1/31は誘われたら断らないよシリーズでV系バンドDIAURA@中野サンプラザ
前から音源はちょこちょこ聴いていて、若手の中では歌も演奏もしっかりしているし、録音もすごく高品質で、本人たち及びスタッフの本気が否応なしに伝わってくる音だったので、一度生で観たかったところにお誘いがかかったのでそりゃほいほいと。

結論としてはものすごくいいバンド。yo-kaくんの歌はCD以上で、どことなく歌謡曲を感じさせるいい意味の下世話さも持っているし、演奏も間違いない。音源ではそれなりにシーケンスを多用しているのにライブでは完全に3人の演奏が前に出る音のバランスでかましておりまして、これ自信なきゃできないと思います。
若手の中では図抜けているという話をあちこちで聞きますが、こりゃ間違いないなあと。

ただ、本人たちとは別に気になることがありまして。

V系のライブは概ね曲毎に決まった振付というのがありまして、まあ振付と言ってもアイドルのオタ芸と同様、ある程度決まった振りの組み合わせではあるのですが。ヘッドバンギングであったり、ケチャ的なポーズの「捧げ」であったり、両手を頭上で開く「咲く」と言われるポーズであったりそのアレンジであったり。

これまでもV系のライブは何度か観ていますので、まあおなじみですなあと思いつつ観ていたのですが、今回何かちょっとこれまでと様子が違うんです。振付がおよそ決まっている曲はいいんです。みんなが揃ってその振付をする。ただ新曲等まだ振付が浸透していない曲やサビには振りがあるけどAメロにはないという曲の時、私から見える限り過半数の子が微動だにしないんです。全く。

スローな曲ならそれもわかるけれど、どれだけビートの効いた曲でも、体でリズムを取ることすらしない、本当にピクリとも動かずただステージ上を凝視しているだけという子が掛け値なしの過半数。ひとりだけ実に自由に踊って楽しんでいる子がいたのですが、彼女も別に派手なことしてたわけでなく、他のライブであれば普通にみんながしているようなレベルで。その子が異様に目立っている時点でこれはおかしいぞ、と。

そしてMCでyo-kaくんがどれだけMCで感動的なことを言っても、拍手も歓声も起きない。もちろん彼が「いいな!」とか求めればうわっと声は返ってくるのだけど。アンコールも終わってSEの中メンバーが一人ずつ去っていく演出の際にも拍手も歓声もない。確かにSE鳴ってる時の拍手とかってタイミング考えちゃうこともあるけど、最後まで本当に何もない。でも終演後スクリーンで新譜や次のツアーの告知が出ると大歓声。

結果として、曲中は盛り上がっているように見えるのだけど、ライブ全体の流れを通しての盛り上がりであるとか、ライブが進むにつれて場全体がアガっていく昂揚感的な感覚が皆無なのです。
多分メンバーもそれは自覚しているようで、yo-kaくんも会場のみんなに感謝の言葉を述べつつも「もっと自由に楽しめばいいいんだよ」的なニュアンスの言葉を挿し込んでいるのですが、状況は最後まで変わらず。

当の女の子たちはどうなのと思って終演後会場を出ると、サンプラザ前の広場は紅潮した笑顔ばかりで。彼女たちの多くは楽しんでいなかったわけではない。

こりゃ何なのだろうと、終演後中野の中野っぽい居酒屋で銀ダラ食いながら考えた仮説。
彼女たちはとても真面目ないい子たちで、そして少しだけ臆病なのかな、と。

V系のみならずミュージシャンやアイドル、ネット上にファンコミュニティがあるのがもはや当たり前の状況ではありますが、その中の一部には「悪目立ちする人を告発・糾弾する」役割を担ってしまっている場所もあると聞きます。DIAURAのファンコミはそういう場ではないと信じていますが、それでもよそのそういう話を聞きつけて「あまり目立つと叩かれる」という認識を持ってしまうのはこれ仕方ないことでもあり。もしくは「叩かれる」というよりは「目立つようなことをしてしまうと周りに迷惑かかるかも」という優しさなのかもしれません。ただその優しさの集積が同調圧力的に場にそういうバイアスをかけてしまっている、そのような状況ではないかとも思います。

そして、DIAURAは若いバンドですから、ファンの子たちも若いです。初めてのライブがDIAURAでそこからずっとDIAURAメインで追ってますみたいな子も多いでしょう。であれば「そういう場が当たり前」であり、何の疑問もなくそこにそうやっているのであろう、とも。

でも、友だちに誘われて曲毎の振付もきちんと覚えきれない状態でライブに行き、そういう場であったとしたら、心から楽しかった!と思えるのだろうか、また来たい!と言えるのだろうかと。

数年前まではV系バンドの中で頭一つ抜ければ大箱まですぽんと行くバンドがそれなりにいたはずなのに、DIAURAはあれだけの音出しているのにまだ中野サンプラザ(2200人)レベル。正直感覚ベースとして、数年前までと比べると現在のV系はジャンル自体の勢いが停滞気味ではあるのですが、でもこのバンドが更に上に行こうとしたら、これはもう、バンドもファンの子たちも一緒に越えなければいけない壁です。国際フォーラムとか武道館とかの「上の空間」が広い大箱は、その「場全体の昂揚感」がなかったら相当辛い空気になりますし。

バンドのパフォーマンスは素晴らしい。ファンの子たちも何も悪いことをしているわけではない。だからこそ根深い問題ではあるのだけれど。

ライブは迷惑をかけてはいけない場所なのではなくて、みんなが自由に楽しく過ごしてその分みんなに少しだけ迷惑かけて、でもみんなそうだからあいこだよね、という場だと思っています。もう少しはじけてもう少しアホになれて、yo-kaくんが言うように本当に狂っちゃえて、みんながもっとライブを楽しく過ごせるようになればいいなと、心から思います。ライブ、楽しいもの。


ちなみにおっさんが史上最高にアガったライブは、もう四半世紀前、大阪の小さなライブハウスで行われたアメリカの轟音系ギターバンドDinosaur Jr.の初来日公演。
もう開演前から殺伐とした、殺るか殺られるかみたいな空気に包まれ、案の定開演してギター音爆裂した途端最前付近も爆裂。そのうち一人はどう心の火が付いたのかわかりませんが、その場で手を広げてグルグル回転し始め、周りの人間をなぎ倒し始めます。自分も眼鏡が吹っ飛び鼻血が垂れ、周囲の被害者と総出でそいつを押さえ付けたと思ったら、今度は向こうの方で別の誰かが大暴れを開始。
さすがに主催者飛び出てきて「これ以上騒ぎが大きくなったら公演を中止せざるを得ません」みたいなこと言い出した途端、それまで好き勝手やっていた客の心がその時だけひとつになって「帰れ!ハゲ!」の大合唱。ハゲが涙目で退場して演奏再開された途端さっきの一体感はどこへやら、また個々人好き勝手再開。あちこちで布が裂けるような音や「痛い!」という悲鳴、「靴が…」という悲しそうな声が響く中、無事公演は最後まで遂行されました。途中のそれ以外のことは、何だか熱くなっていたこと以外あんまり覚えていません。
終演後眼鏡を探したところ、隅っこの方にフレームだけがくちゃくちゃになった状態で発見されました。

こういうのはダメな例です。主催者の言うことはちゃんと聞きましょう。あと、他人を「ハゲ」と罵ると、月日が経って自分の頭髪が怪しくなってきたときに悲しくなるのでやめましょう。


<追記>
もちろん、今で十分楽しいという方はそれでOKだと思います。他の現場にも「地蔵」と呼ばれる動かない方々いらっしゃいますし、彼らが楽しくないということではないということも知っています。
ただ、会場のレスポンスがよくて演者がより張り切り、そしたらレスポンスがもっとよくなってそれを受けて演者もさらによくなっていくという正の連鎖の結果、とんでもなく素晴らしいライブになりました、という現場を何度も見ているので、それに近づけたらバンドもファンもまた新しいものを見られるんじゃないかと。