【追記あり】「モラルを疑う」pixiv上のR-18小説を“晒し上げ” 立命館大学の論文が炎上 今後の対応は

    「作者も作品も特定できる形で公開するなんて」と批判殺到。人工知能学会、立命館大学の対応は。

    「pixiv」に投稿された成人向け小説を題材に「有害表現」を分析する研究論文が人工知能学会で発表された。

    論文内では、個別作品のURLや作者名も明示されており「個人を特定できる形で示すのは問題があるのでは?」「本来ゾーニングされているものを取り上げ『有害』と批判的に取り上げるのはどうなのか」など批判が集まっている。

    該当の論文は、立命館大学の研究者が発表した「ドメインにより意味が変化する単語に着目した猥褻な表現のフィルタリング」。

    研究概要には以下のように書かれている。

    Web上に投稿される情報の中には青少年にとって有害な情報,特に猥褻な意味を持つ言葉は直接記述されず暗喩により表現されることが多い。本研究の目的は暗喩を用いて表現されている有害な文に対してフィルタリングを行うことである。

    提案手法では有害表現が含まれる文をドメインごとに機械学習し有害表現の分類器を作り,有害表現をフィルタリングする。提案手法の有用性を評価する実験をR-18指定の小説を使い行った。

    論文は、人工知能が有害サイトのフィルタリングを学ぶ上での足がかりとすることを目的としたもの。

    ある期間に投稿されたピクシブの「R-18」ジャンルの人気小説10作品(うち8作品がBL小説)の表現や内容を分析している。性的な表現をそのまま引用している箇所もある。

    論文PDFは人工知能学会全国大会のWebサイト上に公開され、誰でも閲覧できる状態になっていた(25日朝に非公開化)。

    「モラルを疑う」「ド派手な晒し」

    この論文が、24日深夜から、Twitterを中心に話題に。

    「実名でないとはいえ、個人を特定できる情報を不特定多数に晒すなんてモラルを疑う」「R-18指定しているものを『有害』と批判的に扱われても」など批判が殺到。

    分析対象となった作品の作者の一人は「ド派手な晒しにあった気分」と作品の全体公開を取りやめ、今後の創作活動自体も「このまま続けるか考える」としている。

    寄せられている主な批判としては、以下のようなものがある。

    • 固有のURLと作者名を明記し、個人と作品を特定可能にしていること
    • 本来、18歳以上でないと閲覧できない(ゾーニングされている)小説を「有害表現」として恣意的に取り上げ、不特定多数の目に触れる形で公開していること
    • 作者に無断で研究データとして使用していること(学術的引用として認められるのか)

    というのも、pixivで縦覧可能なコンテンツを「有害情報」として取り扱っている。まずこの時点で誤解を招くし、そもそもこの研究者(立命館の近江龍一、西原陽子、山西良典の3氏)らがそういうレッテルを張る権利自体が本来ない。

    pixivの利用規約では、禁止行為として「本サイト及び関連サイトにアップロードされている投稿作品の情報を、当該著作者(創作者)の同意なくして転載する行為」を明記している。

    研究・教育利用は通常の著作権よりも広く認められており、「学術的引用」の範ちゅうとも捉えられる可能性はあるが、ユーザーの批判の多くは、モラルや倫理に即した部分にも向けられている。

    立命館の論文の問題は"無断で引用"したことじゃなくて"研究対象者のプライバシーと精神に危害を与えたこと"が一番で、その次に"明らかに調査目的に対して適切でないものを調査対象に選んだ上侮辱とも取れる発言をしたこと"だと思うんだよ……研究によって社会の信頼を損なったことになる…

    『小説』が性描写をもって<有害>とされる例が、皆無の現状で、しかも個々人の自己申告のR-18タグによるテキストで、何をしようと、何ができると立命館の人は思ったんでしょうねぇ。公より踏み込んでるやん。


    やおい、BLに関する著書もある社会学者の金田淳子さんは、Twitterで「他者が趣味の範囲で書いたものを実名でなくともその人と特定できる形で了承を得ず公表するのはまずい」「研究倫理的にかなり微妙だと思う」と指摘している。

    立命館大学情報理学部での研究倫理がどうなっているのかよくわからないんですが、他者が趣味の範囲で書いたものを実名でなくともその人と特定できる形で了承を得ず公表するのはまずいと思いますね。商業作品でもできる内容だし。そもそも研究の目的と対象選定がかみあってないと思う。

    これは研究目的にかかわらずですが、特定ホームページや、個人によるSNSの書き込みを研究対象とする研究もいまは多いと思いますが、実名でなくとも、私人について了承なく「そのホームページ」「そのアカウント」だと特定できる形で論文に公表するのは、研究倫理的にかなり微妙だと思います。

    「学術的引用」だから批判に当たらない(むしろ学術的再現性の確保のため匿名化しないのが妥当)と主張するのは可能だと思います。しかし文化人類学的な参与観察について相応の配慮が必要だとされているような意味で、同人誌やインターネット上の私人の言動については慎重であるべきだと私は考えます。

    人工知能学会や立命館大学の見解は? ピクシブの今後の対応は?

    人工知能学会はBuzzFeed Newsの取材に対し、「本学会ならびに本全国大会の幹部で、本件について検討するため、いったん非公開とさせていただきました」と回答。非公開の判断に至った理由なども追加で問い合わせている。

    立命館大学は「現在、事実関係を確認中」。大学としてコメントなどを発表する予定はあるか? という質問には「それも含め、対応は事実関係把握後に検討する」とした。

    論文PDFの削除については、学会や論文著者から大学側に事前に連絡はなかったという。

    ユーザーからは「ピクシブは大学や学会に抗議すべき」という声も上がっている。

    同社にも本件を受けてのコメント、今後の対応などを問い合わせているが、25日午後1時時点で回答は得られていない。

    追記(25日午後5時)

    ピクシブがコメントを発表しました。

    pixivに投稿された作品が論文内にて転載・引用されている件につき、ピクシブ株式会社より論文の発表元である立命館大学に対し、経緯と事実関係の確認および対象ユーザーとの問題解決を要請しております。皆様がより安心してpixivを利用できるよう、引き続き本件への対応を進めてまいります。