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日の出の勢いの宅配便だが……

 

張雪=文

市場規模は640億元(約7兆8200億円)に達し、金融危機に見舞われた際も20%以上の伸び率を維持してきたのが、世界の宅配便市場で最も急速に成長している中国。

1979年、日本のOCSと中国対外貿易運輸総公司との共同出資で着手して以来、中国の宅配便事業は既に30年以上の歴史を重ねてきた。当初は宅配便は外資と合弁企業だけが事業展開していた。ところが今では、中国経済の発展とネットビジネスの急成長にともなって、人々の生活の隅々にまで浸透している。

「福の神」はネットショップ

全国統一大学入試の通知書を受験生に手渡すEMS集配員。受験生は封筒の送り主を見て、中身が分かり大喜び(東方IC)
毎日正午、杭州市のある宅配便会社に勤める集配員の丁明軍さん(仮名)は、清江路にある四季星座オフィスビルに到着し、荷物を受け取る。このオフィスビルは20階建てで各階に18のテナントが入居し、その70%以上がネットショップへの賃貸で、全体で230軒のネットショップが入居している。このうち大学生だけのショップが156軒ある。毎日午後5時を過ぎると、大量の宅配便がこのビルから全国各地に発送されている。

丁さんはこのビルが宅配便業の「福の神」だということを心底理解し、ここの顧客とうまく付き合ってさえいれば、月収は1万元を超え、年収は20万元を突破する。どちらもちょっとしたことでたやすく実現できることだ、と思っている。

彼が一番忙しい時間帯は午後5時から9時までだが、毎日、定刻より3、4時間早く四季星座ビルにやってきて、顧客を手伝って小包の整理、宅配伝票の書き込み、貼り付け、包装など集配員の仕事ではないこともひとつひとつこなしている。

顧客たちの評価は「てきぱき良く働く」と高く、この評判によって、月給は1600元から1万6000元に一変し、多い時には3万元を超える。

「2年前、ネットショッピングはこれほどの人気はありませんでしたが、私の担当区域の一人の顧客がこの商売を始めると、私の扱う伝票が突然増え始めました」と、彼はこのネットショップの顧客がいたので、彼の宅配人生が大きく変わった、と述懐していた。

当然のことだが、丁さんは好運な人で、彼の会社のように、集配員は担当地域によって収入に差があり、ビルやオフィスビルが集中しているか、またはオンラインビジネスの会社が多ければ、月収は軽く1万元を超える。中国では、宅配便会社の賃金は基本給と歩合給で成り立ち、集配員の10%は月収が1万元を超えているが、20~30%は1千元ちょっとしかない。「収入の大きな格差は宅配業務の不均衡が原因のひとつだ」と、ある宅配便会社の担当者が語っていた。

初期にはEMSの独占

その日集荷した荷物の伝票を示す上海のある宅配便会社の集配員(東方IC)
1984年、公共事業体の中国郵政が国内初のエクスプレスメール(EMS)業務に着手した。これが中国の宅配便事業の先駆けだった。その後、民営の宅配便会社が雨後のタケノコのように増え、1993年には大手2社、「順豊」と「申通」がそれぞれ珠江デルタ、長江デルタで起業した。両地区は外向型経済が最も発達していた。こうした土地柄だったからこそ宅配便事業の需要があった。1986年、ドイツの運送集団DHLと中国対外貿易運輸集団総公司が合弁で中外運DHLを設立した。これは国際宅配便会社の初の中国市場参入だったが、以後、激しい覇権争いが始まった。

初期には中国郵政が膨大なネットワークによって、国内市場の大半を制し、当時人々が最初に選ぶブランドはEMSだった。当時は民営宅配便は事業を始めたばかりで、ネットワークは沿海地方と経済発達地区に限られ、中西部地区や中小都市では配達網がなかった。国際宅配便の大手も主要業務を国際宅配に置き、中国国内のネットワークは不備で、EMSの地位は不動だった。

国営、民営、外資の3本柱

花束とプレゼントを届ける上海の宅配便集配員、道化の衣装もサービスのうち(東方IC)
ネットショップの黄鴬さんは毎日午後2時から、前日、顧客が注文した商品を宅配便用の袋に入れ、宛先をはっきり記入し、宅配便会社の集配員の到着を待つ。午後4時前後に、集配員の王さんがやってくる。王さんの説明によると、黄鴬さんが住む社区(コミュニティー)には多数の若者が住み、ほとんどの階にネットショップが入居している。大きなネットショップでは毎日100件を超える荷物があり、宅配便会社の規定で1件あたり1元の手数料が歩合として入るので、ちょっと計算してみても、王さんの収入はほんのわずかとは言えないだろう。

1998年、中国で最初のネットショッピングが始まった。それが2010年末になると、ネットユーザーの規模は4億5700万人に増え、ネット市場の取引総額は5231億元に達した。さらに最新のネットユーザーの購買習慣調査によると、84%のネットユーザーがネットショッピングを目的としていることが分かった。ネットショッピングの75%が現物の配達を必要としており、ネットビジネスによる郵便小包は10億件を超えた。

2006年以降、ネットビジネスの発達によって、国内の宅配便事業が爆発的に拡大する時期を迎えた。民営宅配便企業も拡大時期を迎え、今では民営宅配便が国内宅配市場の80%以上のシェアを占め、「順豊」「申通」などを代表とするリーダー企業に成長したことにより、国営、民営、外資の3本柱の構造が基本的に確立した。

中国宅配便事業協会副会長兼秘書長のダワ(達瓦)氏は、2008年の個人間の取引額は1320億元だったが、これによる小包宅配量は五億件を超えた。一部の大手宅配便企業のネットビジネスの宅配市場でのシェアは50%を超えた、と語った。

国家郵政管理局の統計によると、2010年、全国規模以上の宅配便の業務量は累計23億4000件に達し、前年比25.9%増で、収入累計は574億6000元、同20%増だった。

人手不足など難問山積

荷物を行き先に仕分けする江蘇南通のある宅配便会社の集配員(東方IC)
毎年春節(旧正月)が近づくと黄鴬さんのネットショップは書き入れ時を迎える。同時に宅配便も猫の手も借りたい状態になる。ところが宅配便の集配員の大部分は地方から来た農民工のため、旧暦の12月に入ると、彼らの大多数が次々に帰郷し、人手のやりくりがつかなくなる。配達できない大量の小包が宅配便会社に山積みになり、平日は2、3日で配達できるが、その時期になると、「急行」の名に反して「鈍行」になって遅配が発生し、特に春節の10日前ごろは「倉庫破裂」の状況になり、業務は「ショック症状」に陥ってしまう。多くの宅配便会社が荷物の受け付けを断り始め、そうなるとネットショップは閉店を余儀なくされる。こうした状況を見て、中国郵政の主管部門は文書でルール徹底を通達するが、宅配便会社はルールの厳格な遵守を表明するが、人手が足りない状況は変えられず、打つ手がない。春節が近づくと、ネットショップで買い物できなくなったユーザーの苦情がネットに溢れる。同時に、宅配便会社のさまざまな問題点が浮き彫りになってくる。

中国宅配便コンサルティング・ネットワークの首席顧問の徐勇氏は、こうした状況は宅配便の産業化の水準が高くないことの表れだと分析して、「宅配便業界には依然として春節休暇の慣例が残っており、また予備の人員を確保できないなど、ルール化の向上が待たれる」と語っていた。

上海市内を走る中国郵政のトラック(東方IC)
また中国物流業協会常務副会長の李文学氏は、目下のところ、宅配便業界はまだローエンドの競争段階で、長期的な展望に欠けるという認識を示した。中小の宅配便会社は通常の荷物量で人手を手配するが、上流の集荷量が突然増えた場合、下流では配達が追いつかず、「倉庫破裂」の状態は避けがたい、と考えている。

徐氏も同意見だった。彼が言うには、現在の宅配便事業には少なくとも約70万人従事し、その95%が農村出身者、70%以上が中卒で、圧倒的に若い人が多い。しかし利潤が少ないため半数近くの会社が従業員の保険料を負担できず、企業文化を育てることもままならず、長期雇用が難しくなっている。

また、国内の宅配便会社は「小規模、実力不足で経営力が分散し、さらに産業集中度が低く、運営、管理能力が劣り、価格戦争、配達遅れ、荷物紛失の頻発は国の注意を引いた」と、馬軍勝国家郵政局長は述べ、「宅配便業界の合併再編の最終目的は産業配置の最適化と発展モデルの転換を図り、宅配便事業のレベルアップと飛躍的な発展を促進するためだ」と、指摘した。

中国では、宅配便は日の出の勢い産業だが、その業務量はGDP(国内総生産)の0.3%に届かず、先進国が1%規模なのに比べてかなり遅れている。新たなピークを迎えるためには、さまざまの障害を克服しなければならない。

 

人民中国インターネット版 2012年4月5日

 

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