国内では販売が認められていない乳児向けの「液体ミルク」について、政府が解禁を検討していると報じられた。業界団体に安全確認の試験実施を求めた上で、2017年度以降、必要なデータなどがそろえば食品衛生法に関する厚生労働省令などを改正する方針だ。

そもそもなぜこれまで液体ミルクは認められてこなかったのだろうか。

これまで液体ミルクは想定していなかった

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(写真=PIXTA)

今回見直されることになった直接のきっかけは、熊本地震だ。日本フィンランド友好議員連盟を通じフィンランドから約5000パックが届けられたことで、厚労省は特例として救援物資としての配布を認めたのだ。ここから災害時だけでなく、育児の負担も減らせるという利点が見直された。

これまで日本では粉ミルクが主流で、法の壁や安全性への懸念から、商品化されていなかった。日本では乳児用乳製品の規格を定めるのは厚労省令だ。食品衛生法による乳製品に関する省令によれば、乳児用を指す「調製粉乳」の定義を「生乳や牛乳などを主要原料とし乳幼児に必要な栄養素を加え”粉末状”にしたものと表記している。消費者庁通知などでも「粉末状」といった粉ミルクを前提にした文言が使われていたに過ぎず、これまでは液体ミルクは想定していなかった。

欧米で広く普及している液体ミルク

粉ミルクは熱湯で溶かした後、乳児が飲みやすい常温まで冷ますのが一般的な使い方だ。しかしこれでは、外出時にお湯がなければ不便だし、準備に時間もかかる。夜泣きする乳児に与える場合でもお母さんの負担が大きかったと言える。

しかし欧米で広く普及している液体ミルクは、ペットボトルなどに乳首型の吸い口を装着するだけで使える。封を開ければすぐに飲ませられるのが特徴だ。これなら「男性の育児参加にもつながる」という期待も後押ししている。

それに液体ミルクは栄養成分を調整してあることから粉ミルクと変わりはなく、開封すればすぐ飲める、水(温水)がいらない、常温で保管できる、密封されているので衛生的、長期保存できる、手軽に持ち運べる‐‐など粉ミルクにない特長が沢山あるのだ。

小池百合子都知事も液体ミルクの普及方針を示している

なぜ日本ではこれまで液体ミルクを作られなかったのか。その理由をメーカーの公式サイトを見ると、現在の法律では液状の育児用ミルクは「乳児用ミルク」として規格基準が設けられていないからのようだ。

やはり法律の根拠がないためということなのだ。

しかしメーカー側は、液状ミルクは簡便性や災害時対応では利点が認められていることから今後も検討を継続するとしている。お湯をわかす必要も消毒する手間も少ない乳児用液体ミルク。小池百合子都知事も液体ミルクの普及を都として進める方針を示している。

悩みは高コスト

しかし問題がないかと言えばそうでもなさそうだ。理由の一つがコスト面も高さだ。メーカーでは技術面では問題なく製造できるのだが、製造原価だけで粉ミルクの2倍かかり、流通コストなどを加えると3倍になるという。

大手乳業メーカーからすれば利益の低い液体ミルクを製造しないのは当然である。そうなると乳業メーカーの使命感によるところが大となるし、国民の意識が高まっているので国家予算を投じる考えも出て来るかも知れない。

厚生労働相では液体ミルクの製造や販売を反対したり禁止したりしている訳ではなく、メーカーからの要請がなければ法の整備が整わないというわけだ。したがってメーカー側の液体ミルク市場への積極的進出が普及の鍵となるのである。

安全性への評価はどちらが高い

液体ミルクは、無菌充填製法という特殊技術で製造されており、衛生的だ。乳児用液体ミルクを短い時間で高温滅菌しさらに短時間で冷やすのである。そのことで味は損なわれず、おいしいまま飲めるということだそうだ。

むしろ粉ミルクは無菌状態にするのは難しく、液体ミルクのほうが安全性は高いそうだ。それに衛生的なミルクを作るには、清潔な水を70度以上のお湯で調乳する必要がある。だが常に衛生的な状態を作り出せるとは限らない。

ちなみにWHO(世界保健機構)とFAO(国連食料農業機関)が定める人工乳の調乳ガイドラインでは、粉ミルクよりも液体ミルクが推奨されている。しかし日本で液体ミルクを手に入れるには、海外で製造されたものを輸入するしかない。

日本でなじみのない液体ミルクだが、米国などでは一般のスーパーや薬局で売られている。英国では病院でも出産直後に液体ミルクがごく普通に与えられているという。安全ですぐ飲める液体ミルクを与えることは海外では普通のことだったとは、今さらながら驚きである。(ZUU online 編集部)

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