定が参加の理由に」「異業種と連携し、新たなニーズ開拓」との3点を挙げた。RYOKAN CAMPには、これらの要素が盛り込まれている。

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学生時代に旅行を経験すると、将来も旅行をする割合が高まる。

出典:観光庁

2016年度のRYOKAN CAMPの参加者は、1年間の旅行回数が0回の人が20%、6回以上、10回以上の人も15%程度いた。「旅行をしている人が、旅行をしない人を誘っているのでは」と佐藤亜沙子は手応えを感じた。

通常よりも安価な料金で、高級旅館を提供する若者旅プロジェクトに、社内から利益を優先したプランを求める意見も出るが、佐藤大介は「『未来への投資』というのが重要なポイント」と強調する。

観光庁の統計をみても、学生時代のころの旅行経験は後々の旅行頻度に大きな影響を与える。「(学生時代に旅行に)よく行った」「少し行った」という人は、将来も旅行に行く割合が高かった。

「旅館を静かにゆっくり過ごす場所ではなく、どこかでそれを崩したい」

社員1人の発案で始まった「RYOKAN CAMP」は、新しい旅のスタイルを築き、将来の旅行需要に着実につなげていく。

(本文敬称略)

(文:木許はるみ、撮影:今村拓馬)

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