アングル:チベットのために、4児の母が選んだ焼身自殺

アングル:チベットのために、4児の母が選んだ焼身自殺
6月6日、4児の母親であるチベット人女性のカルキさん(写真右から2番目)は、自らの体にガソリンを浴びせ、マッチで火を付けた。炎は瞬く間に全身を覆い、カルキさんは帰らぬ人となった。写真はVoice of Tibet提供(2013年 ロイター)
[バルマ(中国) 6日 ロイター] - 今年3月、チベット人女性のカルキさん(30)は、中国四川省のチベット族自治州バルマの僧院に頻繁に訪れるようになった。細身で頬が赤らんだカルキさんは、4児の母親で敬けんなチベット仏教徒だ。
肌寒い3月24日の午後、カルキさんは200─300人の参拝者とともに僧院の門の外に立っていた。その後、自らの体にガソリンを浴びせ、マッチで火を付けた。炎は瞬く間に全身を覆い、カルキさんは帰らぬ人となった。
その時、カルキさんは言葉を叫んだが、誰も聞き取ることはできなかった。目撃者の話では、カルキさんが死亡するまで15分もかからなかったという。
カルキさんは、この1年間で焼身自殺を図った9人目のチベット人の母親となった。2009年以来、少なくともチベット人117人が、中国政府のチベット政策に抗議して焼身自殺を図り、収束する兆候は見られていない。
焼身自殺を図ったうちの90人以上が死に至っており、最近では5月29日に青海省で死者が出た。カルキさんは、バルマのあるンガバ県では39人目の焼身自殺者となった。チベット人が多数を占める同県は、2012年から劇的に増加した焼身自殺の中心地だ。
<怒り>
チベット人による焼身自殺がもたらす最終的な影響は予測不能と言える。中国政府は、国内外のメディアの報道を規制しているため、焼身自殺の増加の報道は限定されている。
ただ、焼身自殺は今や僧侶から一般市民にも広がっており、カルキさんの死は、中国政府への抗議が新たな段階に到達したことを浮き彫りにした。
ロイターの記者はバルマに入り、カルキさんの死を確認。これより以前に外国人記者がバルマを訪れたことはなかった。
チベットの専門家は、2012年1月に20歳の学生が射殺されたことが、バルマで広がった焼身自殺の発端となった可能性を指摘。チベット支援団体によると、この学生は中国の治安部隊がデモ隊に発砲した際に死亡した。
焼身自殺の実態を追っているチベット人作家のツェリン・オーセル氏は、学生射殺事件がターニングポイントととなったと説明。事件後、バルマだけでも6人が自殺した。
同氏は「これらのチベット人地区に平穏はない。それぞれの場所は、導火線の付いたダイナマイトそのものだ」と表現。「それが点火すれば、怒りが爆発していく」とチベット人が置かれた現状を打ち明けた。
<敬意>
1歳から10歳までの子どもが4人いたカルキさんは自殺前、以前より信仰に力を入れている様子はうかがえたが、政治的な側面は垣間見えなかった。近親の1人は「自らに火を放つなど思いもよらなかった」と悔やんだ。
この親族は、命を犠牲にするというカルキさんの決断は、チベット社会に敬意を表するためだったと話す。「彼女は学校にも行かなかった。だから、これが彼女のチベットのためにできる唯一の方法だと考えたのではないか」
「彼女が焼身自殺したすぐ後は、悲しくてたまらなかった。ただ、若い女性でさえ、こんなにも大きなことのために、すなわちチベットのために命を犠牲にすることができたことを嬉しく思うようにしている」
中国政府の警告にもかかわらず、焼身自殺は続いている。
カルキさんの死後から1カ月もたたないうちに、20歳の女性Chugtsoさんが自宅から同じ僧院に向かった。4月16日午後3時ごろ、Chugtsoさんは焼身自殺を図り、カルキさんとほぼ同じ場所で死亡した。
Chugtsoさんは3歳の息子を持つ1児の母親だった。
(原文執筆:Sui-Lee Wee記者、翻訳:野村宏之、編集:梅川崇)

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