『アラビアの女王 愛と宿命の日々』
『フィッツカラルド』『アギーレ/神の怒り』など、強い個性の人物、驚異の大自然を撮るドイツの監督ウェルナー・ヘルツォークが中東の砂漠へカメラを持ち込み、“アラビアの女王”と呼ばれた英国女性ガートルード・ベルの人生を描く。
オクスフォード大学を卒業、ヴィクトリア朝末期の古めかしいモラルに縛られた窮屈な上流階級の生活を逃れ、テヘラン駐在公使の叔父を頼ってアラビアの地を訪れたのがガートルード(ニコール・キッドマン)。美しい砂漠で自由を満喫、大使館の三等書記官ヘンリー・ガドガン(ジェームズ・フランコ)からペルシャ語を学びながら恋に落ちたが父は結婚を認めなかった。その間にガドガンが亡くなる、という不幸を経験。ここであらためてアラビアの地を訪れ、妻のいるトルコ副領事で、のちのエチオピア総領事リチャード・ダウティー=ワイリー(ダミアン・ルイス)と親しくなりながら忠実な召使を伴ってベドウィン族の暮らす砂漠へ旅立った。
こうして国境線を持たず、砂漠で自由に生きる人々の現状を自分の目で確かめ、さまざまな部族の長との出会いで彼らの信頼を得たガートルードは、好奇心に導かれて未知の自然とそこに生きる人々を愛し、彼らのために生きた。見ていて胸のすく思いを味わいつつ、このドラマに登場する『アラビアのロレンス』の主人公、T・E・ロレンス(ロバート・パティンソン)が彼女に比べると案外普通の男だったと思わせてくれるのが興味深い。ヘルツォークにとっては初の女性が主人公の映画。本作を撮ることで彼は女性の魅力をやっと発見した?ちょっと遅すぎると思うけど……。
『アラビアの女王 愛と宿命の日々』
2017年1月21日公開
ギャガ・プラス配給
Sachiko Watanabe