AIの飛躍によりプロ棋士は消滅するのか?プロ棋士がAI時代を生きる上で必要なスキルとは

AIの飛躍によりプロ棋士は消滅するのか?プロ棋士がAI時代を生きる上で必要なスキルとは

ライター: 高山こうすけ  更新: 2017年05月19日

佐藤天彦名人とコンピュータ将棋ソフトPONANZAが対局する電王戦二番勝負に巷の注目が集まっている。AIと将棋界の頂点とも言える名人の対戦は頂上決戦と位置づけられているからだ。 この電王戦を挙げるまでもなく、最近、ネットや新聞、テレビなどで「AI」関連の情報を目にしないことはなくなった。『iPhone』などで使われる音声操作アプリ「siri」やお掃除ロボット『ルンバ』など、今や家電やクルマ、ホテルなど我々の生活にも次々と入り込んでいる。大喜利ができるAIなんてものも登場し、その急速な進歩ぶりにはただただ驚かされるばかりだ。

このまま進めばいずれAIが人類を超える未来が訪れるかもしれない。今後さまざまな分野で採り入れられ、より快適でスマートな生活を実現するはずだ。しかしその一方で、AIに雇用が奪われることに危機感を抱く人もいる。これはのんきなことを言っている場合ではない!?

果たして、その真相は?『人工知能と経済の未来』の著者である駒澤大学経済学部准教授の井上智洋さんに話を伺った。

「2030年までには人間同様にさまざまな知的作業をこなすことができるAIが出現し、2045年までに一般に普及、遅くとも2060年には現在あるほとんどの仕事はAIに取って代わられているでしょう。現在ある業種の中で、人間が関わる仕事は現在の約一割ぐらいだと予測しています」

なんと!未来どころの話ではなく、AIに雇用が奪われる時代が、こんなにもすぐ目の前までに差し迫っている!?これはもう打つ手なし?

「知識の詰め込みや計算のスピードではAIにはかないません。そこでAIと差別化できるスキルが必要になってきます。AIにはできない人間性を高めるため、いかに感性を磨いていくことがポイントになります」

井上さんはすべてAIに奪われるわけではないという。本格的なAI時代を生き抜くために「Creativity(創造性)」「Management(経営・管理)」「Hospitality(もてなし)」の3つがキーワードになると指摘する。

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井上智洋『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』(文藝春秋)

よく取り上げられる「消滅する可能性の高い職業」(図参照)は代替可能を意味するランキングでもある。例えば、バーで美味しいカクテルを出すならAIでもできるが、それ"だけ"では人気のバーテンダーにはなれない。客を和ませたり盛り上げたり、時には悩みを聞き、良いアドバイスができるなど、客の心をつかむワザが必要ではないか。重要なのは、他人との感覚との通有性を持つ、コミュニケーション能力に長けた「人間性」だ。この点はAIではなかなか解決できないと井上さんは指摘する。

消滅する可能性の高い職業

職種 (%)
スーパーなどのレジ係 97
レストランのコック 96
受付係 96
弁護士助手 94
ホテルのフロント係 94
ウェイター・ウェイトレス 94
会計士・会計監査役 94
セールスマン 92
保険の販売代理店員 92
ツアーガイド 91
タクシーの運転手 89
バスの運転手 89
不動産の販売代理店員 86
警備員 84
漁師 83
理髪師 80
皿洗い 77
バーテンダー 77

出典 : 井上智洋「人工知能に奪われる職業 30年後に働けるのは人口の1割」(『週刊エコノミスト 2015年 10/6号』)

では気になる棋士という職業はどうだろう?

「圧倒的に強いソフトは登場するでしょうね。しかし『強い』ことと『面白い』ことは異なります。プロ顔負けの将棋ソフトがあって、圧勝したとしても観戦する人には何も残らない。しかし人間は違います。将棋の対局においても少なからず勝てばほっとするし、負ければ悔しがる。この喜怒哀楽こそが人間の大きな魅力です。そのために、人間もこれからは単に勝ち負けだけではなく、これまで以上に『魅せる』将棋、対局が重要になってくる。わたしは将棋自体がなくなるとは考えていません。AIにはまねのできない、よりドラマチックな対局が見たいですね」

さて、電王戦は5月20日に姫路城で行われる対局を持って最終戦となる。それが今後の将棋界にとってどう影響するのかはわからない。しかし、人間ならではの「強み」や、ある意味「弱さ」を身につけていくことが、より重要になる事は間違いないだろう。人間性、タレント性こそが、AI時代を生きる上で最も必要なスキルなのかも。

取材協力井上智洋

駒澤大学経済学部准教授。博士(経済学)。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2011年に早稲田大学大学院経済学研究科で博士号を取得。早稲田大学政治経済学部助教、駒澤大学経済学部講師を経て、2017年より同大学准教授。専門はマクロ経済学。最近は人工知能が経済に与える影響について論じることが多い。AI社会論研究会共同発起人。著書に『新しいJavaの教科書』『人工知能と経済の未来』『ヘリコプターマネー』などがある。
高山こうすけ

ライター高山こうすけ

大の本好きが高じて、アウトドア雑誌からやビジネス情報誌、女性ファッション誌などで執筆中のライター。好奇心を抱くことはライターの基本と、取材・執筆のテーマは日本古来の伝統文化から、AIといった最先端技術まで幅広くカバー。将棋については小学校低学年に父から習い、学校の将棋クラブに在籍経験あり。対局歴は豊富ながら腕前は、からきし弱い。

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