森下卓九段にインタビュー(3)師匠花村九段が、電車を使わなかった驚きのワケとは?

森下卓九段にインタビュー(3)師匠花村九段が、電車を使わなかった驚きのワケとは?

ライター: 相崎修司  更新: 2016年12月16日

今回は、森下卓九段が見た花村元司九段の日常について語っていただきます。ふとした仕草や所作が今の棋士にはない風格というか、独特の雰囲気があったようです。

 ――森下九段が見た花村九段の日常シーンで思い出されるものなどはありますか。

「師匠はよく『棋魂』と色紙に揮毫していました。アマチュアは将棋を楽しみ、プロは魂を込めて将棋を指せ、という意味ですね。色紙に関してですが、師匠が文机で色紙を書いているとき、お茶を頼まれたんです。奥様に注いでいただいたものを机の上に置くと『お茶がひっくり返ったら色紙がダメになる。このような場合は下に置くものだ』と言われたことが印象に残っていますね」

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 ――細かな部分にも気を使われていたのですね。

「色紙の話をもう一つ。師匠の後援会の方が『花村先生はたくさんの色紙を一枚一枚丁寧に書かれますね』と感心されると、師匠は『こちらはたくさん書いても、受け取る側は一枚一枚だから』と。なるほどと、思いました」

 ――他に思い出す師匠の姿はありますか。

「師匠はコーヒーが好きで、喫茶店でコーヒーを頼まれたときの仕草に味がありました。まず砂糖を入れてからかき混ぜる。その後にミルクを入れるんですが、そこでミルクがくるくるとコーヒーカップの中で渦を巻くのがかっこよかったんですよ。観戦記者の湯川博士さんも『花村先生はコーヒーを飲む所作がかっこいい』と書かれていましたね。

 ――普段の服装などはいかがでしょう。和服姿が多かったのでしょうか。

「いえ、師匠は洋服姿が多かったです。自宅のそばのサウナに行くときなどは和装の着流しもありましたが。ただ、師匠はネクタイを結ぶのが苦手でした。一度結んでからは、外すときに、わっかの状態を作ったまま、外していました。そうすると後でもう一度、首を通して締めるだけですからね。和服の帯は見事でしたので、意外といえば意外です」

 ――花村九段は、煙草を吸う姿に味があったという話も聞きました。

「師匠はものすごいヘビースモーカーだったんです。どのくらいかというと、自宅から将棋会館まで、電車で行くと禁煙で耐えられないから、タクシーを使っていたくらいです」

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 ――現在はタクシーも禁煙ですから、時代を感じさせる話ですね。

「ええ。当時の将棋界はたばこの煙がすごくて、私も記録係の時には喫煙姿をよく見ました。今、考えれば副流煙がすごいですよね(笑)。当時の将棋会館は新築でしたから、畳の上にゴザを敷いて、灰が落ちないようにしたんですが、それでも落とす人がいました。吸わない人の方が少数派でして、会館の中が茶色のイメージでした」

 ――ちょっと想像がつきません。

「それだけ吸っていても、盤上に集中しているのがすごいです。煙草をくわえたまま盤上没我になっている師匠は、煙草が燃え尽きそうになっていることに全く気付かれていないんですね。急に『アチチ』と叫んだシーンを見ました。いや、すごい集中力です」

さて、次回は、森下九段から見た花村九段の将棋について語っていただきます。ぜひ次回もご覧ください。

森下卓九段インタビュー

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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