アストンマーティンの日本における積極的なブランド展開が、このところ留まるところを知らぬ勢いで進んでいる。
都内のルート246、青山通りに面したHonda本社の斜め前、住所でいうと東京都港区北青山1丁目の一角に、ロンドン1号店に次ぎ2号店目となるグローバルブランドセンターがオープンした。その名も「The House of Aston Martin Aoyama」!
3つのフロアに分かれたここでは、アストンマーティンの歴史やデザイン哲学を実感できるほか、現車、ギフト、ミニチュアカー、アクセサリー、アパレル、ラグジュアリーアイテムなどの幅広い商品が展開され、それらを購入することも可能という。
さらに青山通りから見てその裏に当たる部分に、これも新設の大規模な東京ディーラーがオープン。「The House of Aston Martin Aoyama」との連携プレーで、北青山1丁目にアストンマーティンのブランドゾーンを構築したことになる。
アストンマーティンが日本の首都東京にここまで野心的な投資をしているのは、2014年にCEOの座に着いたアンディ・パーマーが元日産の重役であり、日本びいきで東京や横浜に縁の深い人物であることと無縁ではあるまい。
で、この「The House of Aston Martin Aoyama」と東京ディーラーを舞台にして最初に開かれた大きなイベントが、11月21日夜に開催された新型V8 ヴァンテージ世界同時発表会の東京バージョンだった。このイベントは、英国、米国、中国などでも同時に催されたものだという。
ニュー V8 ヴァンテージをアンベールするための儀式は東京では21日21時に始まったから、その時点での時差から計算すると、本国のロンドンでは同日正午にアンベールされたはずである。
そこで僕が思い出したのが、先代V8ヴァンテージのプロトタイプのデビューの模様だった。2003年デトロイトショーのプレスデイ、すでに他のクルマは台上に展示されているのに、アストンマーティンのブースには1カ所、空きスペースがあった。
やがてそこに、ゴールドがかったシルバーの美しくも精悍なスポーツクーペが、他の展示車のあいだを縫うようにして、低い爆音をともないながらショーの会場内を実走してきた。それこそが、ウルリヒ・ベッツ率いる当時の新体制アストンの切り札、「V8 ヴァンテージ」のプロトタイプなのだった。
その近くには、それを心配そうに見守る、現任マレック・ライヒマンの前のチーフデザイナー、ヘンリック・フィスカーの姿もあったのを、今もはっきりと覚えている。
翌2004年、アストンマーティンはまずV12エンジン搭載の「DB9」を発売、V8 ヴァンテージが市販に移されたのはその1年後、2005年のことだった。
つまり、ゲイドンに居を構えたばかりの当時のアストンマーティンは、そういった薄氷を踏むような体制で、ニューモデルを発表していたわけである。それに比べると、現在のアストンの発表体制には余裕さえ感じさせる。
ニューV8 ヴァンテージの市販型ロードモデルを世界6カ国で同時にデビューさせるという離れ業をやってのけたのに加えて、早くも開発が進んでいるというそのレース仕様、ヴァンテージ GTEの存在も同時に公表するという周到ぶりだからだ。
そうしてその全容が明らかになった新型V8 ヴァンテージのスタイリングは、先代とは明らかにテイストの異なるものに見えた。面と面の境界にシャープなエッジが走り、タイトでスリークな緊張感を漂わせていた先代と違って、新型は大きなアストングリルを前面に配したワイドでボリューム感の強い、あるしゅ肉感的なデザインに見える。
先代のV8ヴァンテージ、およびDB9は前述のヘンリック・フィスカーの作品だが、それに対してライヒマン率いる現行アストンのデザイングループが、初めてそこからの明確な脱却を意図した作品であるかのように、僕には思えた。
なぜなら新体制の下ですでに発売されている「DB11」は、フィスカーのラインを基本的に継承したその発展型といえる佇まいをもって登場してきたが、V8ヴァンテージはそうではない、まったく新しいデザインテイストを提示していたからだ。
そこからは、DB11がこれまでのアストンユーザーの系譜を受け継ぐためのクルマであることを意図してデザインされているのに対して、ヴァンテージはこれまでとは違ったまったく新しいユーザーをアストンマーティン・ワールドに誘い込もうとするクルマではないか、という推測が思い浮かぶ。
具体的には、従来のアストンユーザーよりも若い層を狙ったクルマで、そのことはエクステリア以上に、センターコンソールを中心とする、いかにも今風なデザインのインテリアに現れていると思う。
しかもニューV8 ヴァンテージ、スタイリングデザインのみならず、中身のメカニズムも、従来型とは共通項がないほど一新されている。
まずプラットフォームが基本DB11と共通の新型に替わったのに加えて、パワーユニットも従来のアストン自製4.7リッターV8自然吸気から、AMG製をベースにした4.0リッターV8ツインターボに替わり、パワーもトルクも大幅に増強された。
さらに、先代からの好ましい伝統を受け継いでリアミッドにトランスアクスル配置するギアボックスも、先代の6段MTもしくはロボタイズド2ペダルから、ZF製8段ATに変更した。前後重量配分は先代よりは前寄りになったが、それでも50:50を実現しているという。
となると当然、軽量オプション装着車で1530kgという車重を走らせるパフォーマンスも先代より大幅にアップし、0-100km/h加速3.6秒、最高速314km/hという目覚ましい数値を公表している。
サスペンションは先代の前後ダブルウィッシュボーンから、前ダブルウィッシュボーン、後マルチリンクに進化、LSDは電子制御のEデフに替わり、ダウンフォースを生むボディの空力特性も大きく進化したと伝えられる。となるとドライビング感覚も、先代とは別物に近いレベルにまで変わっているのかもしれない。
さてこのブランニュー V8 ヴァンテージ、2018年第2四半期からデリバリー開始予定で、日本でのプライスは税抜1980万円から、と公表された。果たしてその乗り味はいかなるものか、しかもどのような顧客がそのステアリングを握るのか、興味の尽きないクルマである。