LIFESTYLE / Culture & Life

大人が読むべき、“SF(すこし・ふしぎ)”な少女マンガ7冊。

今、「SF(すこし・ふしぎ)」な少女マンガがじわじわキテる!? VOGUEウェブサイトで人気のコラム連載「BOOK HOLIC」を手がける「BACH」の代表・幅允孝氏が、マンガ賞を受賞したホットな新作から「なつかしい!」と感じるあの名作まで、独創的なSF作品をセレクトしてくれました。マンガ好きも、そうでない人もきっとハマってしまうはず。

BACH代表 幅さんが厳選した「SF(すこし・ふしぎ)」な7作品。

1.『25時のバカンス』
人と異形の織りなす美しい物語。

2.『ひきだしにテラリウム』
藤子・F・不二雄の「SF(すこし・ふしぎ)」を受け継いだ一冊。

3.『22XX』
愛と食のSFストーリー。

4.『プライム・ローズ』
手塚治虫の偏愛がここに。

5.『ウは宇宙船のウ』
レイ・ブラッドベリの入門書としておすすめ。

6.『ダークグリーン』
夢の世界で展開する「人間」と「災い」の戦い。

7.『アンダー』
直球のSF作品を少女漫画で。

『25時のバカンス』人と異形の織りなす美しい物語。

宇宙と同じように、多くの謎を抱えていると言われている深海世界。表題作の『25時のバカンス』では、深海1,000mから発見された貝に身体を侵された姉と、事故によって赤目となってしまったカメラマンの弟の、不思議な兄弟関係が描かれていきます。光と影の表現、切り取る場面の構図など、シンプルな筆致ながら細部にまでこだわった1コマ1コマには繊細な美しさが宿っているのだけれど、不意に差し込まれるジョークにも思わずくすりと笑ってしまう。「人」と「人でないもの」の邂逅(かいこう)を描いた三編は、どこか遠くの不思議な世界に僕らを連れていってくれます。

『25時のバカンス』
市川春子
(アフタヌーンKC)
http://www.amazon.co.jp/

『ひきだしにテラリウム』藤子・F・不二雄の「SF(すこし・ふしぎ)」をしっかりと受け継いでいます。

『このマンガがすごい!2016』に続き、種々のマンガ賞でその名を見かけるようになった久井諒子。彼女の生み出す「すこし・ふしぎ」な世界観に、多くの人が虜となっているようです。本書は33の物語が収録された短編集なのですが、その短さから生まれる広大な世界観がたまらない。様々な視点を行き来しつつ、時には1つの作品に異なる画風を同居させながら、独特な物語を紡いでいく本書。まずは、飼い猫のように人間の女の子を散歩させる「春陽」から読んでみてはいかがでしょうか。

『ひきだしにテラリウム』
久井諒子
(イースト・プレス)
http://www.amazon.co.jp/

『22XX』愛と食のSF。

同性愛、クローン、カニバリズムなど、清水玲子という漫画家は常にギリギリのテーマを攻めていく作家です。今作の主人公は、人間とそっくりの姿形を持つロボットのジャック。機械でありながら人間と同じように食欲を持ってしまう彼は、そのことによってかつての相棒を失ったことへの罪悪感を抱えながら生きていました。そんな彼がジャングルの中で出会ったのは、フォトゥリス人の女の子。彼女たちは、食事について独特の習性を持っていました。自分以外の命を取り込み、それを自身の一部にするということ。近未来的な世界を下敷きに、「食べること」の意味を問い直してきます。

『22XX』
清水 玲子
(白泉社文庫)
http://www.amazon.co.jp/

『プライム・ローズ』手塚治虫の偏愛がここに。

「手塚治虫は萌えマンガの生みの親だ」という説が唱えられるほど、確かに彼の作品には中性的で美しい少年少女たちが登場します。この『プライム・ローズ』もまた、おてんばな少女戦士が活躍するSF冒険活劇。好戦的なグロマン国がククリット国を支配する世界、主人公のエミヤは剣の腕を磨きながら国家転覆を図ります。自由奔放なエミヤに翻弄されるかのように、物語も急展開の連続。描きたいものを描きたいだけ詰め込んだ、手塚の愛とロマンが凝縮された作品です。個人的には隠れた名作だと思っています。

『プライム・ローズ』全2巻
手塚治虫
(手塚治虫文庫全集)
http://www.amazon.co.jp/

『ウは宇宙船のウ』レイ・ブラッドベリの入門書としてもぜひ。

アメリカのSFを語る上では欠かせない、小説家・詩人のレイ・ブラッドベリ。本作はブラッドベリの同名の短編やその他の物語を、彼をリスペクトする少女漫画の萩尾望都がコミカライズした短編集。原作の魅力を引き継ぎつつ、萩尾の持ち味である儚く詩的な作品世界を作り出すことにも成功しています。宇宙へ憧れる少年たちのみずみずしい胸の高鳴りを描いた表題作や、幼い頃に海にさらわれた少女を想い続ける「みずうみ」など、未来であろうと異世界であろうと、そこで描かれるのはあくまで人間だというのは変わらないのですね。

『ウは宇宙船のウ』
萩尾望都
(小学館文庫)
http://www.amazon.co.jp/

『ダークグリーン』夢の世界で展開する「人間」と「災い」の戦い。

世界中の人々が「R-ドリーム」と呼ばれる共通の夢の世界に入り込んでしまった社会。主人公の美大浪人生の北斗も、気づけば「R-ドリーム」の世界に入り“戦士ホクト”として闘う日々を送り始めます。本作は軍隊の登場といったハードな内容から「少女漫画らしくない」と一度は打ち切りの危機に陥るものの、冒険色の強かった別の少女漫画誌への移籍を直談判することで何とか継続に。当時はまだ馴染みのなかった“環境問題”というテーマを取り上げつつ、ついには単行本10巻(文庫版で5巻)というボリュームで展開する壮大なSFファンタジーを書き上げました。

『ダークグリーン』全5巻
佐々木淳子
(MF文庫)
http://www.amazon.co.jp/

『アンダー』直球のSFを少女漫画で。

カルト的な人気を博す漫画家、森脇真末味にとって唯一のSF長編物語となる本作。未来の地球を彷彿とさせるような舞台を軸に、全1巻にギュッと詰め込まれた豊富なSF的ガジェットがたまりません。血の繋がらない兄妹、サラエとノヴァの関係性と街で頻発する謎の殺人事件を描くSCENE1と、研究者としてうだつの上がらない生活を送っていたケイ・マキナニーが、ルシファーと語る謎のコンピューターに出会うSCENE2。別々に進行を始める2つのストーリーは、物語が進むにつれて文字通り時空を超えて折り重なっていきます。

『アンダー』
森脇真末味
(早川文庫)
http://www.amazon.co.jp/

Photos: Shinsuke Kojima Text: Yoshitaka Haba(Bach) Editor: Mayumi Numao