2016年1月19日、丸紅がロケット開発ベンチャーのインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)と業務提携するニュースが流れた。「日経ビジネス」1月25日号のスペシャルリポート「超小型衛星打ち上げで価格破壊 ホリエ流ロケットビジネスの勝算」でも、ISTと丸紅の業務提携を報じた。

左からIST創業者の堀江貴文氏、同社社長の稲川貴大氏、ISTと丸紅を結びつけることに貢献した大出整氏(写真:的野 弘路)
左からIST創業者の堀江貴文氏、同社社長の稲川貴大氏、ISTと丸紅を結びつけることに貢献した大出整氏(写真:的野 弘路)

 記事タイトルを見ても分かる通り、ISTは堀江貴文氏(43歳)らが2013年に設立したベンチャー企業だ。重量50kg以下の超小型人工衛星の打ち上げに特化した小型ロケットを開発している。高度100kmに上がって落ちるサブオービタル(準軌道)用ロケットの開発は既にメドが立っており、年内にも量産工場を大樹町で稼働させる予定だ。丸紅は、ISTに開発費を提供する代わりに新株予約権を取得し、商用化の際は営業を担当することになっている。

 設立してまだ3年足らずの小さなベンチャー企業と大手商社のタッグ。一見すると不釣合いの業務提携は、いかにして生まれたのか。そこには、後に丸紅を辞めて米国シリコンバレーに渡った元社員の存在があった。現在はシリコンバレーでベンチャー企業の立ち上げ準備を進めている大出整氏(36歳)だ。

衛星の開発スピードにロケットがついていけていない

 大出氏がロケット打ち上げビジネスに興味を持ち始めたのは、丸紅の航空宇宙関連部門の営業を担当していた2014年初夏のことだ。ある勉強会に出席した時、人工衛星の小型化と開発・製造における低価格化が急速に進んでいることを知った。

 一方で、衛星を打ち上げるロケットの小型化や低価格化は進んでいなかった。企業などが小型衛星を開発して打ち上げる場合、政府機関などが打ち上げる巨大ロケットの空いたスペースを“間借り”するしかない。打ち上げの日取りもロケットが向かう軌道も選べないうえ、打ち上げ費用に5億~数十億円が必要というのが現状だった。

 せっかく小型衛星を低価格で開発できても、打ち上げに莫大な費用がかかっては意味がない。「この格差は必ずビジネスになる」。大出氏はこの時、そう直感したという。

 さっそく市場調査を始めたところ、超小型衛星を打ち上げる小型・格安ロケットを開発する企業が日本にあることを知った。それがISTだった。大出氏は創業者である堀江氏に連絡を取った。と言ってもツテはなかったため、facebookのメッセージ機能を使って話をしたい旨を伝えた。

 すると、すぐに堀江氏から返信があった。「ぜひ会いましょう」。2014年6月のことだった。

 2人は都内で会い、宇宙産業の今後を語り合った。衛星とロケットの関係は、パソコンなどのハードウエア上で様々な役割を担うソフトウエアの関係に似ている。衛星というソフトがどんどん進化しているのに、その進化にロケットというハードが追いついていない。これからはハードの進化が急速に進んでいくはずだ。今は多くの人が信じないかもしれないが、ロケット事業は直に大きなビジネスになる――。

 そんな時代が来た時に、商社の役割が重要になってくると大出氏は考えていた。ISTは、2005年頃からロケット好きの有志が集まって小型ロケットの開発を始めた、いわば「職人集団」。ロケット開発には長けていても、それを大きなビジネスにつなぐとなれば話は別だ。「ロケット開発に優れた職人集団と幅広い販売網を持つ商社が協業したら、面白いことができる。大将(堀江氏の呼び名)とこの点ですぐに意気投合した」(大出氏)。

上司を巻き込み社内に仲間を作る

 それからは、ISTの稲川貴大社長(28歳)も議論に加わり、3人で協力しながらビジネスモデルを構築していった。丸紅の上司を動かすにはまず、事業性の高いビジネスモデルと実行性の高いプランが必要になる。3人は、欧米諸国の競合他社に足を運ぶなど宇宙産業の現状を調査。それと並行して大出氏は、上司を誘って大樹町のIST工場へ行き、ISTの技術力の高さを知ってもらうように努力した。すると、上司が次第に興味を持ち始めたという。

 「上司の一人は東京大学の理系出身で宇宙工学に素養のある人だった。もう一人は産業機械を担当していた人だったので、ISTの工場に置かれていた旋盤などの機械を見て驚いたようだった。『ちゃんとしたモノ作りをしている』と」(大出氏)

ISTはロケットエンジンを自社開発している。写真は大樹町での燃焼実験の様子
ISTはロケットエンジンを自社開発している。写真は大樹町での燃焼実験の様子

 「社内に応援団ができた」(大出氏)ことで、丸紅社内でISTと積極的に協力していこうという動きが生まれた。それを受け、ISTの稲川社長が丸紅にビジネスプランを持っていき、数回にわたってプレゼンテーションをしたという。その結果が、2016年1月19日に発表された業務提携に結びついた。

 大出氏は2015年4月、自らのベンチャー企業を立ち上げるため丸紅を退職、シリコンバレーに渡った。しかし、その後も堀江氏や稲川社長、丸紅の後任担当者と連絡を取りながら、連携を見守っているという。

大手と中小の連携で重要な役割を果たす「カタリスト」

 宇宙関連ベンチャーと商社がタッグを組む事例は他にもある。三井物産は2015年9月、超小型衛星を開発するアクセルスペース(東京千代田区)に対して、スカパーJSATと合計で約6億円を出資すると発表した。三井物産はアクセルスペースから衛星画像などを入手し、農業やエネルギー分野の自社事業に役立てるという。例えば農業分野では、衛星から送られてくる画像データを土壌の分析や植物の発育状況の監視などに使う。

 商社やメーカーなどの大手企業がベンチャー企業に投資する事例はこれまでにも多くあった。しかし今後は丸紅とIST、三井物産とアクセルスペースの事例のように、金銭的な関係だけではなく、両社のビジネスに相乗効果が期待できる連携が増えていくと考えられる。その時、大出氏のように、両社の橋渡しを担う「カタリスト」(触媒になる人物)の存在が重要な役割を果たす。ISTと丸紅のタッグは、その点でも参考になる事例だ。

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