#06 Ferrari 348tb

カーライフ、恥の原点「フェラーリ様に聞いてくれ」──My shameful car life Vol.6

乗り継いできたクルマの数は優に40台を超えるモータージャーナリスト、清水草一が、愛車史を振り返る好評連載の自動車エッセイ。第6回は再びのフェラーリ 348tb。
フェラーリ 348tb|Ferrari 348tb

文・清水草一

フェラーリ 348tb|Ferrari 348tb
ギャラリー:カーライフ、恥の原点「フェラーリ様に聞いてくれ」──My shameful car life Vol.6
Gallery18 Photos
View Gallery

断然ブッチギリ

思えばビビリの多い人生であった。

カーライフにおける最大のビビリ。それは身の丈以上のクルマに乗ることだ。かつ、そのクルマが故障することだろう。

私が人生においてもっともビビッった愛車は、自身最初に買ったフェラーリ 348tbだ。

それはもう断然ブッチギリでビビリまくった。なんせ、身の程知らずにも初めて購入してしまったフェラーリ様であるから、当然だが。

348tbの最初のトラブルは、ルームミラーがポトリと落ちたことだったが、それだけで心臓が止まるかと思うほどビビッったことはすでに記した。

ルームミラーはアロンアルファで再接着すればいいことを知り、ひとつ大人の階段を上ったが、次のトラブルは真剣にショック死寸前だった。

それは、夜間、群馬県内の高速道路を走行中に発生した。

急にクルマが遅くなったのである。突然失速し力がなくなった。

これはどう考えてもエンジントラブル! フェラーリ様がエンジントラブルに見舞われた! フェラーリ初心者にとって、これほどビビる展開はない。

これがRX-7とかフェアレディZなら、JAFを呼んでなんとかしよう等思うところだが、フェラーリ様はJAFもお断りだと聞いていた。牽引できないし直せないしお手上げだと。そりゃそうだろう、なにせ天下のフェラーリ様だ。JAFごときでなんとかなったらフェラーリの名折れである。

私はウルトラビビりながらも、対応策を考えた。そして「とにかく高速を降りよう」と意思決定した。

加速力は大幅にダウンしたものの、幸いにもまだクルマは動いている。動いているうちに次のインターまでたどり着いて、高速道路上でのストップを避ける! 今考えても猛烈に適切な処置であった。

松井田インターで高速を降り、料金所でクラッチを切ると、エンジンは止まってしまったが、セルを回すとなんとか再始動可能であった。

クルマから降りた私は、まず348の様子を観察した。これまた我ながら猛烈に適切な処置であった。

アイドリング状態でもエンジンは動いているが、どうにも音がおかしい。いつもと比べて息遣いが荒く、オクターブが低く弱弱しい。なにか大きなトラブルが起きていることは間違いない。

これはひょっとして、片バンク止まっているのではないか!? V8が直4になっているんじゃないか!?

最強の修理法

私は携帯電話でメカニック氏に電話した。幸いにも携帯電話はすでにこの世に存在しており、大衆化しつつあった。

「あのー、いま群馬なんですが、片バンク死んだんですよ」

「片バンク死にましたか」メカニック氏は恐ろしいほどこともなげな口調だった。「電球が切れましたか」というような。

「どうすりゃいいんでしょうか」

「うーん……。ヒューズじゃないかなあ。ECUのヒューズ切れじゃないかなあ。助手席の足元、開けてみてください」

ヒューズか! フェラーリ様がヒューズ切れ! それで片バンク停止! 実に甘美な響きである。

が、ヒューズはまるっきり切れていなかった。私は大いに落胆した。

でも万一ということもある。ECUコントロールの10アンペアのヒューズを予備のと交換し、あまり期待せずに私はスターターを回した。

クォオオオオオン。

なんと、エンジンは見事に復活した! ヒューズを引っこ抜いて差し込んだだけで、我が348tbのV8エンジンは全気筒息を吹き返したのである。

信じがたいことだが、私はフェラーリ様のエンジントラブルを自分で直してしまった! 切れてないヒューズ交換しただけだけど。

この時私は、フェラーリのトラブルの際は「とりあえず電源を切って再始動」という、最強の修理法を会得したのであった。

え、なんでそんなんで直るのかって? 知るわけねぇだろ! フェラーリ様に聞いてくれ!

フェラーリ 348tb|Ferrari 348tb
ギャラリー:カーライフ、恥の原点「フェラーリ様に聞いてくれ」──My shameful car life Vol.6
Gallery18 Photos
View Gallery